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A003 ~演習で学ぶ有機反応機構解説~

『演習で学ぶ有機反応機構―大学院入試から最先端まで』の解説部分を見ながら、『電子はマイナスからプラスに動く』の考え方に基づき、反応機構の流れを見ていきましょう。

この問題には2つの解答が用意されていますが、私は上の解答の方が正しいと思っているので、上の解答に従って解説していきます

この問題は、塩化チオニルを用いてカルボン酸を酸塩化物に変換する反応です。

塩化チオニル中の硫黄原子は、電気陰性度の高い酸素および塩素から電子を引かれるため、かなりプラスを帯びています
すると、マイナスがあまり強くなく (カルボン酸のマイナスが強くない理由については A001参照)、普段は求核剤として働くことの少ないカルボン酸でも、塩化チオニルに対しては求核剤として働くようになります。

カルボン酸から求核攻撃を受けた塩化チオニルは塩化物イオンを脱離させることで、酸素と結合を形成します。
ここで脱離した塩化物イオンはマイナスに帯電しているため、プロトン化されプラスを強く帯びた中間体のカルボニル炭素に求核攻撃します。

これにより生じた四面体中間体は不安定であるため、水酸基の酸素上にある電子の押し込みを受けながら、二酸化硫黄と塩化物イオンが脱離することで、酸塩化物が生成します。
ここで脱離した二酸化硫黄は気体であり、反応系から除かれていくので(実際にこの反応をするとブクブク泡立ちます。)、この脱離過程が不可逆となり、酸塩化物がどんどん生成してくるというわけです。

~ 重要ポイント ~

・塩化チオニル中の硫黄原子は、電気陰性度の高い酸素および塩素から電子を引かれるため、かなりプラスを帯びている。
・塩化チオニルを用いたカルボン酸の酸塩化物への変換反応では、二酸化硫黄の脱離が不可逆過程である。

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