A013 ~演習で学ぶ有機反応機構解説~
お久しぶりです。
前回からだいぶ期間が空いてしまいましたが、 論文の投稿も完了し、一安心といったところで、 本日から有機反応機構の解説を再開していきたいと思います。
再開初回の反応はA013のマンニッヒ反応です。
それでは、『演習で学ぶ有機反応機構一大学院入試から最先端まで』の解説部分を見なが 『電子はマイナスからプラスに動く』の考え方に基づき、反応機構の流れを見ていきまし ょう。
最初の段階はアルデヒドとアミンによるイミン形成ですね。
イミン形成については、ストレッカーアミノ酸合成 (A011) のところで解説しました。
有機化学においては、全ての反応を丸暗記する必要はありません。
最終目的物の全く異なる反応でも、部分的に見たら共通している点がたくさんあります。
あくまで体系的に、化合物の振る舞いを理解していきましょう。
ということで、話は戻りますが、 マンニッヒ反応においても系内でイミニウムカチオンが生成してきます。
ストレッカーアミノ酸合成ではここに、系中で最もマイナスに帯電しているシアン化物イ オンのマイナスが攻撃してきました。
では、マンニッヒ反応系中で最もマイナスに帯電しているものは何でしょう。
一見、求核成分なんてないよと思われるこの反応系ですが、ケトエノール互変異性が効いてきます。
『ケトエノール互変異性』この言葉は絶対に覚えておいてください。
そのままでは求電子的に働くケトンですが、酸性条件下においてケトンはエノールと呼ば れる求核成分と常に平衡状態にあります。
エノールは、酸素原子上に存在する非共有電子対の押し込み効果により、a位の炭素がマ イナスを帯びています。
マンニッヒ反応系中における最もマイナスの成分はここにいました。
じゃあ、このエノールがイミニウムカチオンに攻撃するんだな。。。
結果的にはそうです! が!
他の可能性はないんですか?
このエノールが求核攻撃する相手として考えられるものを挙げていきましょう。
上で生成していたイミニウムカチオンとその原料となったアルデヒドおよびエノールの原料となったケトンの3種が求電子成分として考えられますよね。
イミニウムカチオンおよびエノールの生成反応は可逆反応なので、全てがイミニウムカチオンやエノールとなっているわけではなく、 それらの原料であるアルデヒドやケトンも少なからず系内に存在しています。
じゃあ、なんでエノールはイミニウムカチオンを選択的に攻撃しているのか。
その答えが、『電子はマイナスからプラスに動く』にあります。
マイナスが最も引き付けられるもの、つまり最もプラスに帯電しているものを考えれば良いのです。
上の3つの中で最もプラスに帯電しているのはどれでしょうか?
もちろんイミニウムカチオンですよね。
イミニウムカチオン中の窒素に隣接する炭素は、プラスに荷電した窒素に電子を引かれているため、かなりプラスに帯電しています。
系中で最もマイナスのエノールが、系中で最もプラスのイミニウムカチオンに攻撃をすることで炭素-炭素結合が形成され、マンニッヒ反応が完結します。
最後の炭素-炭素結合形成を除いて、マンニッヒ反応の全ての過程が可逆です。
(炭素-炭素結合はかなり安定な結合なので、炭素-炭素結合開裂の逆反応は起きません。)
有機反応化学を理解するうえで、反応系のどこまでが可逆で、どこからが不可逆なのかを考える習慣をつけておくと、 より楽しいと思います。(漠然としていてごめんなさい笑)
~重要ポイント~
・系中で最もマイナスのエノールが、系中で最もプラスのイミニウムカチオンに攻撃をする。
・最後の炭素-炭素結合形成を除いて、マンニッヒ反応の全ての過程が可逆反応。