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A008, A009 ~演習で学ぶ有機反応機構解説~

疑問点などありましたら、どしどしコメントください!
一緒に学んでいきましょう。

それでは、『演習で学ぶ有機反応機構―大学院入試から最先端まで』の解説部分を見ながら、『電子はマイナスからプラスに動く』の考え方に基づき、反応機構の流れを見ていきましょう。

A008とA009はケトンおよびアルデヒドのアセタール形成反応です。
以下、wikipediaより。

アセタールはアルデヒドやケトンのような求電子性をあまり示さず、 またアルコールのような求核性も示さない。 そして温和な酸性条件で元のアルデヒドやケトン、ジオールへと戻すことができる。 そのため、アルデヒド、ケトン、1, 2- または 1,3-ジオールの保護基としてしばしば使用される。

A008はまさにケトンと1,2-ジオールによるアセタール形成であり、どちらを基質とするかで、ケトンのジオールによる保護ととらえるか、 ジオールのケトンによる保護ととらえるかが変わりますね。

A009では、オルトギ酸トリメチルを用いている点がポイントです。
アセタール形成は可逆な反応ですので、A008, A009それぞれにアセタールへと平衡を偏らせるための工夫が隠されています。
その点に注目して、反応機構を見ていきましょう。

A008, A009共にTsOHが触媒量添加されていますが、 アセタールは酸性条件下、カルボニル基とアルコールの縮合により生成します。
そこでよく用いられるのがTsOHです。
TsOHは有機溶媒に可溶な強酸であることに加え、脱プロトン化された後に生じるマイナスが芳香環にまで分散されるため、求核性が低いという特徴があります。
そのため、有機合成においては酸触媒として非常に多用されています。

そんなTsOHのプロトンによって、カルボニル基がプロトン化されるところから反応は始まります。
プロトン化されたカルボニル基の炭素はかなりプラスに帯電しており、アルコールの酸素上に存在する非共有電子対がそこへ求核攻撃し、ヘミアセタールが生成します。
このヘミアセタール中間体において、エーテル部位からアルコール部位へプロトン移動が起き、エーテル部位の酸素原子上に存在する非共有電子対による押し込みを受けながら、水が脱離します。

ここで生成したカルボニルカチオン中間体において、 プラスに帯電したカルボニル基のすぐそばに、アルコール部位が存在していることに気付いたでしょうか。 

化学反応において、反応する官能基同士を近づけることは近接効果と呼ばれ、反応速度や平衡関係に大きな影響を与えます。 

このA008のように、アセタール形成に1,2-および1,3-ジオールを用いた場合が良い例です。
この隣接効果があることで、カルボニルカチオン中間体が生じるとすぐに、 近くに存在する2つ目のアルコールがカルボニル基の炭素に対して求核攻撃を起こすため、 この反応過程の平衡が大きくアセタール側に偏り、アセタールを効率よく合成することが出来るというわけです。

では、A009はどうでしょうか。
ここでは1, 2-や1,3-ジオールではなく、メタノールを用いてアセタール形成を行っています。
しかし、ここにもしっかり工夫があります。
オルトギ酸トリメチルを用いていることです。

本書の解答には、オルトギ酸トリメチルの加水分解の反応機構が記載されています。
こちらをご覧いただくと、オルトギ酸トリメチルは酸性条件下で、水1分子を吸収し、メタノール2分子を生み出す能力を持っていることがわかると思います。

メタノールを用いたアセタール形成反応においては(反応機構の解説はA008と同じなので、割愛します。)、カルボニル基をアセタールに変換する過程で、メタノール2分子が消費され、水1分子が生じます
上でも述べたように、アセタール形成反応は可逆反応です。
アセタール側へと平衡を偏らせるためには、系内に水分子は出来る限り生じさせたくないし、メタノールは出来る限り減ってほしくない

そこで活躍するのがオルトギ酸トリメチルなのです。
アセタール形成が進行するにつれ生じてくる水1分子を吸収し、アセタール形成によって消費された2分子のメタノールを補ってくれます

これはまさに、我々人類が酸素を消費して二酸化炭素を吐き出している傍ら、木々が二酸化炭素を吸収し、酸素を補ってくれる、そんな自然のシステムに似ていると思いませんか。

話がそれましたが、A009ではオルトギ酸トリメチルを用いることで、系内のメタノール濃度を高く保ち、平衡をアセタール側に偏らせているという点がポイントでした。

~重要ポイント~

アセタール形成は可逆反応であり、平衡をアセタール側に偏らせるために以下のような工夫をする。
・1,2-および1,3-ジオールを用いることで、近接効果を利用する。
・オルトギ酸トリメチルを用いることで、系内のメタノール濃度を高く保つ。

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