― 「ところかまわずナスかじり」第百二十三話 行方不明だった彼に会って ―
<2002年2月8日 旭日新聞>
‐会社員 川で遭難か?‐
隅田署は4月8日の朝、東京都の会社員、木山昇さん(43歳)が墨田川を見てくる、と言って4月6日の朝に家を出たまま帰宅しない、との通報を妻の木山騒子(そうる)さん(26歳)より受けた。隅田署の捜査員が付近にいた目撃者より得た情報によると、木山昇さんは河原で服を脱ぎ、海水パンツに履き替えると軽い準備運動の後に薄氷の張った墨田川に入水した、とのことであった。
捜査官はあらためて目撃情報のあった河原付近を捜索したところ、木山さんのものらしい着衣を発見し、騒子さんに見せたところ、本人のものであることが判明した。
現在、隅田署は事件性の有無や、木山さんの入水にいたる経緯や動機などを捜査している・・・
<2020年9月30日 週刊アエイラ>
記者「それで、旦那様をご覧になったということですが・・・」
騒子「ええ。もう、本当にびっくりしてしまって・・・。ちょうどひと月前のことでした。夫と子供を連れて・・・、ああ、私、二年前に再婚いたしまして・・・。
それで、ひと月前、三人で沖縄の方に遊びに行きましたの。
沖縄の中部地方にある、何という名前の橋か忘れてしまいましたけど、小さな島につながる橋がございまして、私たち、そこを歩いて渡っておりましたの。
とても天気のいい日で、三人で橋の真ん中で立ち止まりましてね、下の海の様子を見ておりましたの。もう、夢のようにきれいで・・・。
そのときでございました。
夫が、前の夫が、橋の下を泳いでるじゃないですか。クロールで・・・。
私、もうびっくりしてしまって。
だって、彼が行方不明になって18年が経ってるでしょう?
最初私、彼が沖縄で暮らしてるんじゃないか、と思ったんです。
でもね、息継ぎしている彼の横顔を見ると、18年前とまったく変わっていないじゃないですか!それに、あの水着!彼の持っている水着は一つしかなかったんです。トラの顔がお尻の方についているもので。その水着を彼、履いてたんです!
もう本当にびっくりしてしまって!
彼が行方不明になったのが墨田川。
ということは、彼は18年間、黒潮をさかのぼっていた、ということですよね?
もう、私、びっくりしてしまいました。
え?
その後ですか?
ああ、彼はそのまま泳いで行きましたわ。
今頃はベトナム辺りでしょうかしら・・・
ねぇ?
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