― 「ところかまわずナスかじり」第245話 蛇腹世界征服論 ―
蛇腹とは、あの、アコーディオンの黒いところのように、波打ってるモノのことを指す。
その蛇腹であるが、もともとあのように大人しく楽器になんてされているようなヤワではなかった。
むしろ蛇腹は剛のモノであった。
蛇腹を見ただけで、あの軍隊アリが急いで逃げ出した、あれほど凶暴なスズメバチが急いで飛び去った。そして何よりも、その蛇腹を最も恐れたのはあの、熱帯魚一気性が荒いと言われている‟ベタ”である。
ベタは熱帯魚屋さんでビンの中、一匹だけ入れて売られている。他の個体を入れると死ぬまでケンカしてしまうからである。それほど気性の荒いベタが蛇腹を見ると逃げ出すのである。
蛇腹がどれだけすごかったかが分かろう。
なので、蛇腹が世界征服を本気で望めば、それは簡単なことであっただろう。
あのベタが恐れるほどである。
では、その蛇腹はなぜ世界を征服してしまわなかったか?
それは、蛇腹がアコーディオンにされてしまったからである。
アコーディオンというのは麻薬のようなものである。
一度手を出してしまうと、抜け出せない。
蛇腹が気づいた時には遅かった。もうそこから抜け出せなくなっていたのだった。
最初のうちこそ蛇腹は決して折れず、鳴らさせなかった。
だが、2回、3回と曲げられるうちに、耐えきれず、折れてしまった。
あの蛇腹が、ベタすら恐れる蛇腹が、今では折れ折れとなってしまったのだ。
恐るべしはアコーディオンだ。
演奏者ですら、アコーディオンを見ないで弾くようにしているのだ。