第31話 アプロディテとアレス
31. 前置詞(2) いろいろな前置詞/前置詞を含む重要表現
(9月10日 パンドラ宅④)
「ヘパイストス、……私、ちょっと出かけてくるわね」と、香水を振りかけ振りかけ、アプロディテが言う。
「あぁ。(ふんっ、どうせまた、アレスの所だろ。今に見ておれ、……ヒーヒッヒッヒ)」
愛と美の女神アプロディテは、オリュムポス一の美しさを誇るも、なぜか神々の中で一番ぶさいくな男ヘパイストスと付き合っていた。
恋多き彼女は日々、いろいろな男と恋愛を楽しんでいたが、中でも一番のお気に入りの相手は軍神アレスだった。
「んー、アレス。もっと強く抱きしめてぇ」
「帰らなくていいのかい? アプロディテ」
「いいの、いいの。大体、なんで、この私があんな奴と付き合わなきゃなんないのよ」
「なら、いいけど」
「あなたって、最高。このベッドも素敵だわ」
「君のために、新しく買ったのさ、フッ」
「まぁ、アレス。愛してるわー」
「俺も愛してる、アプロディテ」と、アレスが覆いかぶさろうとした瞬間、
ビュルッ
「「わっ、何じゃこりゃ。わっ、わっ、ひーっ、助けてー!」」
床板から、サイドフレームから、ヘッドボードから細い鎖のようなものが出てきて、一瞬のうちに2人の体はベッドに縛り付けられてしまった。
このベッドは浮気を繰り返すアプロディテとアレスに復讐するために、ヘパイストスが贈りつけたものだった。
アプロディテのあとをついていき、アレスの家を覗き見していたヘパイストスは、
「思い知ったか、このヘパイストス様の力を。わしをバカにすると、こうなるのだ。ヒーヒッヒッヒ」と、2人の痴態を見届けると、笑いながら帰っていった。――
ヘパイストスが家に戻ると、ブリ吉が出迎えた。
「お帰りなさい、親方」
「おぉ、ブリ吉。どぉれ、新しい仕事に取りかかるぞ。アポロンとアルテミスから狩猟用の矢を作ってくれと頼まれていたからな」
「矢、ですか?」
「そうだ。矢だけに、『や』とは言わせねーぞ。ヒーヒッヒッヒ」
「よっ、親方。今日も絶好調っすね」
「まぁな。ヒーヒッヒッヒ」
「ども! 家庭教師のタムラです」
「よぉ、先生」と、ヘパイストスがドアから顔を出す。
「こんにちは」
「パンドラなら、2階にいたから、勝手にやってくれ。わしは、ちょっと忙しいんでな」
「また何か企んでるんですか?」
「人聞きの悪いことを言うなや。今回のは、ちゃんとした仕事だ」
――前回までは、何だったのかしら?
「どぉれ、やっぞぉ。今日のテーマは『前置詞(2) いろいろな前置詞/前置詞を含む重要表現』ね。はい、早速、<アテナの黙示録31>を見ておくれ。
<アテナの黙示録31> 前置詞(2) いろいろな前置詞/前置詞を含む重要表現
【1】いろいろな前置詞
|★前置詞には、「とき」や「場所」を表す修飾語句をつくる in, on, at の他にも、次のようなものがある。
||by ~(~のそばに/~まで/~によって), from ~(~から), to ~(~に), for ~(~のために/~にとって/~の間/~へ向かって), between ~ and …(~と…の間に), on ~(~の上に), under ~(~の下に),in ~(~の中に), with ~(~といっしょに), without ~(~なしで), of ~(~の), before ~(~の前に), after ~(~のあとで), about ~(~について/およそ~), …
いがぁ。全部、暗記ね」
「どひゃー、ムリムリムリムリ」と、パンドラ。
「何を言っちょる! 無理は禁物、ムリは禁句だ。こんなの、やってるうちに覚えっがら。はい、『窓のそばで』を英語で言うと? ★を調べながらでいいよ」
「えっとねー、by the window」
「そ。『東京から』だったら?」
「えっとねー、from Tokyo」
「そ。『公園に』だったら?」
「to the park」
「そ。『私のために』だったら?」
「for I(×)」
「まてまてまてまて、前置詞のうしろに人称代名詞がくるときは、目的格だったよ」
「あ、そっか、for me」
「そ。はい、次。『東京と仙台の間に』だったら?」
「between Tokyo and Sendai」
「そ。between[ビトゥイーン]はアクセント注意ね。うしろ(=[イー])を強く読むよ。はい、『机の上に』だったら?」
「on the desk」
「そ。『テーブルの下に』だったら?」
「under the table」
「そ。『箱の中に』だったら?」
「in the box」
「そ。『私たちといっしょに』だったら?」
「with us」
「そ。前置詞のうしろは目的格ね。はい、『辞書なしで』だったら?」
「without a dictionary」
「そ。without[ゥイズアウトゥ]もアクセント注意ね。うしろ(=[アウ])を強く読むよ。はい、次。『私の友達の写真』だったら? a picture」
「of my friend」
「そ。『夕食の前に』だったら?」
「before dinner」
「そ。before[ビフォー]もアクセント注意ね。うしろ(=[フォー])を強く読むよ。はい、次。『朝食のあとで』だったら?」
「after breakfast」
「そ。breakfast[ブレクファストゥ]も発音・アクセント注意ね。前(=[レ])を強く読むよ。動詞の break[ブレイク](壊す)に騙されて、[ブレイクファストゥ](×)って発音しないように。はい、次。『その国について』だったら?」
「about the country」
「そ。about[アバウトゥ]もアクセント注意ね。うしろ(=[バウ])を強く読むよ。ちなみに、country の複数形は?」
「countrys(×)」
「おいっ。『子音字+ y』で終わる名詞の複数形は、y を」
「あ、i に代えて es」
「そ。よって」
「countries」
「そ。忘れないように、常に復習ね。OK?」
「……」
「どした?」
「疲れた」
「あそ。じゃあ、ちょっと休憩。はい、終わり」
「早っ」
「あだりめだ。受験生に休む暇はないのだ。はい、【2】」
すると、
「先生って、カッコいいよねー」
――ふんっ、その手できたか。
「鼻、高いし」
――平常心、平常心。
「脚も長いし」
――負けるな、俺。
「イケメンだし。パンドラ、先生みたいなお父さんが良かったなぁ」
「そう? パンドラのお父さんだって、……」
――しまった、……続かね。
「なに?」
「いや、その、……」
「あー、差別だー!」
「おいおいおいおい」
「人権侵害!」
――そんな、大げさな。
「男女雇用機会均等法違反!」
――なんでやねん。
「武家諸法度!」
――どっから出てきた。
「いい国つくろう鎌倉づくり!」
――なんか、違うぞ。
「ウグイス鳴いたら平安京!」
――語呂合わせになってないし。
「マッカーサー、DHC!」
――何それ? 化粧品?
「あ、間違った、DHA!」
――は? サバ?
「あー、スッキリしたぁ。最近、覚えたの、言ってみた」
と、笑顔を見せるパンドラ。
「う、うん、……じゃあ、【2】ね。
【2】前置詞を含む重要表現
|★次の表現は、熟語として暗記する。
||in front of ~(~の前で), out of ~(~から), a lot of ~(たくさんの~), because of ~(~のために/~が原因で), instead of ~(~の代わりに), thanks to ~(~のおかげで), such as ~(~のような), at last(ついに), at once(すぐに), in fact(実際), for example(例えば), after school(放課後に), take care of ~(~の世話をする), leave for ~(~に出発する), go to ~(~に行く), walk to ~(~に歩いて行く), listen to ~(~を聞く), look at ~(~を見る), look for ~(~を探す), look like ~(~に似ている/~のようだ), look after ~(~の世話をする), look forward to ~(~を楽しみに待つ), wait for ~(~を待つ), laugh at ~(~を笑う), be interested in ~(~に興味がある), be different from ~(~と違っている), be famous for ~(~で有名である), be kind to ~(~に親切である), be surprised at ~(~に驚く), be afraid of ~(~を恐れている), be late for ~(~に遅れている), …
いがぁ」
「ちょっと、待ってー!」
「ん?」
「これも全部、暗記?」
「そ。まぁ、今すぐここで、とは言わないけどね。でも、こればっかりは、知らないとテストでは点に結び付かないものばっかりなんで。例えば、『次の英文の( )内から適語を選びなさい。There is a bookstore (in, on, at) front of the station.』っていう問題、……答えは in なんだけど、いくら英文を『駅の前に本屋があります』って訳しても、in front of ~(~の前に)っていう熟語を知らないと、答えの in は出てこないわけで」
「たしかに」
「まぁ、この辺は、もうちょっと寒くなったら、入試対策ってことで改めて練習しますんで」
「はーい」
「んで、<スピンクスの謎31>をやってみっぺ。
<スピンクスの謎31> 前置詞(2) いろいろな前置詞/前置詞を含む重要表現
日本語の意味になるように、次の英文の( )内から適語を選びなさい。
(1) Look at the cat (in, on, under, with) the tree.(木の下の猫を見なさい)
(2) I went to school (of, with, without, by) my friend yesterday.(私は昨日友達といっしょに学校に行きました)
(3) She is listening (in, on, at, to) the music on the radio now.(彼女は今ラジオで音楽を聴いているところです)
(4) Be kind (in, on, with, to) old people.(老人に親切にしなさい)
(5) I am interested (in, on, at, for) Japanese history.(私は日本の歴史に興味があります)
はい、(1)から、答え入れて読みぃ」
日本語の意味になるように、次の英文の( )内から適語を選びなさい。
(1) Look at the cat (in, on, under, with) the tree.(木の下にいる猫を見なさい)
「えーと、『~の下に』、……」
「テキストを調べながらでいいよ」
「あ、あった。Look at the cat under the tree.」
「そのとーし! 『~の下に』は under ね。ちなみに『~の上に』だったら?」
「on」
「そ。『~の中に』だったら?」
「えっとねー、in」
「おしっ。んで、(2)、答え入れて読みぃ」
日本語の意味になるように、次の英文の( )内から適語を選びなさい。
(2) I went to school (of, with, without, by) my friend yesterday.(私は昨日友達といっしょに学校に行きました)
「I went to school with my friend yesterday.」
「そのとーし! 『~といっしょに』は with ね。ちなみに『~なしで』だったら?」
「……」
「はい、調べる、調べる」
「あった、without」
「そ。はい、(3)、答え入れて読みぃ」
日本語の意味になるように、次の英文の( )内から適語を選びなさい。
(3) She is listening (in, on, at, to) the music on the radio now.(彼女は今ラジオで音楽を聴いているところです)
「……」
「【2】の重要表現に載ってるよ」
「あ、あったー。She is listening to the music on the radio now.」
「そのとーし! 『~を聞く』は listen to ~ ね。この to は listen to ~ の熟語を知らないと、考えても出てこないからな、この機会に覚えましょ。ちなみに『~を見る』だったら? look」
「at」
「おっ、早い!」
「これは覚えてた」
「おしっ。いいよぉ。んで、(4)、答え入れて読みぃ」
日本語の意味になるように、次の英文の( )内から適語を選びなさい。
(4) Be kind (in, on, with, to) old people.(老人に親切にしなさい)
「えっとぉ、『~に親切である』は、……あれ? なんか、どっかでやったことある」
「んだね。枝豆パーティーのあとに復習したんじゃなかったっけ? be動詞の命令文、ってやつだな。ま、<アテナの黙示録29>も改めて復習しといてちょうだいな。で、答えは?」
「Be kind to old people.」
「そのとーし! はい、ラスト、(5)、答え入れて読みぃ」
日本語の意味になるように、次の英文の( )内から適語を選びなさい。
(5) I am interested (in, on, at, for) Japanese history.(私は日本の歴史に興味があります)
「I am interested in Japanese history.」
「そのとーし! 『~に興味がある』は be interested in ~ ね。この in も be interested in ~ の熟語を知らないと、考えても出てこないんで。でも、なぜか、試験ではよく出る熟語なんで、この機会に覚えましょ。はい、通してどっか、質問ある?」
「なーい」
「んで、本日終了。おつかれさ~ん」
(ブリ吉、そこ、ちゃんと押さえとけ!)
(承知! 親方)
(おしっ、できた)
(さすが、親方)
(まぁな)
(でも、親方、……それ、「矢」じゃなくて「弓」ですよ)
(なぬ?)
<オイディプスの答え31> 前置詞(2) いろいろな前置詞/前置詞を含む重要表現
(1) under
(2) with
(3) to
(4) to
(5) in