東京が嫌い
上京した1年前ちょっと前の春、東京の何もかもが嫌いだった。
なんの情緒のないセンター街、横断歩道で止まらないタクシー、自分が飲んだ酒の缶も捨てられない酔っ払いの数。昼夜問わず人で溢れる道もコーヒーチェーンも全部嫌いだった。
効き過ぎてるエアコンとか、置きすぎてるアメニティとか、貼りすぎてる広告とか、必要なものと不要なもの、由来のものと人工のもの、そのバランスが自分にどうも合わなくて、なんだろう、この街で暮らす想像ができないほどに受け入れられなかった。
都内に引っ越して3ヶ月ほど経ち、暑い暑い夏を迎えた。涼しい時間を狙い、夜、ひとり散歩しながら、自分の住むこの街のことをだんだん知るようになる。
音楽を聴きながら1人ビールを開けるサラリーマンがいたり、一つ飛ばしでベンチに座る男女がいたり、ステーキ屋から出てくる夫婦がいたりする。スーパーカブでノリノリドライブをするカップルも、横断歩道で当たり前のように停まる。
お気に入りのコーヒー屋が出来て、毎朝のように通う。いつも席が半分ほど空いている。程よいクーラーの効き、そして程よい音量のヒップホップがかかっている。
お気に入りのスーパーができて、意外と安く野菜が買える。お気に入りの花屋ができて、オーナーさんとお花について話す時間が日常にふえた。晴れには木漏れ日がみえて、きれいだなと思う。
ふと、あ、こんなに嫌いだったのに、いいところあるんじゃんって思う瞬間が増えた。人じゃなくて、街に思うことが増えた。東京を嫌いだったこと、ちょっと忘れてるじゃんって思ったりする。
わたし、東京でちゃんと生きてるんだな。住み始めたこの街のこと、ちゃんと見てるんだな。