私が仕事において大切にしていること
その人の目線や心情をくみ取る
「人は正しく理解されて、初めて心は動き始める」という言葉があります。これは私の師である精神科医の高橋和巳先生から教わった言葉です。私は仕事をする上で、この言葉をいつも心の真ん中においています。カウンセリングでも相談業務でも、相手がクライアントであっても支援者であっても、「その人はなぜその話(相談)をしているのか?」と相手の側に立って話を聴くように心がけています。
「正しく理解する」と表現してしまうと、心には何か“正解”のようなものがあって、それを目指して理屈っぽく分析したり、「こう考えるべきだ」と画一的に捉えたり、既存の理論や概念に当てはめてラベリングしたり……そんなイメージになりやすいと思います。しかし、これではなんだか窮屈なような、偏った見方のような感じがしてしまいますね。
私が思うに、「正しく理解する」とは「その人の目線や心情をくみ取りながら話を聴くこと」なのではないかなと。「なんだそんなことか」と思う人もいるでしょう。「そんなこと日常的に当たり前にやっているよ」と言われてしまいそうですね。それをやれている自覚があって、それが相手に伝わっているなら、それはベストな状態だと思います。
では、くみ取れないとどうなるでしょう?多くの場合、人は自分の価値観や解釈を押しつけてしまったり、あるいは自分の感情が先に立ってしまってイライラしたり、その人と上手く関わることができなくなってしまいます。それはその人にとっても、関わっている周りの人にとってもあまり良い状態とは言えません。
具体的な場面を想定して考えてみましょう。
ある時、仕事上の意見の食い違いで同僚と口論になりました。もちろん翌日もその人と顔を合わせます。普通は翌日になっても気まずくて目を合わせられなかったり、関わる場面があってもよそよそしくなったりすると思います。大人同士でケンカをした場合、もしその相手が翌日に何事もなかったかのように平気で話しかけてきたとしたら、おそらくイラッとするはずです。「こっちは気まずい思いを抱えてきたのに、一体何なんだ!なんでこの人は平気でいられるんだ」と。その心の反応は至極当然なものです。
これが保育園に通う3歳ぐらいの子ども同士だったらどうでしょう?些細なきっかけでケンカになり「○○ちゃんイヤ!!」と言いながらポカッと相手の子をたたいてしまったとします。叩かれた子は大泣きし、叩いてしまった子も大泣きです。周りの先生たちは「イヤだったね。でも大丈夫だよ」と一生懸命になだめ、なんとかその日を終えました。ところが翌日、あんなにケンカして手も出してしまったその2人はケロッとして仲良く遊んでいます。大人の感覚からすると不思議ですね。しかし、3歳ぐらいの子にとってこれは当たり前のことです。感情の持続が弱く、相手に対して申し訳ないことをした気まずさがあまり残りません。それは社会的な理解や対人関係の理解が幼く、相手がどう感じているか等が十分に感じ取れないためです。加えて、周囲の大人がその2人の子の気持ちをくみ取り、「大丈夫だよ」と安心させてあげたことで、ケンカしてしまった不快な気持ちが消えていくからです。
さて、大人同士の場合に話を戻します。仮にその平然と話しかけてきた相手の人に何か発達上の障害があったとしたらどうでしょう?その障害特性ゆえに人の気持ちを上手く理解することができず、こちらの想いとは裏腹に何事もなかったかのように話しかけてくるかもしれません。この場合、イライラして「気持ちを分かってよ」と伝えても、おそらく上手く通じないでしょう。「この人は障害の特性で対人関係の苦手さを持っていて、気持ちを受け取ることが難しいんだな」とこちら側が正しく理解することで、イライラは薄まり、気持ちを落ち着けてやり取りができるようになると思います。あるいは、最初の段階でそもそも口論にならず、穏やかな話し合いを続けることができたかもしれません。
(【注】発達障害を抱えている人が全て翌日にはケロッとしていて人をイライラさせるという話ではありません。何も障害がない人でも、平然としていて人をイライラさせる人はいますよね。その時はもちろんイラッとして「何で平気なんだ!!」と怒ってもいいと思います)
このように、自分の目線だけで相手を捉えてしまうと、その人の言動が自分の価値観に沿わない場合、感情が先に反応してしまいます。しかし、その人の目線や心情をくみ取りながら話を聴き、なぜその人がそういう言動をとったのかを正しく理解できるようになれば、自分の価値観を少し横に置いて、自分の感情から離れることができて、穏やかにその人と関われるようになると思います。
これが支援者と支援を受ける人との関係である場合、「相手にとって真に必要な支援は何か?」ということを考えていく入り口になるのではないかと思います。
また、カウンセリングや面接場面においては、クライアント(支援を受ける人)が「この人(カウンセラーや支援者)には、伝えたいことが自分の気持ちごと伝わっている」と感じることができ、それまで悩み苦しみ滞っていたその人の心がゆっくりと動きはじめる大切なきっかけになると思います。
以上が「私が仕事において大切にしていること」の概要です。文字で表現するのは難しいなと、改めて感じています。ちゃんと伝わる文章になっているのかな…?
とりあえず、今回はここまでにします。
次回以降、さらに深めてお伝えしていこうと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?