『ヨーロッパ史における戦争』/『戦争と資本主義』 ~軍事史を敬遠する向きにこそ読んでほしい古典的な2冊
2010年に再文庫化された戦史関係から2冊。いずれも軍事史として非常に定評のある基本の書です。この2冊そのものにとくにつながりはありませんが、時系列に並べてある書き方・トピックス毎の書き方、と切り口が違うので、比較しながら読むと面白かったです。
といっても、どちらかというと軍事史というよりは通史・概説書に近いともいえます。ヨーロッパ史は政治・経済・宗教とも戦争と切り離して考えられないので、「戦争」の文言のみで、軍事史・戦史と敬遠されてしまうともったいない本たちです。
ヨーロッパ史における戦争
著者: マイケル ハワード (著), 奥村 房夫/奥村 大作 (翻訳)
出版社: 中公文庫
サイズ: 文庫
ページ数: 311p
発行年月: 2010/05
価格 1,100円
読書メモ
こちらは細かい各論を求めるよりも、全体を俯瞰するように変遷を追っていくのに向いています。16世紀から17世紀にかけての部分はだいたいこれくらい。
第2章 傭兵の戦争
中世的戦争の変質
戦争請負業者の隆盛
傭兵隊とその戦術
第3章 商人の戦争
ヨーロッパの膨張
交易と私掠船
重商主義と戦争
第4章 専門家の戦争
専門的軍隊とオランダ
グスタフ・アドルフによる改革
兵器の改良
官僚制と軍隊
プロイセンの発展
十八世紀的軍隊
この3つの章立てでは、この時期のオランダの特殊性について何度か言及されます(逆にホメられすぎな気もする…)が、その理由はひとことで言えば「資金力」です。その意味でも、第3章は経済にからめた海戦がメインになります。
原著は1976年刊。日本語版初版は1981年。当時父親が訳したものを、息子が2009年に再訳(といっても本編にはほとんど手を付けず、2009年にハワード自身が追記して再版した部分の訳だとのこと)しています。2009年版では参考文献リストが大幅に刷新されたとのことですが、確かに、パーカーがロバーツの軍事革命論に最初に異論を唱えたのがこの本の出版とほぼ同時の1976年。その後軍制改革論をはじめとして数々の資料が出ていますから、この文献リストは非常に役立ちます。ありがたいことに、日本語になっているものも何冊か含まれています。(が、邦訳の書名は書かれていないのでご注意)。
戦争と資本主義
著者: ヴェルナ-・ゾンバルト (著), 金森誠也 (翻訳)
出版社: 講談社学術文庫
サイズ: 文庫
ページ数: 329p
発行年月: 2010/06
価格 1,103円
読書メモ
こちらは初版1913年。100年前、しかも、第一次大戦前の著作です。かといって特に古さは感じず、日本語訳も初版は1996年になっています。割と最近…と思いつつも、訳者自身が「早くも15年以上の歳月が経ち」と書いており、かなり訳も改善したというので、新版を購入したほうが良いかもしれません。
第1章 近代的軍隊の誕生
第2章 軍隊の維持
第3章 装備
第4章 軍隊の給養
第5章 軍隊の被服
第6章 造船
ハワードとは対象的に、各論データをもとにした、細かい数字による描写が目立ちます。軍隊の給養、とくに穀物取引のあたりは、ウォーラーステインの「近代世界システム」に通じる部分もあります(その辺も含めて、あまり古さを感じません)。
逆に、オランダについては言及の割合が低いです。軍事史上オランダがスポットライトを浴びたのは、ロバーツの軍事革命論(1955)からなのは間違いありませんが、オランダが教練や近代的攻城戦を始めたことについては19世紀から既に指摘されている概念でもあり、ほとんど陸軍に触れられていないのはやや片手落ちの感はあります。オランダの経済についても、序文で「資本主義の中心はオランダ」と明記されている割に、上記の穀物取引の部分あたりにしか出てきません。
こちらも文献リストはありがたいの一言。ですが、すべてタイトルが日本語訳で書かれていて、そしておそらくこの中で実際日本語訳で出版されているものはほぼ皆無(ぜんぶきちんと検証してないのでゼロとは言わない)ではないでしょうか。原著のタイトルにさえ中りがつけば、すべて1913年以前の著作(すべてPD)なので、逆に入手は容易かもしれません。
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