あれは、絶対そうだった。
昨日のバイクでの通勤中のこと。
交差点で信号待ちしていた車の間をすり抜けた。
そのとき追い越したあの車種、あのナンバー、あのハンドルカバー。
間違いなくあれはあの人の車だった。
私が人生で一番大切に想っていた人。
今もこれからも、大切に想っている人。
私は結構わかりやすい水色の上着を来ていた。あの人も絶対に覚えているはずのあの上着。あの人なら、私だったと気がついている気がする。
一緒にいたあの頃にも、そういうときがあった。街中ですれ違うと、いつもその後すぐに、「さっきすれ違いましたね!」「そうだね!」なんて連絡取り合っていた。今回も思わず連絡をしたくなった。でも今はできなかった。いや、しなかった。
それは私の心がなぜか温かくなったからだ。連絡を取り合わなくても、同じ地域で、同じ空間で生活していることをほんの数秒間だったけれども実感できたから。少なくとも仕事に出かけるレベルで健康で安定した生活を送っていることだけでもわかったから。あの人もきっと、私と同じように感じているってわかるから。
心にたった一人大切な人がいて、その人を想って心が温かくなる。一緒にいたときは当然だけど、一緒にいられなくなった今もそんな気持ちになれる。こんなに幸せな出会いがあるだろうか。出会いだけじゃなくて、別れも経験したけれど、それすらも幸運だったと今は思える。その大切さが身に沁みてわかるから。
一緒に幸せになる道ではなくて、離れているけどお互いに幸せに生きていてくれることを願い合って生きていく道を選んだ人。実際には選んだ訳ではなくて、結果的にそうなったんだけど。一緒にいたときは死ぬほど楽しいこともあったけど、同じくらい悲しくつらいこともたくさんあった。だからこそ、一緒にいられないけれど傷つけ合うこともない、大切に想い合える今の関係がいいんだと、今こそ言える。綺麗事に聞こえるかもしれないけれど、それが今の私とあの人の関係だ。
この先、もしかしたら誰か別の人と人生を歩むことになるかもしれない。誰とも一緒にはならないかもしれない。でも、あの人と一緒にいたあの時間があるから、誰かに愛されることや誰かを大切に想うことを知ったから、私はこれからも大丈夫。