寒さから見る認知症 ~初冬編~

寒さから見る認知症 ~初冬編~
      デイサービス 生活相談員


デイサービスにも四季があり

今年も、枯れ葉が宙を舞い、もうじき冬が来る。

とはいえ初冬とは11月のことであり、冬までまだ時間がある。

もう少し秋を楽しめそうな山の色。
そんな光景を見ていると、ふと昔を思い出すことがある。

それは学生時代のこと。

冬生まれの私は、寒さにめっぽう強く、どんなに気温が低い日でも外で遊ぶのが好きだった。

そんなことを思い出していた近頃の勤務先のデイサービスの様子。

毎年冬場は体調不良にて欠席される方が増加する傾向にあるが、
今年は利用者様も頑張っているようで、それぞれが体調管理などの努力をされている。

流石に長年生きて来ただけのこともあり、健康長寿への備えは尊敬に値するな、と感心していると、ある利用者様の様子に気が付いた。

いつも元気なAさんが、何やら身を縮めている。

私:「Aさん、どうかされましたか?」

利用者A様:「いや、なんだか今日は寒くての。」

寒い。

私はピンときた。。

これは認知症状の一つ、『寒がり』と呼ばれるものであり、脳の自律神経に影響が出て働きが低下することで、体温調節に支障が出ている状態である。

実際、Aさんはついこの間、認知症と診断された経緯がある。

更に言えば、昨年の今頃はさむがる姿などなく元気に過ごされていた。

こうなってくると、いよいよ認知症との因果関係が濃厚になって来た。

こんな時は、かの有名な天才相談員、専門職歴10年を超える私の出番だ。

Aさんの寒さは、私が取り除いてみせる。

私「Aさん、このひざ掛け毛布を使って下さい。そして少し私と話をして、心も一緒に温めませんか?」

決まった。

これは決まりすぎた。

私はいささか自分の才能に震えた。

毛布で体を温める事なら、誰でも容易に思いつく。
だがしかし。

心まで温める。

これは誰もが思いつくことではない。
真に福祉精神にあふれた専門職、その中でも一握りの者のみが辿り着ける境地なのである。

ところが
会話中もなかなかAさんの寒さの訴えはなくならない。

それどころか、何だか更に元気がなくなってきている。

それでもめげず、私はこれでもかと会話を展開し続けた。

そんな時近づいてきたのが、看護スタッフのCさんである。

看護スタッフCさん:
「あれ?Aさん何だか顔が赤いけど大丈夫かな?一度検温してみましょうか。」

私:「?」

利用者A様:「頼むわ、なんか寒くての。。」

ピピピ・・・体温計が鳴る。

看護スタッフCさん:「あ、やっぱり少し熱がありますね。」

利用者A様:「ほうか、ほら寒いわけよな。迷惑かけてもいかんで、今日は家族に迎えを頼んでくれんかの。」

事態を呑み込めない私。

どうやら、寒さの原因は発熱だったようだ。言われてみれば確かにAさんはいつもよりダルそうな感じがあり、顔も赤い。

家に帰ってからのアドバイスをしている看護スタッフCさんと

感謝の言葉を交わしているAさん。

私は、何も言えずその場を離れ、
無気力のままAさんのご家族に状況説明と送迎のお願いを連絡した。

Aさんの家族:
「体調不良に気付いて頂き、本当にありがとうございます。流石は専門職ですね!」

私:「……」

どれくらい時間がたっただろうか。

気付いた時、私の周りには誰もいなかった。
どうやら、Aさんだけでなく、利用者様もスタッフも、皆帰ってしまったらしい。

外に出ると、そこには風に吹かれるまま宙に舞う枯れ葉たち。
まるで今の私のようだ。

私は完全に侮っていた。
Aさんに認知症の診断があるというだけで、
認知症の症状による、寒さだと勝手に推測してしまっていたのだ。

Aさんは発熱から寒がっていただけなのに。

こんなはずではなかった。

今年の冬は、例年にない寒さです。
ニュースでは、毎年そういう言葉が聞かれる。

しかしながら、今年の冬ばかりはまんざらでもない寒さの予感。

立ち尽くす私の身体は冷え切っていた。
他のスタッフたちが、丁寧にエアコンの電源も切っていったようだ。

身体も、そして心も凍え始めた私。
長い冬は、まだ始まってさえいないのに…

                                       完

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