見出し画像

すげー面白かったけどすげー悲しい|「さくらのまち」作:三秋縋

「三日間の幸福」、「君の話」を読んでファンになった三秋縋さんの新作を読んだ。一日目で1割くらい進んで、二日目で残りの9割を読み切った。ペース配分が終わっとる。

設定とキャラが全部凝られててすげーいい。展開も、過去と現在の時間軸が平行して進んでいくちょっと特殊な構造になっている。ほんで、明かされていく事実の順番や伏線の張り方が丁寧だから、謎が謎を呼ぶ展開。本当に、物語の最終盤まで「めっちゃ気になる」謎が一つ以上持たされた状態で読まされたから、疾風怒涛の勢いで読み終わってしまった。最終的には主人公が前を向く終わり方なんだけど、「あまりにも救いがなさすぎるのでは……」とは感じた。三秋縋さんの小説を読む前だから、ある程度腹は括っているのだけど。でも、もうちょっと後味が良い方が、僕にとっては好みだったかなーと思う。

今まで読んできた作品の例に漏れず、現実世界を基にしつつもちょっと設定がSFだ。皆が国から配られた腕輪を付けて、健康状態を四六時中監視されている。装着者の身体的な異変を感じ取ったら、すぐさま病院に入院させられる。そして、どのような病気だったのかを知らされることもなく、退院させられる。そんな、過剰に自身の健康状態を管理されている舞台で起こった話。

その健康の中には精神的な健康も含まれていて、装着者の自殺リスクも暗に測られている。そのリスクがある閾値を超えたら、装着者の元にスパイが送られる。一般に、プロンプターと呼ばれているそれは、対象者の善き友人となり、自殺から救う役割を国から与えられる。対象者の自殺リスクが閾値を下回ったら、プロンプターは晴れてその任務を解かれる。プロンプターとして選ばれる人は、対象者のクラスメイトであったり、教師であったり、遠い知り合いだったりする。

そんなプロンプター制度が世に知られる中、卑屈な人が「自分の周りにいて、関わってくる人は皆プロンプター(隠語としてその意味を持つサクラとも呼ばれる)なのではないか」という妄想に憑りつかれる人が一定数いる。それをサクラ妄想といい、本作品は、そんなサクラ妄想を題材にした、めちゃくちゃ壮大で悲しいすれ違いが解決される話だったと言える。アンジャッシュのコントLv.500000000000ってこんな感じなのかなと思った。思ってない。

上記のプロンプターにまつわる設定と、その架空の設定によって引き起こされる心の病を扱ったお話だから凝ってるなーと思う。ほんで、特殊な設定の中で、自尊心が終わってる主人公の心の動きが妙にリアルで、やっぱりちょっとソイツの気持ちが分かってしまって、いつしか感情移入してしまう。三秋さんに毎回、この手法に嵌められている気がする。僕から進んで嵌りに行ってる訳だけど。でも、自分が思春期真っ只中だったら、そんなサクラ妄想に憑りつかれててもおかしくないよなーとか思う。三秋さんの小説が好きな人は、主人公の気持ちがなんか分かっちゃう人が多いんだろうなーとも思う。

キャラがめっちゃ濃い。中学生の頃に友人からひどい裏切りにあってサクラ妄想を拗らせている主人公。相手の"理想"を演じることでしか人との接し方を知らないヒロイン。環境が違っただけで、主人公と同じ性質を持っているから、気持ちが理解ってしまう友人。最愛の姉を失ってしまったことで、計6人以上のプロンプターを携えていた自殺願望マシマシのヒロインの妹。みんな強い動機というか、行動の指針を持っていて、ほんで皆やりたいことがバラッッッッバラだから、果てしなく人物相関図の矢印が複雑に絡まっている。その絡まりを解いていくのが気持ちいい。まぁ、解ききって後ろを振り返ったら、何も残っていなかったんだけど。

あと、粗方ヒントが出尽くしたタイミングだったけど、ヒロインの真意というか、心の動きに気づけたのが気持ちよかった。ミステリー小説って、自分で一度考えてみた方が楽しいんだなと、初めて思った。

最後に、ヒロインが自殺を測ってしまった理由って、鯨川を殺したのに、次のプロンプターとして主人公が現れなくて絶望したから……って解釈で合ってる? としたら、一体誰がヒロインのプロンプターになったのかが謎として残るけど、あんまり気にしないでもいいのかな。

最後の最後に、文章がほんまお洒落。「上手いこと言うな」と思わずツッコミたくなる表現が無限にある。あれとこれによくそんな共通点を見出したな、と沢山思った。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集