SquishCraft ~そのグリッドを撃ち抜いて~

 倉庫番はグリッドに支配され続けてきたし、これからも支配され続けるだろう。
 事実、倉庫番というジャンルがここまでジャンルとして浸透したのは、グリッドに従属したシンプルなゲーム性によるところが多いだろう。上下左右に移動するだけというフォーマットが確立しており、プレイする際はその思考の枠内に当てはめれば簡単に手を付けることができる。ルールの抜け道のような解法も存在しない。開発をする際も、行列を使ってマスを管理する方法が基本形として存在し、まだ制作を始めたばかりの初心者も参入しやすい。その意味で、グリッドというものの存在は作る側にも遊ぶ側にも都合がいいのである。

 この考えは魅力的で、いくつかのアイデアを提供してくれるだろう。たとえばこんなゲームがある。

 Grid-Based Sokoban。いかにも同語反復的なタイトルだ。今さらGrid-Basedと言われても、むしろGrid-Basedでない倉庫番を出してほしい、というのが当然の反応だろう。
 しかし実際に触れてみると、これは確かにGrid-Based Sokobanだ。プレイヤーはグリッドを破壊・整形し、目的を果たすために利用する。この同語反復的タイトルは、今さら顧みるわけもない周知の事実を意識させるために付けられたものだった。その事実を強調したうえで、プレイヤーにバキバキとグリッドを破壊させる。易しめの難易度と全体の短さも相まり、明朗でなかなかに気持ちのいいゲームだ。

 ところでこの開発者、bcat112aは他にもゲームを作っている。それが今回の主題であるSquishCraftだ。

 倉庫番にはアピールポイントとなる独自のギミックが追加されるのが慣例だが、今作のギミックは「ブロックを潰して一つにまとめる」ことである。聞くだけなら大したことがないようにも思えよう。しかし実際に動かすと、全く予想のつかない挙動を起こす。
 たとえばここに反射板がある。角度は45°であり、上から入射した光を左へ反射させる。この下にブロックを添え、潰すと反射板の角度が変わる。上から入射するまでは変わらないが、反射する光は左上に向かって出ていく。
 たとえばここにトゲブロックがある。両脇にブロックを置き、この3つのブロックを2/3に潰す。中央でトゲブロックが分かれ、トゲのついたブロックが2つできる。
他にも活用できるテクニックは多い。以下に例を箇条書きで記すが、攻略のヒントとなりうるので、気になる方は飛ばしていただきたい。

  • 一度一つにまとめたブロックを再び分断する。

  • ビームブロックを潰し、ビームの発射位置や太さを変える。

  • 邪魔なブロックに壊れやすいブロックを付与し、トゲブロックで破壊する。

  • トゲブロックを両断し、断面から壊れやすいブロックで押せるようにする。

  • 他のブロックにプレイヤーブロックを付与し、直に操作できるようにする。

  • プレイヤーブロックを複数付与し、1ターンで動けるマスを増やす。

  • 壊れやすいプレイヤーブロックに他のブロックを付与し、トゲブロックで破壊されないようにする。

 様々なテクニックを挙げたが、特筆すべきはやはりプレイヤーに割り算を強要するテクニックだろう。プレイヤーはグリッドの1/2 で切れるブロックを生み出すことに苦心することになる。あるいは反射板の角度を変え、グリッドを斜めに貫くビームを生み出すことに苦心することになる。特にすばらしいのは、これらがグリッドベースの操作から生み出されることだ。
 倉庫番は整数的な操作に支配されている。グリッドの1/2だけ移動する、などということは当然ながら許されない。これは不文律であり、あえてその不便さ、不自然さを顧みることはないだろう。しかしこのゲームは、倉庫番の埒内に身を置きつつも、その不文律の向こうに広がる混沌を垣間見させてくれる。およそ常人には制御しきれない世界がそこに広がっている。
 無論、不便で不自然だからといって、倉庫番が欠陥だらけのゲームというわけではない。ゲームにルールは必要であり、ルールは大なり小なり不便で不自然なものだ。だが不文律に今一度目を向け、グリッドの概念を自ら崩壊させていくことは大きな快感をともなう。SquishCraftはその感覚を味わわせてくれる稀有なゲームなのである。

 最後に、bcat112aの他のゲームにも触れておこう。グリッドベースの操作でグリッドの枠を破るのは氏の得意とするところらしく、SquishCraftの他にも次のようなゲームを制作している。いずれも優れた発想のパズルゲームだ。


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