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【人の理解とブランド論】②意味に感覚を含むことはできるか
ブランドの定義は難しい。
けれど仮に、企業の財やサービスが提供している「価値」が
受け手である消費者にとっての「意味」を持っている状態とした場合、
重要となるのはどのような意味を持っているか、となる。
当然、その意味は他に替えがきかない状態であることが望ましく、
だからこそ差別化や独自性の担保が重視される。
企業の提供している価値が、消費者から独自の意味を持たれている状態。
これが目指すべきゴール。
でも前回述べたように、人間の持つ特性は
「意識は同じにする方向に、感覚はそれぞれの違いを明らかにする方向にはたらく。」
ので、意味が意識の中に留まる限り、脳の「同じことにする」はたらきに常にさらされることになる。
ポーターが Five Forces = 市場における5つの脅威(カテゴリ内競争、新規参入、代替、売り手、買い手)として提示した。それは突き詰めれば、この人間の脳の働きが要因となって起こる現象なのだろう。
一方で、人の感覚は、それぞれの違いを明確にする方向にはたらく。
とすれば、意味の中に感覚の要素を取り込むことさえできれば、独自性の担保に役に立つに違いない。
ここまで考えを整理して、世の中の事象を振り返ってみる。
僕はクルマが好きだ。昔、クルマのできを評価する表現として「ドアが閉まる音」というものがあった。
ペタン、ではなくて、ドン!が良いみたいな。
これって、クルマのできの良し悪しの基準を提示して、その上で良いクルマを所有するという「意味」を、意識ではなく感覚に訴えることで明確なものとした面白い事例だろう。
「移動する手段だから、壊れなければどれでもいい」という方向にはたらく意識に対して、ドン!という音、つまり感覚に訴えることで、良いクルマと悪いクルマの違いを分ける基準を明確にする。
もう一つ、スターバックス。
有名なスターバックスのコンセプトは「 Third Place 」。コーヒーを扱っているけれど、カフェチェーンでなく、自宅とオフィス以外の「あなたにとっての第3の場所」ですよ、ってことです。
だから、利用者に「第3の場所」という意味を明確に持ってもらうために、接客の仕方(回転率ではなく良い体験)や店舗空間(レイアウトや座席の種類と配置)、商品の品揃えがあり、それによって長期に渡り市場に独自のポジションを確立している。
スタバがずっと禁煙なのも、第3の場所にふさわしい演出としてコーヒーの香りが重要だからこそ。ここにも香り、つまり感覚が出てきました。
どうやら、意味づくりにおいて意識だけではなく、感覚に訴えることが有用なようです。
昨今、体験価値が重要と言われます。
提供している価値が、消費者の体験を通して意味を持つ。
体験とは意識だけのものではなくて、感覚も含めた経験です。
そう考えると、独自の意味を持ってもらうために、感覚が重要なのは当たり前のことなのかもしれません。
意味に感覚も含めること、それがブランド構築には重要。
それでは。
すずきともゆき