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「マーケティング=販売促進」ではない。サブスクに見る今後求められるマーケティング活動
※本シリーズはMarkezineでの連載【マーケティングとブランドのシアワセな関係 〜アフターデジタル時代に向き合うマーケターに向けて】全5回の転載となります。第3回となる今回は、サブスクリプションサービスを例に、これから求め得られるマーケティング活動のあり方を考えます。
利用に対して対価を払うサブスクリプションが登場
第2回の記事は、一握りの優れた経営者によって創出されたブランドであってもマーケティングの視点からそのブランドが成り立つ構造を理解すれば、再現性あるものへと昇華することができるということを、スターバックスというブランドを例に説明しましたね。
僕らのような、限られた一握りではない側にいる人間にとっての朗報をもう一つ。デジタルが経営やマーケティングにもたらしたものについて、お話ししていきましょう。
マーケティングは「価値を創造する交換過程をつくる」活動です。したがって、価値交換の対象となる財やサービスそのもののデジタル化が可能なものは、すでにその価値交換過程のデジタルトランスフォーメーションが実現しています。
たとえば、音楽ではApple MusicやSpotify、映像ではNetflixやAmazonプライム・ビデオ、書籍ではKindle Unlimitedなど。この記事を読んでくださっている方も、すでに利用しているサービスがあるのではないでしょうか。
今紹介したサービスはすべて、加入することでコンテンツを利用する権利を得ることができる、サブスクリプションサービスです。コンテンツそのものの所有に対価を払っているのではなく、利用する権利に対価を払っている、と言えます。
「マーケティング=販売促進」ではない
たとえば、サブスクリプションサービスが登場する前の音楽の楽しみ方はどうだったでしょうか?
ひいきにしているアーティストのアルバムやシングルなどのCDが発売されると、それをCDショップで購入して楽曲を楽しむ、あるいはレンタルショップでCDを借りて、個人的利用の範囲内で録音(コピー)し楽しむ、というのが一般的だったように思います。
この状態を楽曲提供側から捉えると、ユーザーに届けるためには、いずれの場合も楽曲を販売する場(CDショップやレンタルショップ)にCDを物理的に配送しておくことが必要になります。楽曲提供者は他にもたくさん存在するので、結果としてCDショップやレンタルショップには多くのアーティストの楽曲が集まり、店頭に並ぶことになります。
その環境下で自社の楽曲をたくさんのユーザーに届けるためには、売り場を確保すること(売ってくれるお店を増やすこと)、店頭での露出を増やすこと(良い条件で店頭に並べること)、つまり流通対策と言われるプロセスが重要になります。いわゆるBTL(Bellow The Line)や、セールスプロモーションと呼ばれるプロセスです。
そしてこれは、別に音楽に限ったことではなく、ユーザーとの価値交換プロセスに第3者(小売店)を含む業界、いわゆる B2B2C に共通するものです。
マーケティングは「価値を創造する交換過程をつくる活動」ですが、一方でマーケティングは売ってなんぼ、つまり販売促進そのものだ、と解釈している方が多いことも認識しています。そういった認識は、このような背景があって生じた現象だと考えています。
マーケティング=ビジネスモデル、その理由は?
デジタルが普及した現在、サブスクリプションサービスの登場によって音楽の楽しみ方は様変わりしました。
サービスによって聴くことができる楽曲数やアーティストが異なるので、一人のユーザーとしてどのサービスに加入するかは非常に悩ましいところです。これはサービス提供側からすると、ビジネスの成功・失敗を分ける重要なポイントなので、自社サービスを選択してもらえるように当然対策をしています。
一定期間を無料で利用できるように設定したり、無料で利用できるコンテンツを用意したり、いわゆるお試し機会の提供です。
お試し期間を設けることでサービスの魅力を体験してもらい、納得した上で課金してもらう。これはいうまでもなく、デジタルが可能にしたことです。現在の音楽サブスクリプションサービスの多くは以下のような形になっています。
(1)提供するコンテンツ(楽曲)がデジタル化されているので、ユーザーに届けるためのコストが低く抑えられた結果、お試しでのコンテンツ(楽曲)提供が容易になった。
(2)ユーザーはお試し(無料)でコンテンツを体験し、お試し期間中にユーザーに提供した価値が、その後のサービス利用の可否を決める。
(3)価値に納得したユーザーは、利用料を払ってサービスを継続利用する。
売り上げを計上できるプロセスは(3)ですが、このサービスが成功するかどうかを決定する重要なプロセスは(2)です。
マーケティングを「販売促進活動」として捉えると、その視点による最適化は、(3)を如何に効率的に増やすか、になります。
マーケティングを「価値を創造する交換過程をつくる活動」と捉えると、その視点による最適化は、(2)を中心にしたプロセス全体、価値提供のあり方の構築にまで及びます。そして後者は、ビジネスモデルを考えることと同じ。つまりマーケティング=ビジネスモデルになります。
大切なのは売ることではなく良く利用してもらうこと
そもそも財やサービスが存在する理由は、それを利用してもらうためです。そして利用してもらうためには、ユーザーに手にしてもらうプロセス、提供側からすれば売るというプロセスが必要だった、ということです。
企業は、財やサービスの利用によって得られる価値の提供が本質的な目的で、売ることはその過程の一部、つまり目的ではありません。本来企業が注力するべきは、財やサービスをユーザーが活用しているシーンのはず。まさにマーケティングは価値ありき、です。
財やサービスそのものが簡単にはデジタル化できないもの、たとえば食品や飲料、自動車などの業界でも、サブスクリプションサービスは増えてきています。この場合、企業が売っているのは、財やサービスそのものではなく、それらを利用することです。
自動車のサブスクリプションサービスで売っているものは、自動車そのものではなく、自動車を利用する環境、自動車(Product)だけでなくその維持に必要な整備、安心して利用するために必要な保険、そして税金の支払いなどを含んでいます。
このところ、ファンベースマーケティングやロイヤリティマーケティングなど、ユーザーの利用シーンに注目したであろうワードを良く目にするようになってきました。これらは、マーケティングを「価値を創造する交換過程をつくる活動」として捉えると、マーケティングの一部を捉えた事象だということが理解できます。
そして、ファンベースマーケティングや、ロイヤリティマーケティングは、売ることを目的としないことによってはじめてその可能性が拡がる、ということも。
「価値を創造する交換過程をつくる活動」としてのマーケティングをどう評価するか
売ることを目的としないマーケティング活動の評価はどうあるべきか。マーケティングは価値ありき、であることは良しとしてその活動をより良くしていくにはどうすればいいのか。
それに対する僕の答えは、ブランドとして評価をすること、です。そしてマーケティング活動をより良くしていくために必要なことは、ブランド開発だと考えています。
この連載もいよいよ終盤に差し掛かってきました。次回はブランド開発と管理について、オプトが2019年に実施した自主調査の結果も踏まえ説明していきます。
それでは。