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アーロン・ソーキン伝 ~半生と全作紹介~
アーロン・ソーキンをご存じか?
アーロン・ソーキンは現代最高の脚本家のひとりだ。いまの映画、ドラマはアーロン・ソーキン抜きには語れない。
『ア・フュー・グッドメン』『ソーシャル・ネットワーク』『スティーブ・ジョブズ』……彼の書くシナリオはどれもすごい。人物から熱意があふれ、膨大なセリフが舞う。しかし! こんなすごい脚本家にもかかわらず「アーロン・ソーキン」と言われてピンと来る人は少ないそこで!
アーロン・ソーキンとは何者かを知ってもらうべく、ここで彼の半生と作品群を追う。上から順に読むもよし、目次の作品名をクリックすれば解説に飛ぶのでそれもよし。読み方ご自由ではどうぞ。
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生まれてから売れるまで
アーロン・ベンジャミン・ソーキン(Aaron Benhamin Sorkin)は1961年ニューヨークに生まれ。同じ年に生まれたのがマイケル・J・フォックス(同じ日)、ジョージ・クルーニー、バラク・オバマなどなど。日本だと栗山英樹(北海道日本ハムファイターズ)、松本孝弘(B'z)、石橋貴明(とんねるず)といった面々。1年下にはトム・クルーズ、デヴィッド・フィンチャーもいる。そういう年代。
彼の家は司法一家と言ってよく、父は弁護士、姉、兄ものちに弁護士になる(母は学校教師)。ソーキンの作品に法廷劇が多いのはこの影響だろう。そもそも出世作『ア・フュー・グッドメン』は姉が話したあることから……とこれは先の話なのでお楽しみに。
俳優志望だったアーロンは司法の世界には行かず、高校で演劇部(副部長)、大学でミュージカルを学ぶ。しかし大学1年生のときに必修科目の単位を落とし俳優として舞台にあがれなかった。アーロンくんの挫折。彼の作品の中で主人公は手痛い挫折を経験する。敗北が深く刻まれ、そこから立ちあがる物語が多いのは、きっとこの経験があるからだろう。
大学を出たあと、いくつもの仕事を経験した。歌入りの電報配達(『未来世紀ブラジル』で出てきたような?)、リムジン運転手、子ども劇団の地方巡業……。そんなとき、友人の家にあったタイプライターを打ってみた。すると彼の中でなにかが噛み合った。「人生で一度も経験したことのないような驚異的な自信と喜びを感じた」彼は、仕事をしつつ舞台の脚本を書いていく。
最初の戯曲は1984年『Removing All Doubt』、つぎに1988年『Hidden in This Picture 』。後者はのちに『 Making Movies』(1990)という長編劇に直され上演される。
そしてソーキンに人生を変える転機が訪れる。その日ソーキンは姉と電話で話した。姉がいまたずさわっている仕事について話を聞く。キューバのグアンタナモ基地で起こった米兵同士の殺人事件で、姉はその弁護役らしい。これだ! 当時、劇場のバーでバーテンをしていた彼は、仕事の合間に紙ナプキンに物語を猛烈に書きつづった。
劇が一幕を終えるまでに物語はほぼすべてできあがっていた。『ア・フュー・グッドメン』。のちに世界的にヒットする映画の脚本だ。
演劇から映画界へ
『ア・フュー・グッドメン』ははじめ、オフ・ブロードウェイで朗読劇として上演された。そこに『スティング』『ジョーズ』など数々の名作を送り出してきたプロデューサーが現れる。ハリウッドからの使者は舞台化権と映画化権を買っていき、アーロン・ソーキンに「優に6桁を超える」額をもたらす。アーロン・ソーキンは一夜にして「神童」となった。
舞台公演は成功した。1989年11月からブロードウェイで497回もの上演を重ねた。映画はさらに成功する。3年後の1992年に監督ロブ・ライナー、主演トム・クルーズで公開され、アメリカで1億4千万ドル、世界で2億4千万ドルもの興行収入をたたき出す(製作費は4千万ドル)。
こうしてアーロン・ソーキンは映画界へ進出する。『ア・フュー・グッドメン』で監督をしたロブ・ライナーの映画会社「キャッスル・ロック・エンターテインメント」と契約を結ぶ。
このころのロブ・ライナー監督作はやばくて、『スタンド・バイ・ミー』(1986)、『プリンセス・ブライド・ストーリー』(1987)、『恋人たちの予感』(1989)、『ミザリー』(1990)、そして『ア・フュー・グッドメン』(1992)。傑作、良作ぞろいのイケイケ期。
ノリノリのロブ・ライナー&「キャッスル・ロック」のもとでソーキンは3本の映画化作品を生み出す。先述の『ア・フュー・グッドメン』、『冷たい月を抱く女』(1993)、『アメリカン・プレジデント』(1995)だ。
「キャッスル・ロック」での映画
『ア・フュー・グッドメン』
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第1作『ア・フュー・グッドメン』は、先述のとおり姉から聞いた実話を元にした作品だ。キューバ、グアンタナモ基地で米兵が米兵を殺す。軍事裁判で弁護役となったのは、数年で軍を辞めて民間弁護士になろうとしているなんかチャラい男だ。それをトム・クルーズが楽しげに演じている。トムの明るい演技とロブ・ライナーの小気味よい演出がうまく噛み合っている。さらに、トム側弁護士チーム3名の仲間感もよくて、チームものとしてのおもしろさもある。弁護士としての自覚に欠けたチャラいトムが、しだいに「正義」と「仕事」に目覚めていく様も見どころ。
アーロン・ソーキン脚本としては実質世に知られたデビュー作だけど、このときからすでにセリフのよさ、ガツガツとしたぶつかり合いは発揮されていて、映画としてのおもしろさもじゅうぶんにあって、入門編として最適。
『ア・フュー・グッドメン』(1989)
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『冷たい月を抱く女』
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翌年公開の『冷たい月を抱く女』は『ア・フュー・グッドメン』と制作時期がかぶっていて、ソーキンは一時脚本から離れ、別の脚本家が手を加え、最後にソーキンが戻ってきて完成させた。それがゆえか、ややちぐはぐなストーリー展開だけど、いま観ると珍品的なおもしろさもある。
内容は、当時流行っていた『氷の微笑』的エロティック・スリラーなのだけど、「連続殺人事件」と「医療ミスによる賠償問題」という噛み合わないふたつの軸が並行して描かれる。しかし突如として激しい言い合いのソーキン節がはじまったりして、ソーキンの作風を知って観ると味わいがある。ミステリーとしても二転三転あって退屈しない。
『冷たい月を抱く女』(1993)
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『アメリカン・プレジデント』
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つづく『アメリカン・プレジデント』は政治ラブコメディで、アメリカ大統領が環境ロビイストの女性に恋をする物語。ソーキン作品の中ではいちばんリラックスして観られる(ただし一箇所、イスラエルによるアラブへの報復攻撃のくだりがあって、この時期ではそれなりの配慮が感じられるが現在の視点で見ると複雑な思いになる)。
大統領が恋をして結ばれる話かと思いきや、最初の30分でふたりは結ばれて、それ以降はまわりから軋轢や敵対候補からの攻撃を受けるという内容だ。さらに大統領にとっても恋の相手である女性にとっても重要な法案を通すか通さないかいう政治の駆け引きも加わり、政治劇&恋愛劇という難しい内容をそう思わせずに見せていく手法はすごい。
大統領のスピーチライター役としてマイケル・J・フォックスが出ていて、このころのチャキチャキとした演技っぷりを観るとうれしくなる。すっごい啖呵を切るシーンがあるので必見。
ちなみにこの作品、脚本ははじめ385ページもあって長すぎた。それを120ページまで刈り込んだのだけど(3分の1!)、これがのちの伏線になるので覚えておいて。
『アメリカン・プレジデント』(1995)
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ソーキン、テレビドラマ界へ行く
映画脚本を3本書いたあと、ソーキンはテレビドラマに進出する。夜中、執筆中にいつもスポーツ番組をつけていたソーキンは、スポーツ中継やスタジオ、その舞台裏が物語になるとひらめく。はじめは長編映画を想定していたがテレビドラマに変更、『Sports Night』 (1998~2000)となる。
『Sports Night』は批評家に絶賛されるが視聴率低迷を理由に2シーズンで終了。しかし翌年、テレビドラマの金字塔『ザ・ホワイトハウス』(1999~2006)を立ち上げ大成功に導く。
『ザ・ホワイトハウス』
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このホワイトハウスを舞台にした政治群像ドラマは、エミー賞で最優秀作品賞を4年連続受賞、ドラマ全体では計26回受賞(最多)と現代ドラマを代表する作品となった。特にソーキンの功績は偉大で、矢継ぎ早に繰り出される膨大なセリフの応酬や、歩きながらセリフの掛け合いをつづける「ウォーク・アンド・トーク」はソーキン脚本の代名詞ともなった。
ちなみにこのドラマの元となったのは、かつて脚本を385ページから120ページにまで削った『アメリカン・プレジデント』。カットしたホワイトハウスネタはたくさんあり、それがこのドラマに生きたのだ(伏線回収!)。
このドラマはシーズン7まで作られ、ソーキンは第4シーズンまで脚本、制作総指揮を担当した。
『ザ・ホワイトハウス』(1999~2006)
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薬物と復帰
2001年にソーキンは、幻覚キノコ、マリファナ、クラック・コカイン、マリファナ所持で逮捕された(たくさん持ってんな)。『ザ・ホワイトハウス』は第2シーズンを終えたところで、ドラマ界でブイブイ言わせているときだ。
ソーキンの執筆方法は独特で、数話先までのプロットを作らず、ギリギリになるまで書かない。本人いわく、ストーリーを作るのは苦手らしい(ホントか?)。タバコをブカブカ吸い、動き回りながらセリフをしゃべり作っていく。あるときなど、鏡に向かってセリフの掛け合いをして、勢い鏡に激突し鼻を折ってしまった。心配した人が声をかけると、いま考えた脚本を読んでくれと言ったらしい。
そういう、心にも体にもダメージのある書き方をしていたので、ストレスから薬物に手を出していたのかもしれない。ちなみにソーキンの薬物歴は1987年からだそうで、創作の初期段階からお友達だったということだ。ソーキンは1995年には薬物中毒治療を受けたり、2001年はじめに、薬物から復帰したで賞をもらったり、その同じ年に先述のとおり逮捕されたり、いろいろあったけど、2012年の時点でもう11年間コカインから遠ざかっていると言っているので、いまはクリーンなのだろう。
ソーキンは2022年に高血圧が原因の脳卒中で倒れて、以来煙草をやめて健康に気をつけているとのことだ(お大事にしてください)。
テレビ、舞台、映画の3本柱
その後、ドラマでは『Studio 60 on the Sunset Strip』(2006~ 2007)、『ニュースルーム』(2012~2014)という作品を手がけていくが、舞台と映画にも復帰する。
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『ニュースルーム』(2014~2014)
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『ファーンズワース・インヴェンション』
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まず舞台。2005年に『ア・フュー・グッドメン』のロンドン公演のために戯曲を改訂、2007年には新作『ファーンズワース・インヴェンション』を発表する。これは、だれがテレビを開発したのかを物語の主軸にしながら、じつのところアメリカそのものを描こうとする大胆な試みだ。
日本では2024年11月21~24日に札幌で、日本初公演が行われた。すさまじいセリフと情報、熱量の舞台で、その模様を筆者がまとめたのでそちらも参照されたし↓
『ファーンズワース・インヴェンション』
すごいものを観た。弦巻楽団『ファーンズワース・インベンション』
弦巻楽団オフィシャルサイト特設ページ↓
https://40farnsworth.tsurumaki-gakudan.com/
有名個性派監督とのコラボ
『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』
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同じ2007年、『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』で映画界にも復帰する。実在の上院議員チャーリー・ウィルソンが、ソ連の攻撃を受けるアフガニスタンに対し、アメリカが密かに支援するよう画策する政治劇だ。監督は『卒業』(1967)のマイク・ニコルズ。主演はトム・ハンクスで、政治の荒波をくぐり抜けながら正義感を発揮する議員を好演している。さらに特筆すべきはCIAのはみ出し物を演じるフィリップ・シーモア・ホフマン。有能だけどきわめて変人、好感度がまったくないのにもっと観たくなるという不思議な役だ。
この映画は2007年公開なのでもちろん3.11後。映画は、武器支援を受けたアフガニスタンがソ連を撤退させて終わるが、結果、その銃口が今度はアメリカに向いてくることを予感させて終わる。一度観たときはピンと来なかったけど二度三度観るたびに面白さが増してきて、個人的に好きな映画になった。
『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』(2007)
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このあともソーキン脚本は冴えわたる。『ソーシャル・ネットワーク』(2010)、『マネーボール』(2011)、『スティーブ・ジョブズ』(2015年)。つ画界の話題となる作品を連発し、ソーキンの脚本作が発表されるたびに人々はわくわくした(人々というのは僕みたいなソーキンファンだ)。
この時期の映画は、ソーキン脚本を実力派監督がどう演出するかという側面もあって、『ソーシャル・ネットワーク』はデヴィッド・フィンチャー(『セブン』『ファイト・クラブ』)、『マネーボール』はベネット・ミラー(『カポーティ』『フォックスキャッチャー』)、『スティーブ・ジョブズ』はダニー・ボイル(『トレイン・スポッティング』『スラムドッグ$ミリオネア』)というコラボレーションだ。
『ソーシャル・ネットワーク』
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『ソーシャル・ネットワーク』はFacebook創業者のマーク・ザッカーバーグを主人公に、複数の裁判が並行して語られ、創業し隆盛していくなかで彼らになにがあったのかを回想的に描いていく。超絶的な構成技法だ。アーロン・ソーキンの脚本は絶賛され、アカデミー脚色賞を受賞する。僕個人としてはアーロン・ソーキン脚本のなかで最上位に好きだ。
聞いた話によるとこの映画はベンチャー企業家のモチベ映画にもなってるらしく、一大学生が革新的なアイデアで仲間たちと会社を興し成り上がっていくさまで上がるらしい。そういう夢のような一面と影の部分を持ち合わせる映画だ。
『ソーシャル・ネットワーク』(2010)
NETFLIX
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『マネーボール』
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つづく『マネーボール』も激スゴ。貧乏野球チーム「アスレチックス」のGMであるビリー・ビーンは、金持ち球団に勝つために、野球を数値化する「セイバーメトリクス」の理論をチームに導入する。しかし球団内外から猛反発を受けチームはガタガタ。はたして彼の「革命」は成功するのか……。
野球、数字、セリフ、家族、ドラマ……いくつもの要素をお手本のような構成でしっかりまとめあげ、感動させラストの余韻まで持っていくソーキン脚本と監督ベネット・ミラーの腕ががっちり噛み合った名作。主人公ビリーを演じるブラッド・ピットのセリフ力はピカイチで、ソーキンのズバズバ言う脚本に乗って心地いい。演技、脚本、監督、どれをとってもすばらしい。個人的にソーキン作品の中でいちばん多く観た映画。
『マネーボール』(2011)
NETFLIX
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『スティーブ・ジョブズ』
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コラボ映画の最後となる『スティーブ・ジョブズ』は、ご存じアップル創業者スティーブ・ジョブズが主人公。彼の人生の転機となった3つのスピーチ、1984年のMacintosh、1988年のNeXTcube、1998年のiMac発表直前に、ジョブズと周囲の人間のあいだでなにがあったのかが描かれる意欲作。
『スティーブ・ジョブズ』(2015)
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ソーキン監督爆誕!
『モリーズ・ゲーム』
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実力派監督たちとのコラボののち、ソーキンは自ら監督業に乗り出す。第1作『モリーズ・ゲーム』 (2017)は、モーグルでオリンピックを目指していた女性モリーが願いかなわず挫折し、非合法ポーカークラブをはじめるというスリリングな半生を描く。実在の人物の自伝の脚色で、自伝を書いたモリー本人がソーキンを指名したという(モリーいい目をしている)。
『ソーシャル・ネットワーク』『マネーボール』『スティーブ・ジョブズ』の流れで観てしまうとソーキン監督の演出はややシャープさに欠けるが、単独で観ると悪くない出来。じゅうぶんに楽しめる。特筆すべきはモリーの父親(ケビン・コスナー)の存在で、彼女のなかに父親という重圧から逃れたいという思いがある。これは『ア・フュー・グッドメン』でも主人公の中にあったもので、ソーキンと父親の関係がかいま見える。
『モリーズ・ゲーム』(2017)
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『シカゴ7裁判』
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監督第2作目『シカゴ7裁判』 (2020)はかなり良作で、これからソーキン作品を観る人に(NETFLIXに入ってる人に)オススメする作品だ。もともとは劇場公開の予定だったが、新型コロナの影響があって映画会社がネトフリに売った。とにかくいい役者ばかり出ていてソーキンの脚本を引き立たせている。
1968年、大統領選を控えて行われたシカゴの民主党大会で、全国から集まった支持者のデモが警官隊と衝突し、数百名の負傷者が出た。その原因として7名(+1名)が裁判にかけられ、彼らと弁護団は法廷で戦うことになる。
当時のヒリつく社会状況を映し出し、若者デモのリーダーたちのありあまる個性を生き生きと描く。役者たちはみんなよくて、弁護士はマーク・ライランス(『ブリッジ・オブ・スパイ』)、起訴されたメンバー(「シカゴ7」と呼ばれる)も、エディ・レッドメイン(『ファンタスティク・ビースト』シリーズ)、サシャ・バロン・コーエン(『ボラット』)などなど。フランク・ランジェラ(『フロスト×ニクソン』)演じる裁判長はムカつくし(好演)、敵であるはずの検事ジョセフ・ゴードン・レヴィット(『インセプション』)もかがやいている。
ちなみに検事役が好敵手であるにもかかわらずどこか善的な要素も出すというのは『ア・フュー・グッドメン』のケヴィン・ベーコンがそうだった。
『シカゴ7裁判』
NETFLIX
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『愛すべき夫妻の秘密』
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そして現在のソーキン最新作は『愛すべき夫妻の秘密』(2021)。パッとしない邦題にまどわされることなかれ。これは1950年代に驚異的な人気を博したドラマシリーズ『アイ・ラブ・ルーシー』のルーシー夫妻の実際を描く、創作の舞台裏もの&夫婦のヒリつく関係もの&赤狩りの政治劇&女性の自立を巡る現代的テーマ……などなどいくつものテーマをぶちこんだ濃厚な、濃厚すぎる一作だ。
ソーキンの代名詞である膨大なセリフと掛け合いもすさまじく、僕は字幕派なのだけど途中からあきらめて吹き替えで観た(ちなみにこれはアマゾンプライム配信作品)。
ルーシー夫妻は劇中だけじゃなく実際にも夫婦で、夫の浮気騒動によってその関係に亀裂が入る。そんなおり、ルーシー自身にかつて共産党員だった疑惑が浮上。人気絶頂だった『アイ・ラブ・ルーシー』は打ち切りの危機を迎える。『アイ・ラブ・ルーシー』はシットコムの元祖と言っていい番組で、客の前で収録を行う。つぎの収録まで刻々と時間が迫ってくる中、本読みをして脚本を直し、立ち稽古をしてドラマの質を高めていく。ルーシーが客の前に姿を現したとき、客は拍手で迎えるのかそれともブーイングが起こるのか。その瞬間に向かってドラマは進んでいく。
『愛すべき夫妻の秘密』(2021)
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さあアーロン・ソーキンを観よう!
実力ある人気脚本家は、質の高い個性派映画監督となった。しかし彼は2016年に『アラバマ物語』を脚色し舞台化、2023年にはアーサー王伝説を元にしたミュージカル『Camelot』の脚本を改訂、上演した。かつて必修単位を取れず舞台に上がれなかった演劇青年は、またこの場所にもどってきている。
これからどんな作品を作っていくのだろう。どんな脚本を書いていくのだろう。楽しみ、楽しみ。
本記事はウィキペディア英語版のアーロン・ソーキン欄とその註釈先の記事から多くの情報を得た。作品内容や解説は著者が実際に鑑賞した感想である。
https://en.wikipedia.org/wiki/Aaron_Sorkin