BtoCのカスタマーサクセスを語るなら奥谷 孝司さんの「顧客時間」を抜きに語れない
openpage代表の藤島です。最近、BtoC企業様のカスタマーサクセスのご相談を受けることが増えております。
先日、「カスタマーサクセスはBtoBのノウハウだと思うのですが、我々のようなBtoCの事業者が本で学ぶとしたら、何を学べばいいと思いますか?」とご質問を受けました。
私の答えは、「それはズバリ、奥谷 孝司さんの『顧客時間』の発想を学ぶといいですね」とこちらの書籍『マーケティングの新しい基本 顧客とつながる時代の4P×エンゲージメント』を勧めました。
奥谷 孝司さんの『顧客時間』、BtoCのCRMに携わる方であれば皆さんご存知かもしれないのですが、カスタマーサクセス経営者の立場でぜひ奥谷さんのお考えを広めていきたく、解説記事を書こうと思います。
奥谷 孝司さんがプロヂュースしたテックタッチポイントとなる「MUJI passport」
奥谷 孝司さんは、2010年から良品計画のWEB事業部の責任者として、WEBとリアルの体験構築を率いており、小売店のアプリ構築として先駆的な事例となる「MUJI passport」をリリースしました。
このアプリは「BtoCのカスタマーサクセスの元祖」とも呼ぶことが出来るでしょう。当時はカスタマーサクセスという言葉がなかったため、このアプリは、『デジタルCRMプラットフォーム』と呼ばれていました
デジタルの体験を元にデータを蓄積し、最適なアプローチへ
「MUJI passport」は、バーコードをレジで見せたり、店舗近くでチェックインをすれば割引に使えるポイントが溜まる仕様でした。それだけを聞くと、「単なるクーポンアプリ?」と思うかもしれませんが、このデジタル体験はヘルススコア(顧客と企業の関係をデータで表す)を蓄積する裏のメリットがあったのです。
「MUJI passport」は、どの店舗でよく購入するのか、どの時間にアプリの通知に反応してくれるのか、アプリ内ではどんなコンテンツを視聴しているのかといった、顧客を知るためのデジタルデータが蓄積されます。
また、実店舗でアプリを用いて購買していただくことで、なんの商品をどのくらいの頻度で購入したかのデータも溜まります。
良品計画は、これらのデータをCDPのトレジャーデータやAWSのデータウェアハウスに格納し、顧客へのオファーや連絡の最適化に活用しています。
つまり、デジタルの顧客接点が「顧客を知る」ための導火線になっており、オンラインとオフラインのつなぎ目となっている、今で言うところのOMO(Online Merges with Offline)の先駆けだったのです。
商品購入時のみではなく、選択→購入→使用の一連の体験(顧客時間)を設計する
そして話は現代に戻ります。現在、奥谷 孝司さんは、「顧客時間」のメソッドを提唱するコンサルティング会社を経営しています。
こちらの図は、書籍『マーケティングの新しい基本 顧客とつながる時代の4P×エンゲージメント』で用いているものです。
奥谷さんのこの図からわかるのは、「顧客の購入」だけではなく、「選択」や「使用」といった購入の前からカスタマーサクセスに至るまでの顧客体験を意識したものであるということです。
奥谷さんの考える「顧客時間」とは、製品の購入よりもっと広い時間軸で、顧客と接点や体験を作ることができる。それも、オンラインとオフラインでという、「売らんかな」精神の視野を広げてくれるものです。
そして、その購入前後の体験を作り込むには、それを行うための「場」を企業が用意しなければなりません。
「場(プレイス)」を軸とした新しいマーケティングモデル
そこで奥谷 孝司さんが提唱する考えは、場(プレイス)を中心とする4Pモデルです。このモデルこそ顧客時間のキモであり、私がBtoCのカスタマーサクセスを学ぶならどうしても知ってほしい内容です。
4Pとは1960~1970年代に生まれたマーケティングの古くからあるフレームワークです。もう50年以上昔のフレームワークのため、それぞれの「P」は進化しています。デジタルな進化です。
プロモーションはデジタルの広告媒体が普及し、ビッティングシステムやターゲティングの仕組みが進化しました。プライスは、従量課金やサブスクリプションなどダイナミックプライシングを実現出来るようになりました。プロダクトは、IoTなどインターネットと結びついた製品に変わりつつあります。
そして、ここで奥谷 孝司さんが着目したのが、プレイスです。
奥谷さんの2018年に発売されたこちらの書籍、『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』では、Amazonのチャネル戦略について描かれていました。
チャネルが単なる販路ではなく、「顧客とより深くコミュニケーションするための新しい場」となっていることを、Amazon含む様々な事例をあげながら説明された書籍です。
例えば、私もAmazonを使っていますが、今やAmazonはチャネルを通じて様々なコンテンツを提供しているため、私の「好きな音楽」「好きな映画」「普段の買い物」「購買の興味」「日用品を買うペース」「よく読む漫画」など様々な情報を知っています。
私とAmazonの繋がりはもはや10年以上。私以上に私のことを知っている側面もあるかもしれません。自社ECを持つ洋服もAmazonでまとめて買ってしまったり、Amazonが開発したお米や水などを購入しており、もはやAmazon漬けです。
こうなると、チャネルが企業にとっての「学習装置」として働きます。製品開発、プロモーション、割引設定などの精度が高まり、そのことが強い競争優位性に繋がります。
顧客接点と顧客の繋がり、体験作りとID投資
2018年に紹介された書籍内のAmazonの事例や、先ほど私が説明したような話は、GAFAの話なので自社は全く関係ないな、と捉えてしまうかもしれません。しかし、最新の書籍『マーケティングの新しい基本 顧客とつながる時代の4P×エンゲージメント』において、”マーケティングの新しい基本”と奥谷 孝司さんが”あえて”名付けたのは、この話は決して他人事ではなく、今後のマーケティングのスタンダードになるという訴えからでしょう。
先ほどの図を拡大したときに重要なのは、プレイスとエンゲージメントです。最近、Salesforceが「1st Party Dataでロイヤリティマネジメント(Loyalty Management)を~」という発信をするのをよく見かけるのですが、つまるところ自社が保有する顧客IDに対して、体験価値を付与してどれだけ顧客を知るデータを得られるか?が重要だという話がグローバルで普及しています。
そしてこの顧客IDに対する体験というのは、顧客にただ購入をしてもらうだけではなく、購入前や購入後の体験を形作る「カスタマーサクセス」の姿勢から作られます。カスタマーサクセスとは、単に購入することを促進するのではなく、顧客の仕事、生活、人生などを成功するためのコミュニケーション体験を作り込むことです。
私はカスタマーサクセスの発信をする過程で様々な情報収集をしているのですが、BtoC事業の領域でカスタマーサクセスというワードを最も発信している方の一人が奥谷孝司さんだと思っています。
結局のところ、企業が購買体験以外のシーンで顧客と接点を持つことを考えるなら、顧客の成功(これは楽しい、美しくなれる、かっこよくなれる、憧れた自分になれる、仲間と喜びあえるなどブランドが提供できるポジティブな感情や体験)をデジタルコンテンツやデジタル体験の中で提供するという話になります。
上記コメントでは、”コンシェルジュ”という表現がされているのですが、LTVを上げるためにクーポン送付など販促の連絡をただひたすらにして追いかけ回すだけではなく、顧客に対した血の通った価値提案をする。この会社と繋がってると得をするな、ずっと繋がってたいなと思ってもらえるブランドになることが重要なのだと私は読み解きました。
カスタマーサクセスを意識する「カスタマーバリューピラミッド」
これまでの話を踏まえて、奥谷 孝司さんは「カスタマー・バリュー・ピラミッド」というフレームワークを書籍の中で紹介しています。
まず、商品とサービスによる「機能」で価値を提供する。そして、ブランドとしての「体験」で価値を提供する。「繋がりと提案」で価値を提供する。この3つの価値提供をブランドとして行うべきだというフレームワークです。
BtoCのカスタマーサクセスにおいて考えるべきは、機能の更に向こうにある、体験・つながり・提案です。これは私もBtoBのカスタマーサクセスを行う中で全く同じことを意識して取り組んでいたものです。
お客様に、「自分の仕事や人生がうまくいく、この人/この会社とつながっていたい、この人からの提案はいつも参考になる…」そう思ってもらえるようなコミュニケーションをいかに行うのか?を考えるのがカスタマーサクセスのミソです。
今後、弊社のopenpageも機能拡張を行い、BtoBで行ってきたカスタマーサクセスコミュニケーションを、BtoCの領域においても行えるような支援やコンサルティングを行っていきたいと思います。カスタマーサクセスという新しい取り組みの可能性をいっそう広げていきます。BtoCの事業者様や広告代理店様も、気軽に情報交換をお願いします。
おわりに
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