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婚活、妊活はお金の問題ばかりではない―心理的側面の重要性

少子化時代に、行政がやっていることはお金をばらまくことでなんとか結婚してもらおう、子どもを産んでもらおうということのように見えます。もちろん、その他のサポート体制も整えようとしているのでしょうが、あまり伝わってきません。
ずっと心理学に携わってきたものとして、常々思うのは、特に女性にとっての結婚や出産、子育てがもたらすものについて理解されていない、ということです。やはり女性にとって、これらは大きな変化をもたらすものですから、大なり小なり不安だとか、怖いとか思うのは自然なことです。多少変わってきてはいますが、これらの政策や制度などが「男性目線」で作られてきていることの影響も大きいかと思います。
旧式の、女性のあり方から見れば文句も言わず結婚して子どもを産み育てるということですが、今ではもっと多様な選択肢があります。女性が自主的に選んだ上でそうしたい、とならないと本人にも家族にもあまりハッピーなことにはならないのです。また、女性が仕事を持っても以前と同じように家事や子育てをこなすことを求められ、「一人で3人分」みたいに働いてしまっている人も少なくないようです。これでは無理があるというのは言うまでもありません。
Barnes(2014)によれば、なにが「良い母親」であるかというのは専業主婦(家に留まっている場合)、パートタイムで働く女性、フルタイムで働く女性などによって違うそうです。専業主婦は、やはり子どもの近くにいつもいてあがられることを優先しますし、仕事を持っている場合は母親であるということは子どものニーズに応えるだけではないと思っていたり、あるいは仕事と子育て両方を自分のアイデンティティを構成し自己実現につながるものだと思っているといった、3つのパターンが発見された、スウェーデンでの研究があったそうです。人間は、置かれた立場により考え方が変わりますから、やはり1つではないということです(「3つのパターン」というのは統計学的なもので、この3つしかない、と言っている訳ではありません)。

ところで、話は変わりますが心理学の有名な実験に「視覚的崖(visual cliff)」というものがあります。これは、日本で言えばちゃぶ台くらいの高さにガラス板を張ったものを用意します。ハイハイするくらいの赤ちゃんがこちらの台からあちらの台に渡りたいのですが、上がガラスであるため、見た目「崖」に見えます。落ちると怖いと思う赤ちゃんは、そのままでは前に進みません(人間の生まれつきの恐怖の原因は2つしかないと言われており、一つが「落ちる」こと、もう一つが「大きな音」です)。
ところが、親など赤ちゃんがなついている人が反対側から「大丈夫だよ! 渡っておいで!」と促すと、赤ちゃんはガラス板を安全と判断して、渡るのです。こうした親などの働きかけを参照するのを「社会的参照」と言いますが、それを実験化したものです。
何が言いたいのかと言うと、現代の日本で結婚してもいい、できたらしたいと思っている人の比率の方が高いのに、なかなか踏み切る人が少ないのはこのように「安全」と思えないからなのではないのか、ということです。または「利益」がないとか、幸せになれると思えないなどと思ってしまっているからではないでしょうか。なにかしらポジティブと思えれば、人は進みますが、不安の方が多いと進みません。
もちろん、家庭、特に子どもを持った場合の経済力というのは重要なファクターではありますが、それは継続的で安定したものでなければなりません。そうした継続や安定を生み出すものは、実は心理的なものなのです。不安やうつ的状態を経験する人は多いですが、それ自体が(あるいはもっと深刻な問題であれ)結婚や出産を阻害するものではないですが、どうしても困難が伴いがちです。
女性が結婚生活や子育て、あるいはその前の婚活で感じる正直な気持ちや思いなどがもっと明らかになることで、よりチャレンジに対しても取り組んで進んでいきやすくなるのだと思います。日々の臨床では女性の正直な声を拾うことが多いです。本当に人それぞれであり、「どれが正しい・正しくない」とか、「どれがいい・悪い」と言うことはできません。「分かってほしい」と思うこともですが、女性自身が自分の気持ちに向き合いそれを伝えていくことも、やはり重要になってくるでしょう。

(注: この記事では「男女」として、また異性愛について書いていますが、伝統的な男女の「二択」に収まらない人たちがいるということも申し添えておきます。生物学的なことがすべてではないですが、最近の研究ではいわゆる「XX(女性)」「XY(男性)」以外にもいろいろな性染色体のバリエーションがあることが分かってきています。まさしく私たちが社会で「こう」とアイデンティティとして感じる、あるいは主張することがまったく根も葉もないことではなかったということが、実証されてきています。)

参考文献:
Barnes, D. L. (2014). The psychological gestation of motherhood.  In Barnes, D. L. (Ed.). Women`s Reproductive Mental Health Across the Lifespan. Springer.

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