「僕らが描く新しい農業」 ハマラノーエン ・ 柳沢卓矢
OPEN MAGAZINE "Interview"では、「場づくり」に焦点をあてて、その領域を担う人物にインタビューを行うことで、未来へのヒントを探ります。
今回は、長野県〔八ヶ岳〕・原村出身の2人組がはじめた農園ブランド・ハマラノーエン。
一般的なメロンや桃よりも甘い「八ヶ岳生とうもろこし」を栽培しているハマラノーエン。一般的なとうもろこしの平均糖度は 16-18度と言われている中で、八ヶ岳生とうもろこしは22度を超えると言います。朝採れの鮮度をキープするために、一本一本、専用設計の鮮度保持袋に入れて、全国各地に届けられています。
2023年夏には「ハマラハウス」がオープン。"体感型農園"という新しいジャンルの確立を目指し尽力されています。「僕らは農家であって農家ではない。農業をよりカジュアルにしていきたい。」とハマラノーエンの共同創業者である柳沢さんは言います。
畑をフィールドに多角的・革新的な取り組みを続ける農園ブランド・ハマラノーエンが目指している姿や、畑という概念を超えた「場づくり」に迫りました。
農園の未来をかけた決断。
-- 柳沢さんのご経歴について教えてください。
柳沢さん:新卒で大手自動車メーカーに就職しました。そこでは営業職を経験し、いわゆる社会人基礎力も学ばせてもらいました。
都会の暮らしに疲れを感じたタイミングで、故郷である長野県へ戻ることにしたんです。それからは自動車メーカー、大手音響機器メーカーに再就職して、キャリアを重ねていきました。
-- なるほど。ますます農家になられたきっかけが気になります。
柳沢さん:都内で暮らしていると、故郷の素晴らしさに思いを馳せることが多くて。いつしか故郷の魅力を引き立てるような仕事がしたいと思うようになりました。そんな時に、同じ故郷で育った折井と出会ったんです。
彼は高校卒業後にカナダの短大に留学して、帰国後に都内で働いたあと、僕と同じように故郷に戻って、キャリアを重ねていきました。僕と似たような過程を経ていたからか、直ぐに打ち解け合って。それで、故郷で「何か面白いことがしたい。」という想いが芽生えたんです。
とはいえ、何をやるか全くイメージできていなかったのですが、彼の祖父母が農園を営んでいて、有難いことにそれを「引き継がないか」というお話をいただけて。
故郷の主産業でもある農業であれば、地域活性化にも貢献できるのではないかと思いました。それで私たちは迷いもなく脱サラして農家なったんです。それが農家になったきっかけでもあり、ハマラノーエンのはじまりです。
-- 2人の出会いがお互いに転機となったようですね。そこからどのようにしてハマラノーエンを創り上げていったのでしょうか。
柳沢さん:僕たちは営業職を経験していたので「直接会って伝える。」という対面販売にこだわりました。アナログな方法ですが、現在も続けています。そのおかげもあって、多くの方々との出会いに恵まれました。
ハマラノーエンは小さな畑ながらも、八ヶ岳生とうもろこしだけで年間20万本以上、全国のお客様へお届けすることができています。
-- 対面販売にこだわったからこそ、魅力が伝わっていったんですね。当時からとうもろこしだけを栽培・販売されていたのでしょうか。
柳沢さん:実は、当時は20種類以上の農作物を育てていたんです。そんな運営を3年ほど続けて、その途中で八ヶ岳トウモロコシの魅力に気がついていったんです。
八ヶ岳とうもろこしは、とても甘くて美味しいのに、サイズが小さいという理由だけで一般流通できないことが多々ありました。味は素晴らしいのに、規格で判断されてしまう市場の問題に違和感を覚えて。僕らは「この美味しさは直接伝えないといけない」と思ったんです。
当時は八ヶ岳とうもろこしの味だけを信じて、他の作物の栽培をやめることにしました。それはハマラノーエンの未来をかけた大きな決断でもあったんです。
新たな体験を生み出すビニールハウス。
-- ハマラノーエンは、日本固有のカタカナにすることで、日本の素晴らしさや、物事に捉われないこれからの農業の在り方を表現をされているそうですね。
柳沢さん:そうなんです。日本の農業の素晴らしさでいえば、ひとつひとつの野菜に向き合う丁寧な心だと思っています。日本の野菜は作り手の魂が宿っていて、それが故に繊細な味わいを生み出しているように思います。そういった精神が代々継承されていることに素晴らしさを感じています。
-- なるほど。では、2023年夏にオープンした「ハマラハウス」についても教えてください。
柳沢さん:ハマラハウスは、農園としての作業場でもあり、ハマラノーエンならではの"体験価値を創出する場"としても機能しています。ハマラノーエン自体が持続可能な農園であることを証明するための役割も担っているんですよ。
「僕たちらしく農業をアップデートさせていきたい。」そう思ってはじめた取り組みが、ビニールハウスを起点とした場づくりなんです。
こういった取り組みを通して、農業に対する3K〔 キツイ・汚い・危険 〕といったイメージも払拭できたら嬉しいですね。それで若い人たちが農業に興味を持って、関わりたいと思ってくれたら、この業界の未来はより明るくなると思います。
心の距離も埋められたら。
-- 八ヶ岳という地域にはどのような方々が住まわれていますか?
柳沢さん:なんせ田舎なので、昔から住まわれている方が多いのですが、最近は移住されてきた方も増えてきました。ですがそういった方々は、山の中に家を建てて籠ってしまうんです。そうすると必然的に地域の人たちと交流する機会が少なくなってしまって。
交流する機会がないと、心の距離がどうしても生まれてしまうんですよね。ハマラノーエンがその距離を少しでも埋められたらとは思っていますが、、。
そのためにもハマラノーエンは地域の人たちだけではなく、外から来てくれる人たちにとっても開かれた場所である必要があります。
農業の素晴らしさを知るきっかけだけではなく、人との繋がりが生まれるきっかけづくりにも尽力していきます。
畑の概念を超える。
-- 最後に今後の展望について教えてください。
柳沢さん:引き続き、農業の見方が変わる場所・体験を創っていきたいと思っています。これまで畑は「農作物を栽培するだけの場所」として考えられてきましたが、私たちはいかにしてその概念を超えることができるかに挑んでみたくて。
ハマラノーエンは農園名であり、ブランド名でもあります。今後は八ヶ岳にとどまらず、全国で畑を活用した面白い取り組みを展開していきたくて。実はそれが目標でもあるんです。僕らが描いている新しい農業は、まだ始まったばかりなんです。
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