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落語:え~、世の中は広いもんでゲテモノ食いってのが、いましてですね、とにかく朝から晩まで、そのなんていうんですかね、ゲテモノを食す、
熊:おい、近年まれにみるゲテモノだな、これは。懐かしい味だあ、これなんだよこれ!
千代:おまいさん、なに嬉しそうに、
熊:ゲテモノ食いって蔑まされてきたが、こんな珍味ないぞ、美味しくってほっぺたがおちちまうよ
千代:これのこと?うわ、ぺ!
熊:やっぱわかんねぇか、この味はなにを隠そう、12の時に海で溺れたときに、飲み込んだ、海水とワカメと小魚の味!懐かしいよ
千代:あんたの味覚どうなってんのよ、不味いわよ…
熊:これはじゃあどうだ?
千代:べちゃべちゃじゃない!
熊:小さい頃、親父が酒で暴れて、家めちゃくちゃになって、床に染みた、こぼれたご飯に畳と味噌汁と酒と涙のまじったやつ
千代:あんた、死にかけたときに強烈に覚えちゃった味ってこと?忘れたほうがいいよ、
熊:それがどうしてどうして舌が覚えちまって、いけねぇ、
千代:あんたの将来、心配になってきたよ、
熊:お千代、おまえと一緒になったのも、強烈な…
千代:え、わたし?
熊:死ぬかと思うような、めこ…
千代:なんだって!
熊:汁の匂いといったら、この世のものとは思えな…
千代:えらいこと、言ってくれるじゃないか、怒り心頭、なんだい、喧嘩してやろうか?
熊:バカ野郎、こっちは誉めてんだよ、その匂いは死にかけたサバの腐った匂い、ソレ以来、お前にぞっこん
千代:他に例えようがないのかい、は~でも誉められるのは悪かない
熊:ゲテモノ食いだから、不幸せだと世間は思うか知らねぇ、だがな、こっちは天にも昇る気持ちなんだよ、世の中よ、邪魔すんじゃねぇや!と言いたいとこだよ
千代:こっちはこっちで、子供の時分に飼ってた、フンコロガシに似てたんだよ、おまえさんが
熊:そうかい、悪かねぇ
千代:怒らないのかい?
熊:怒るもんか、少々不安だったんだよ、おいらはこう見えて取り柄のないグズ、そんなおいらと一緒になんでなってくれたのかと思ってたんだよ
千代:そうかい、フンコロガシに似てて、かわいそうから始まったけど、おまえさんにぞっこんだよ
熊:うるせぇ!…でも、ありがとな?
こんな夫婦がいたんです、世の中は広いんですね、誰に言われたとて関係なく、生涯共にしたそうです、
――完――
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