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子どものかなしみに寄り添うもの。

こんにちは。
今日もお越しくださいまして、ありがとうございます。

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思い返せば、自分はさみしい子どもでした。

二人の弟(上の弟とは二歳、下の弟とは九つ半、年齢が離れている)の世話と、父が営んでいた工場の仕事、従業員や取引先の対応、帳簿つけ、少し離れた場所に暮らしていた祖父母の世話などで、母はとても忙しかった。
学校での話や友だちのこと…母に聞いてもらいたいことは山ほどあったけど、母が私の顔をみてゆっくり話を聞く余裕は当時の母には(たぶん)ありませんでした。

だから、母が工場で仕事をしていたり、ベランダで洗濯物を干していたり、家族(祖父母も含めて)7人分の食事を作っていたりしている隣にべったりと張り付いて、時々笑ってくれる母の笑顔うれしさに、わたしの勝手なおしゃべりは続きました。

小学校に入学したころ、図書室で一冊の幼年童話と出会いました。
松谷みよ子さん作『ちいさいモモちゃん』(講談社・昭和39年)です。


この童話を手に取ると、あの頃のさみしさや母の笑顔がよみがえって、胸がじんと痛みます。
母の気を引いて、母を笑わせたくて、わたしは話を盛っていたし、作り話もしていたから。
「わたしは嘘つき…」と、自分を責めたりもしました。

主人公のモモちゃんは好奇心旺盛な小さな女の子です。

青い空にお日さまが光ってネムの花が咲くころ、モモちゃんはうまれました。…ある日、モモちゃんの家にまっ黒な子ネコがやってきます。モモちゃんは、はいはいしてきて、いきなり子ネコのひげをつかんで「プー、プープーや」と初めての言葉をしゃべりました。

モモちゃんが生まれてから三つになるまでの快活な日々がこの一冊に挿っている。
続編として誕生したのが『モモちゃんとプー』、その後モモちゃんに妹が生まれ『モモちゃんとアカネちゃん』としてモモちゃん姉妹の成長物語は続く。

モモちゃんのママは働くママさんで、仕事や家事、育児の両立をしようとがんばっていますが、何となくいつも疲れいて、死神がママのところへやって来たり、食事が思うように作れないママに代わって、〈おいしいもののすきなクマさん〉が料理を作りにきてくれたりします。

やがて、パパとママは別々の道へ。
時々、パパの黒い靴だけが帰ってきたり、モモちゃんの影がなくなったり…無邪気でたくましいモモちゃんの毎日に、不穏なメタファーのようなエピソードが差し挟まれている。

始めて読んだ時から引き込まれました。
当時のわたしは、モモちゃんのダークサイドな部分に自分を重ねていたのかもしれません。

最初の二冊は、当時二段ベッドの上下で寝ていた弟にも毎晩読んで聞かせてやりました。

わたしはモモちゃんのママでもありたかったのかも。
当時、弟もよく(ワケもなく)癇癪を起していましたから。

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戯曲家として著名な木下順二さんが民話運動の草分けとも言える「民話の会」を設立したのは昭和27年。その会の初期メンバーでもあった松谷みよ子さんの創作の出発点は、まぎれもなく日本各地に伝わる口承伝承です。

〈小さな自分の視点で斬るのではなく、そのどろどろとしたものの中へ自分の視点をくぐらせ、一緒に呼吸する。その上で私は語りたい。…よい原話とのめぐり合いがまず大切で、それがすべてを決定するのだけれど、選ぶ視点は何かという点になれば、どこまで自分が生産点に立てるかということを抜きにしては考えられない〉(講談社現代新書「民話の世界」より)

と民話を再創造することに対して語られています。

そうして生まれたのが、のちに講談社児童文学新人賞、国際アンデルセン賞優良賞などを受賞する創作民話『龍の子太郎』(講談社・1960年)でした。

こちらも息子たちに読み聞かせ、民話の持つ永久不変の力に触れ、感動を親子で共有したことを思い出します。

民話の中にある光と闇。善と悪。和と争。美と醜。
表と裏のように分かち難く存在する世の節理が、あどけない幼児の日常を描いた『ちいさいモモちゃん』シリーズにも散見されるのです。

(内容が民話の方向へ行きそうになるのをグッと堪えて、話を『モモちゃん』にもどします)

モモちゃんのママは、松谷さんその人であり、パパは当時のパートナーであった民話研究家で絵本作家の瀬川拓男さんです。
瀬川さんは「太郎座」という人形劇団を主宰していて、表紙のモモちゃんは瀬川さんの手によるもの。

『モモちゃんシリーズ』には、親の病気、離婚、いじめなど、数々の現実的な問題も描かれています。

実生活でもママである松谷さんとパパである瀬川さんは後に別の道を選び、やがて瀬川さんは病を得て46歳で亡くなります。
モモちゃんシリーズは、瀬川・松谷家の物語でもあるのです。

松谷みよ子さんは、民話採収を続ける中で庶民の苛酷な生活を見聞きしてきました。亡き者、見えざる者との対話を通じてしか得られない幸福感がかつての生活にはあったということも。

児童文学者として子どもたちの未来を思うとき、その現実をファンタジックに昇華し表現することよりも、幼年童話にどう通底させるかとを考えてきたに違いありません。

(今日は、モモちゃんを妙に真面目に語ってしまったな…(汗)。
大好きなものに対しては、つい余分に力が入ってしまう…。)

そうそう、可愛い絵本シリーズもあります。

息子たちとはこちら👇を楽しみましたが、新版では武田美穂さんが挿絵を担当されていますよ。

妹のアカネちゃんがいじめに遭ったり、パパに突然の死がおとずれるというツラい出来事を乗り越え、モモちゃん姉妹と猫のプー、そしてママがたくましく成長を遂げていく『アカネちゃんのなみだの海』で全6巻のおはなしは終わります。

2011年に人気絵本作家の酒井駒子さんが挿絵を担当された講談社文庫版も出版されました。


いや~。モモちゃんとアカネちゃんは時代をやすやすと超えて、きっと未来の子どもたちが抱える問題にも寄り添ってくれるんだろうな~。
実に心強い!

この夏休みに親子で、お孫さんと…。 いかがでしょう?

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