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 認知症ケアの夜明け~身体的拘束解除への覚悟~

大内病院の認知症専門病棟(精神科地域包括ケア病棟)では、多数の身体的拘束が行われていました。理由は患者さんのために(転倒予防やトラブル防止)というもので、身体的拘束解除へ向けた研修や会議を行っていましたが、その数が減ることはありませんでした。
今回、引越しを機に身体的拘束の全面的な見直しを行い、達成は不可能だと思われていた認知症病棟での身体的拘束0を達成しました。
その過程について、2回に分けてお話させていただきます。

そもそも身体的拘束ってなんですか?

保谷:身体的拘束とは、専用の器具を用いて患者さんの動きを制限することです。例えば体幹拘束、上肢拘束、下肢拘束などの行動制限をさしています。
本来つなぎやミトンなども含まれますが、今回は体幹・上肢・下肢の拘束に限局して話しをします。

どのような時に身体的拘束が選択されますか?

保谷:精神保健指定医の判断で実施することになります。法律的な背景として精神保健福祉法に則り実施されています。
要件としては、以下のいずれかの場合と精神保健指定医が判断した場合に限られます。

  1. 他の患者との人間関係を著しく損なうおそれがある等、その言動が患者の病状の経過や予後に著しく悪く影響する場合

  2. 自殺企図又は自傷行為が切迫している場合

  3. 急性精神運動興奮等のため、不穏、多動、爆発性などが目立ち、一般の精神病室では医療又は保護を図ることが著しく困難な場合

  4. 身体的合併症を有する患者について、検査及び処置等のため、隔離が必要な場合

認知症専門病棟(精神科地域包括ケア病棟入院料)の看護スタッフ(右:山田さん、左:岸さん)

引越し後に身体的拘束解除を行ったということですが、ちなみに大内病院の引っ越し前は、何人ぐらい身体的拘束をされている人がいたんですか?

岸:7月1日の引っ越し時で身体的拘束者は入院患者67名中の15名でした。

なんで、そんなに身体的拘束者が多かったんですか?

山田:建て替え前の大内病院は「導線が悪い」「2フロアにまたがって病棟が配置されていて患者さんが転びそうでも駆けつけられない」などを理由に、漫然と身体的拘束を行っていた結果として身体的拘束者がどんどん増えていきました。
また入院時に身体的拘束が必要という理由で、入院治療されるケースも散見されていたため、身体的拘束を解除しても、あらたな入院患者さんが身体的拘束対象者で、なかなか減らせない状況でした。

引っ越し前の身体的拘束に関する意識はどんな感じだったんですか?

山田:院内で身体的拘束について検討している中でも、建て替え前は「身体的拘束は仕方ないよね」という意見が目立ち、「私たちも身体的拘束はしたくないけど、現実的に患者さんの安全が守れないから身体的拘束をする」という結論に至っていました。ある意味で言い訳ができる環境だったとも言えます。

それを一晩で0にしたんですか?現場からの反応はどうでした?

岸:病棟からは「正気ですか?いきなり全員なんて。」と言われました。「転んでケガをした場合の補償とかってどうなりますか?」という意見など、否定的な意見が目立ちました。
看護も「拘束0にして夜勤をみます」と宣言した時には、みんなきょとんとしていました。たぶん拘束0というものがどういうものなのかイメージしたこともなかったんだと思います。


介護主任の山口さん

実際に身体的拘束を解除した夜はどうでしたか?

山口:安全を担保するため、ラウンドの強化およびセンサーマットの運用を行いました。
予想では患者さんは就寝せず、歩き回ってしまいセンサーは鳴りっぱなしで、転倒してしまう方もいるかもしれないと不安でしたが、0時までの間にセンサーマットが反応したのは3回でした。
数名就寝に時間を要した方がいましたが、ホールで付き添って話をしつつ、22時過ぎにお部屋へ誘導したところ入床しました。
そして翌朝までの転倒者は0名でした。

転倒者0だったんですね。よかった。何か転ばないように工夫したことがありますか?

保谷:転倒予防の工夫は、残念ながら大内病院にノウハウがありませんでした。そもそも転倒のリスクに対し身体的拘束という対処方法で関わってきていたので、、、
そこで今回は身体的拘束解除を行う上で、グループが培ってきた身体的拘束解除の方法を参考にさせていただきました。
転倒に対するリスク評価の方法や視点、センサーの選定方法、患者さんの安全を守った環境設定など、実際の現場で介入している職員からレクチャーを受け、実際をみられたことは病棟の貴重な財産になりました。

ずばり身体的拘束解除へ向けて大切だと思うことはなんですか?

保谷:今考えてみると、建て替えに伴い身体的拘束を減らしていくと言いながらも、それは口先だけで、本当に身体的拘束をしないという覚悟が不足していたと思います。
身体的拘束という一手は常に傍にあり、それに甘え、身体的拘束をしないでどうするか?という検討を怠っていたと気づきました。
今でも油断をすると、すぐに身体的拘束が顔を覗かせます。そのため院内で身体的拘束は絶対にしないというマインドの育成が急務です。身体的拘束解除については技術的な面も必要ですが、まずは身体的拘束をしないというマインドが重要だと思います。


屋上庭園にて撮影(左:岸さん 真ん中:山田さん 右:看護部長の保谷さん)

最後に何かメッセージはありますか?

保谷:ケアの質について考える上でも、一方で患者さんの嫌がる身体的拘束を行いながら、他方で患者さん主体のケアを提供するということは困難だと思います。
今にして思えば、身体的拘束を実施しながら職員の中にある患者さんを尊重するという意識を削ってしまっていたのではないかなと思います。
まだまだな部分が多くありますが、今回の一件を乗り越え、確実に変わってきています。
今後、さらにケアの質を高めていけるよう病院全体で頑張っていきます。

次回は、身体的拘束解除にむけてリハビリの早番・遅番体制での関わりについてご紹介していきます!お楽しみに!!!





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