俳句編9 夏の季語 五月闇・梅雨闇・木下闇 慶應義塾中等部対策講座
五月雨ふりしきる梅雨時は、昼なお暗き、曇天の日々です。次のような句があります。
五月闇 蓑に火のつく 鵜舟かな 許六
はらはらと 椎の雫や 五月闇 村上鬼城
五月闇 秘仏の闇は 別にあり 伊沢正江
梅雨の闇 小さき星は 塗りこめて 福永耕ニ
夏の季節は木々が青々と茂る青葉の頃です。この頃吹く強い南風は「青嵐(あおあらし)」となり夏の季語です。「夏山」も「青嶺(あおね)」となり「青野」には、夏草が生い茂っているでしょう。
夏の木々が青々と繁っている、木下は、昼なお暗き闇となります。「木の下闇」「下闇」「青葉闇」も夏の季語です。
次のような句があります。
須磨寺や 吹かぬ笛聞く 木下闇 松尾芭蕉
一塊の 石を墓とす 木下闇 田中王城
下闇や 朽舟水に 還りつつ 不破 博
名刹と いふもおほかた 木下闇 檜 紀代
谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』で次ようなことを言っています。(中公文庫より)
「私は、京都や奈良の寺院へ行って、昔風の、うすぐらい、そうしてしかも掃除の行き届いた廁(かわや)へ案内される毎に、つくづくと日本建築のありがたみを感じる。茶の間もいいにはいいけれども、日本の廁は実に精神が安まるようにできている。それらは必ず母屋から離れて、青葉の匂や苔の匂いのして来るような植え込みの蔭に設けてあり、廊下を伝わって行くのであるが、そのうすぐらい光線の中にうずくまって、ほんのり明るい障子の反射を受けながら瞑想に耽り、または、窓外の庭のけしきを眺める気持ちは、何とも云えない。」
夏至を過ぎたら、昼の時間が一番長いので本来、太陽の光が明るく輝いているはずです。しかし、梅雨時の雲は光をさえぎり、闇を作るのです。これもまた日本の情緒です。
晴れの時は光を楽しみ、雨の時は闇を楽しむのです。光も闇も同じ自然の恵みです。どちらも有り難くいただくのが風雅の道と言うものでしょう。