おおたさんの話 #03
長かった梅雨があけて、きょうで十日になります。
写真に見るなつかしい海の景色は夏のあかるさがありました。
砂浜はかわらず、白い砂のままでした。ここより北のほうに上がっていくと、だんだん鉄が混じるようになってきて、砂浜には、粒のあらい黒みがかった砂が多くなってきます。
潮は引いてきていて、泳いでいけるいちばん手前の岩で、白い波がわれています。
干潮の引きいっぱいになると、残りふたつの岩も見えるようになりますが、潮が上げて満潮になると、三つ並んだ岩はどれも、すっかり沈んで見えなくなってしまいます。
弟とわたしは、その岩を「ミツワ」と呼んでいました。
ほかに、「トモエ」といったり、「イヌマキ」と呼ぶひともいました。「イヌマキ」というのは、年配のひとたちに多く、砂浜におりていく坂の入り口に、古いイヌマキの大木があったといいます。「トモエ」と呼ぶのは、さらに年配のひとにかぎられていました。
沖にむかって海は、青色が濃くなって、水平線に夏らしい雲がひろがっていました。
一つ、二つ、三つ││二枚目の広い写真にかぞえても、小さなうねりが、四つ、五つ、六つと、沖から等間隔に寄せてくるのが見えます。おそらく、まだ遠くにある台風からうねりが入ってきたんだとおもいます。そして、白い波がわれているミツワのさきにはもうひとつ、魚がつく沈み根があって、弟とそこまで、素潜りにいくこともありました。
そんな暑い昼すぎの、晴れた波間で雨になることがありました。
うねりが大きなときは、手前のミツワから波にのることもありました。
とても暑い日に、海のなかで夕立にふられたこともありました。
そして、わたしと弟は、冬になると、スナメリを心待ちにしていました。
冬の寒い日に、クジラのなかまのスナメリが、二、三頭ほどで連れ立ち、ミツワのところまでやってくることがありました。弟はそのことも、まだ覚えていました。
海の写真につづいて、弟は、冬には帰ってこれないのか気にしていました。
ひとつまえのメッセージで、わたしは、しばらくはまだ帰れないと送っていました。
でも、そろそろ家に、帰らないのか。どうしてわたしは、ひとりでまだここにいるのか。