オオタアキラ

西から東、北から南、全国津々浦々、老若男女問わずさまざまなおおたさんが一人称で語るショートショート『おおたさんの話』を書いています。どの話のおおたさんも、苗字の読み方が「おおた」というだけで、それぞれ別なおおたさんです。日本のどこか、世界のどこかのおおたさんから届く小さな物語。

オオタアキラ

西から東、北から南、全国津々浦々、老若男女問わずさまざまなおおたさんが一人称で語るショートショート『おおたさんの話』を書いています。どの話のおおたさんも、苗字の読み方が「おおた」というだけで、それぞれ別なおおたさんです。日本のどこか、世界のどこかのおおたさんから届く小さな物語。

最近の記事

おおたさんの話 #05

 あかるい夜空に月が出ていて、かすんだ雲が白く透きとおって見えました。風のほとんどない、しずかな夜の海に、月の白いあかりが落ちていました。  きのうから、満月があけた夜でした。  わたしは犬を連れて海沿いの道を歩いていました。  車道をいく車のなかに、クラクションを軽く鳴す車がありました。  あれは知り合いの車だったか、そうではなかったか──ひとりで危ないとか、夜道だから気をつけろとか、こちらを心配に思い、わざわざ鳴らしてくれたのかもしれません。  けれど、だれも、わたしがな

    • おおたさんの話 #04

       あかるい夜空に、満月が出ていました。きょうも昼のあいだは日差しがつよく、夏のような青い空に、真っ白い雲が浮かんでいました。おもえば、この二、三日、わたしはいつも日傘をさして出かけていましたが、海沿いの公園に咲いているアジサイはどれも、雨傘がひろがるように丸く膨らんでいて、まだ小さな花が、うすく色づきはじめていました。  海からの南風が心地よく、樹々の新緑は梢にいくほど青々として、鮮やかにひろがっていました。いまも、すずしい夜風は心地よくて、月明かりがまた差してきた夜空に、丸

      • おおたさんの話 #03

         長かった梅雨があけて、きょうで十日になります。  写真に見るなつかしい海の景色は夏のあかるさがありました。  砂浜はかわらず、白い砂のままでした。ここより北のほうに上がっていくと、だんだん鉄が混じるようになってきて、砂浜には、粒のあらい黒みがかった砂が多くなってきます。  潮は引いてきていて、泳いでいけるいちばん手前の岩で、白い波がわれています。  干潮の引きいっぱいになると、残りふたつの岩も見えるようになりますが、潮が上げて満潮になると、三つ並んだ岩はどれも、すっかり沈ん

        • おおたさんの話 #02

           きのうでようやく八四、だから仕事は百歳まで──。  こんなふうにいって、みんなさいっつもわらわせて、毎日まいにちわたしはちゃんと、うそにならないようにしているからと、港のおばあさんから聞いたのは、レンタカーで蕪島に向かっている途中のことでした。旧道に入って、道に迷ってしまった夫とわたしは、 Y字路の手前で車を停めたまま、ここから先は右と左どちらに進んだらいいのか、それとも、来た道をいったん戻ったほうがいいのか、だれかに道をきこうとしていたところでした。  夫とふたりで東北を

          おおたさんの話 #01

           みずうみの絵葉書が届いていたのは、そういえばここしばらく、母からのメールも、電話もないとおもっていて、そろそろどうしているのか、気になりはじめていたところでした。  話すのを忘れてしまっていたのか、それとも今回は急にきまった旅行だったのか──。  どこに出かけるともわたしは聞いていませんでしたが、 「きょうはみずうみに来ています」  と、絵葉書を裏に返したさきにあって、 「お父さんもいっしょです。温泉に入って、ふたりでもう少しゆっくりしていきます」  と、何年も目にしていな

          おおたさんの話 #01

          自己紹介 『おおたさんの話』

           オオタアキラと申します。  西から東、北から南、全国津々浦々、老若男女問わずさまざまなおおたさんが一人称で語るショートショート『おおたさんの話』を書いています。  どの話のおおたさんも、苗字の読み方がみなさん「おおた」というだけで、それぞれ別なおおたさんです。  行ったことのある日本のどこか、聞いたことのある日本のどこか、まだ知らない日本のどこか、日本以外の、世界のどこかのおおたさんから届いてくる小さな物語。  どの話もすべてフィクションです。  さまざまなおおた

          自己紹介 『おおたさんの話』