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その36 啓発的経験の理論

 私たちは社会人になるまで多くの時間を使って学ぶことをしてきました。それは人として生きていくために必要な最低限の知識を獲得するため、社会の中でよりよく適応するための技術を身に着けるためでもありました。今日は私たちキャリアコンサルタントが学び啓発的経験を大切に思っている理由についてお話をしたいと思います。

 私が好きな学習に関する理論家は、アルバート・バンデューラ(加.米.1925-2021.心理学.社会的学習理論.)です。バンデューラは他者の行動を観察することでも学習が成立することを「ボボ人形実験」*¹で証明しました。また、ジョン・クランボルツ(米.1928-2019.心理学.SLTCDM.計画的偶発性理論)は「学習し続ける存在としての人間」を強調し、自らの「キャリア意思決定における社会的学習理論(SLTCDM)」にバンデューラの社会的学習理論、観察学習(モデリングによる学習)、自己効力感を取り入れました。

学習とは

 私たちは「学習」という言葉から、教室と先生と教科書を連想するかもしれません。心理学が定義する「学習」は、経験によって新たな行動を獲得したり、今までと異なる行動をとったり出来るようになることとされています。私たちの体の感覚器官から入ってきた何等かの刺激によって脳が働き、意識が芽生えて行動が起こります。新たに取得する行動は「学習」によってもたらされるということになります。

社会的学習理論

 バンデューラが想定している学習には、直接学習と観察学習(モデリング)があります。直接学習というのは、学習者が直接経験することです。皆さんも熱いお茶は息を吹きかけて冷ましながら呑みますよね。お茶が熱くてやけどの可能性を経験的に知っていて、これを回避するために冷ます行動をします。この経験が直接学習と呼ばれるものです。

観察学習(モデリング)と自己効力感

 もう一つの想定されている観察学習(モデリング)は、あまたあるどの情報に注目するかという①注意過程、注目した情報をイメージや言語で定着させる②保持過程、自分の中に取り入れたイメージや言語の情報を自分の擬似的体験として再生を試みる③運動再生過程、そしてその疑似的体験が自ら実行できるか、かつそれが自身にとって有益なものかを判断する④動機づけ過程の4つのプロセスがあります。
特に④の動機づけ過程の中で、自らがその行動を出来るか可能性を探る「効力予測」と、有益なものになるのかを判断する「結果予期」という2つの視点を合わせて「自己効力感」という名称がつけられています。

啓発的経験

「キャリアコンサルティング実施のために必要な能力体系」にある啓発的経験の支援は、この自己効力感を経験していただくために、大学生であれば企業のインターンシップに参加する、求職者であれば職場体験や職業訓練のサポートが行われます。Job-Tag*²というインターネットサイトでは、様々な職業、職場でどのようなことが行われるのかどのようなスキルが必要なのかを紹介しています。また、これは今回の趣旨から外れますが、Job-Tagでは簡易的な職業興味検査で、ご自身がどのような志向性を持っているかを確認することが出来ます。

 そして、組織内で現職にある皆さんへの啓発的経験の支援では、職種間での交流や、専門職コミュニティを通じた研鑽の企画を行います。また、私たちが実施するキャリア研修では、業界や労働市場、法令の動向などの情報提供、啓発的経験を生起いただくためのアセスメントなどを実施します。これ以外でも比較的ハードルが高い支援としては、会社の壁を越えた越境や地域交流などがあります。

改めてクランボルツ

 前出の「学習し続ける存在としての人間」という視点は、我々が通常使う意味合いでの「学習」においても、私は共感するところが多くあります。刺激に対する反応としての学習は理解しながらも、自らの視野を広げる、知識を深める主体的・自律的な学びは、私たちの価値を高めるものと信じています。

いかがでしたか、今回は啓発的経験のお話をしました。皆様の気づきがよりよい明日への架け橋になればと思います。

このブログへのご質問、ご意見は大島(ooshimatomohiro@gmail.com )にご連絡ください。


*¹:ボボ人形実験
*²:Job-Tag 厚生労働省が運営する自己理解、仕事理解をサポートするインターネットサイト。業種・職種や免許・資格の紹介のコーナーがあり、その情報量と質は主幹の厚生労働省が力を入れている様子が垣間見られます。また、Job-Tagでは簡易的な職業興味検査、価値観検査、職業適性テストなどで、ご自身がどのような志向性を持っているかを確認することが出来ます。

参考文献
森津太子、向田久美子. OUJ 心理学概論.放送大学教育振興会.2024.
渡部昌平.人物で学ぶキャリア理論.福村出版.2022.
木村周.キャリアコンサルティング理論と実際 5訂版.雇用問題研究会.2021.

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