
激動介護~人生半分引きこもり~10
姉の電話を夢見心地で聞いた。
私立精神病院へは義兄が車で送ってくれるという。
手荷物は薬と保険証類、肌着と靴下を五組だけ。
認知症の治療ができるので老健特養も見えてきた。
「健康診断は間に合わなかったらいいから、PCR検査の結果を送ってほしいって。そのあたりは、むこうの相談員さんと訪問診療でやってくれるから」
姉がいう。
有料ホームは一旦停止。老健は病院の様子をみて申し込む。
「あと五日だから、頑張ってね」
(頑張る‼)
私は復活した。
漲るやる気で父の世話をした。
父は不思議そうな様子だったがすぐにいつもの声をだした。
レスパイト病院でのすっきりした顔と声は、赤黒い顔とがらがら声になっていた。
私は黄色いヘッドホンを母にかぶせた。
「きついけど楽だよ」
(あと少し)
のんびり湯船に浸かり、寝る前のオムツ替えも余裕。
両脇パッドで漏れもない。
「もうちょっとだから」
ゆっくり拭かせてくれればいうことないけど。
「もう寝ようね」
私は車椅子に腰かけてヘッドホン頭で掛け布団をなでた。
電気を消して耳栓に替える。
(無視だよ。気持ちを強くもって寝よう)
母にささやき布団にもぐる。
「おが――――ざん‼ おが―――――ざん‼」
(寝る。寝る。寝る。うるさい。寝る‼)
私は眠った。
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