地域おこし協力隊として、地元の福岡県八女郡広川町にUターン。 2022年1月より、学習教室「irodori Study Lab」を運営している井上涼です。 irodori Study Labでは、ICTを活用し、一人ひとりの興味関心に合わせた探究学習、そして、英語学習を通して「想定外の未来をつくる」ことをコンセプトに活動しています。
今日は自己表現コンテンツその1「まわし読み新聞」をやってみた。
まわし読み新聞とは、たくさんの新聞紙を用意して、その中から、面白い!気になる!これってなんだろう?と個人的に思った記事をいくつかセレクトし、3-4人のグループの前でなぜその記事を選んだのかを自分の言葉で発表、その後はグループ全員が選んだ記事を模造紙など一つの大きい紙にまとめてオリジナルの記事をつくるというものだ。
2012年から広がったもので、多くの教育現場やワークショップなどで一つのコミュニケーションツールとして活用されている。
まわし読み新聞を行うメリットとしては、
①自分の世界を広げる インターネットは情報検索性に優れていますが、優れすぎているがゆえに、自分の好きな、関心・興味のあるキーワードばかりを検索・収集してしまって、いつのまにか自分の世界観を狭めてしまう・・・という弊害が起こりやすいメディアといえます。好きだからといってお肉や甘いものばかりを食べていると健康を損なうように、自分の好きな興味・関心のある情報ばかりを入手していると、どんどんと自分の世界を狭くしていき、社会性を損ねていきます。「情報のメタボ化」「情報の偏食」が起こりやすいわけです。 それに対して新聞は自分の興味・関心の範囲外の記事も数多く掲載されています(むしろ大部分の人にとっては、自分の興味・関心以外の記事の方が多いといえるでしょう)。また「見出しの大きさや幅」「記事の文字量や序列、配列」などによって「社会的なニュース価値」を察知することも可能です。さらに「まわしよみ新聞」では参加者(他者)の興味・関心のある記事が提示されるわけで「(同じ新聞を読んでいたのに)そんな記事があったのか?」と気付かされると、まさしく自分の世界観が揺さぶられ、見識が広がっていきます。 ②他者を理解するコミュニケーション・ツール 多種多様な記事が掲載されている新聞の中から、どんな記事を切り取るか?ということで、その人となり、キャラクター、パーソナリティがわかります。初めて会った人同士でも「まわしよみ新聞」に参加すると、お互いの共通の関心・興味などが発見でき、一気に親しくなります。会社・組織の新人研修や学校教育、コミュニティ・センターの集会などのコミュニケーション・ツールとしても使えます。 ③新聞記事(話のタネ、対話の土台)があることで、自然と話が弾んでいく みんなでテーブルに集まって「さて、なにか話をしよう。〇〇さん、なにか面白い話題を提供して」と突然いわれても、なかなか面白い話題なんてのは切り出せないものですが、まわしよみ新聞の場合は、まず新聞記事の中から自分の興味・関心のある記事を切り取り、その記事をキッカケに対話を始めるので、とても話しやすい状況になります。「いきなり対話を」といわれてもまごつきますが、新聞記事が「話のタネ」「対話の土台」になってくれるわけです。普段は決して自分からは話を切り出さない、というような話下手な人なのに、まわしよみ新聞をやってみたら、驚くほど雄弁に話をしだした・・・というようなことも数多く体験しています。 ④プレゼン力を養う(カードゲーム的面白さ) 自分が切り取った記事の面白さを他者に伝えようとするさいに、ただ新聞を読み上げるだけでは、なかなか興味・関心を示してくれないときがあります。そこには記事の魅力を、実感をもって伝えるプレゼンテーションが必要になってきます。記事を提示するまえに「これは正直、ビックリしました」なんていって期待を煽ってから記事を提示するとか、「これはいまいちですが・・・」とブラフをかましながらとっておきの記事ネタを提示するといったテクニックもあります。記事の内容ではなく「ビジュアル、写真が面白い」「(自分の)ひとこと、解釈がユニーク」といった場合もあります。それぞれの記事に応じた提示の仕方があって、参加者は参加するに連れて自然とプレゼンテーション能力をつけていきます。 また「いかに小さい記事で、みんなの興味関心を惹き、驚かせるか?」というのが、まわしよみ新聞の醍醐味でもあり、これは一種の「カードゲーム的面白さ」があるともいえるでしょう。 ⑤「無目的」「ノーテーマ」で開かれ、平等に発言機会が与えられる対話の場 ある「テーマ」や「目的」を掲げて開かれた対話の場では「一方的に話をする人」と「一方的に聞いている人」といった構図がどうしても生まれてきます。例えば「日本の農業問題について考えよう」といったワールドカフェやワークショップが開かれると、結局、そのテーマに関して豊富な知識や情報量をもっている人が場を制します。知識や情報量に乏しい方は「まちがったことをいったら恥ずかしい」ということで、自分のちょっとした考えや思いつきを語ることすらやめてしまいます。その結果、対話の場が開かれていても「結局、あの人は1時間ほど〇〇さんの話にうなづいているだけで、一言も話をしなかったな・・・」というような人も出てくる。一方的にしゃべりすぎないように、時にはファシリテーターが必死に色んな方に話題をふったり、コメントを引き出そうとしますが、それもまた大変で、技術のいることです。 ⑥レイアウトやデザインのスキルを磨く まわしよみ新聞は「新聞を読む」というスキルを養い、「対話を楽しむ」ものでもありますが、最後に「新聞を作る」という創作の場でもあります。テーブルの上に出てきた十数枚の新聞記事を、改めて再編集して、壁新聞にする。どういう紙面作りがいいか?みんなで話しあって決めていきますが、これはレイアウトやデザインスキルを磨くことにも繋がっていきます。 ⑦メディア・リテラシーを育てる まわしよみ新聞はいろんな新聞を持ち込んで実施します。讀賣新聞、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞といった五大新聞はもちろんのこと、地方新聞やスポーツ新聞、業界新聞など、どんな新聞を持ち込んでもいいとしています。その結果、同じ事件やニュースなどでも、各新聞では記事内容や表現が(微妙に、時には全く)異なることに気づくこともあります。新聞社の報道姿勢のようなものが自然とわかってくる。ただ漫然と受け取るのではなくて、主体的に、批判的に情報を読み解いていく力(メディア・リテラシー)が育成されます。
まわし読み新聞 公式サイトより 他にもたくさんのメリットがあるのだが、irodori Study Labで特に大事にしている「学び、考え、表現する」に関連する箇所を引用させてもらいました。
そして、記念すべき初回の結果はなんと、ダダ滑りでした。笑
まず、文字がとにかく小さくてたくさん書かれていることから子どもたちは拒否反応、記事を読む前に新聞を放り投げてしまう始末。笑
「一回じっくり読んでみたら?」と問いかけると漢字も難しいしテーマも難しいしでどうもウケがよくない様子。
質問を変えて、 「今回用意したのは5月の新聞がほとんどだけど、他の新聞と共通してたくさん書かれているニュースってどれだろう?」 「よく目に入ってくる記事ってどんなもの?」
すると子どもたちは、 「ロシアウクライナの戦争のことかな…」 「腸内環境についての広告もめっちゃある!」
そんなやりとりを繰り返しているうちにじっくりと見るようになり、株価のページを指差しては、 「なんで毎日この小さい数字書いてあるんやろう…」 「よく見たら聞いたことある会社の名前あるやん!」
「この言葉知らんけど、なんか響きかっこいいけんとっとこ。」って言って取ったものにインフラという言葉が書かれていたり、
旅行広告を見ては、「東京憧れやけん、これも取っとこ」って言って取ったりと、気づいたら子どもたちだけでがやがやしていました。
完成した記念すべき第1号↓
できたものを見ると子どもたちは、 「もっと見栄えよくしたいな…」 「次はちゃんと面白そうな記事持ってきてよ!」 「ちゃんと新聞の中身変えてね!」
君たち、ちょっとやりたくなってきてますやん!! タイピングも最初は超いやがってたけど、今では自分たちからやりたい!って言い出すくらいに集中して取り組むもんね。 今日は企画としてはダダ滑りだったけど、大人にも最初からうまくいくことなんてないんだよ。はじめはタイピングのように苦手意識があったとしても、これからどんどん好きになっていってくれたらうれしいな。
大人の問いかけ方、質問次第で子どもたちはいくらでも前向きに取り組めるということを改めて感じた出来事でした。問いを磨くため、いろんな話題で話しができるようにするためにこちらも学びを止めることはできません。
今日来た友達が言ってくれたけど、 「いつの間にできることが増えていく空間だね!」
大人が一緒に考え、伴走しながら、子どもたち自身がやりたいことをとことんやれる環境もいいし、「苦手なことがいつの間に克服できた!」をたくさん感じられる空間にもしていきたいな。