【観劇感想】ミュージカル「黒執事」〜寄宿学校の秘密 2024〜

東京ドームシティホールにて、ミュージカル「黒執事」〜寄宿学校の秘密 2024〜を観劇させて頂きました。

本作は3年半前に上演された2021年版からキャストや演出を一部変更した再演版となります。個人的に『黒執事』は原作も舞台シリーズもずっと大好きな作品で、まさかまた寄宿学校編を舞台で観ることができるとは思っていなかったのでとても楽しみにしていました。

セバスチャン、シエル、葬儀屋キャストの御三方はそのまま続投、あとは新キャストにて上演された本作。馴染みの音楽と綺麗に再構築されたストーリーに、規模の広がった松崎史也さんの演出と俳優の3年半分の技量が加わり、「再演」の意義が詰まりつつも新作のような新しさのある素敵な上演でした。

中でも本作は「再演」の魅力を存分に教えてくれた作品だったと思います。自分の視野をまたひとつ広げてもらいました。

というのも、私は演劇はその時その場の一瞬でしか生まれない刹那を共有できる芸術でありながら、それを記憶の中で大切に反芻して慈しむ芸術だと考えています。だからこそ、美しい思い出は思い返す度にある種の神格化がされていって、「2回目」はどうしてもハードルが高くなってしまいます。

もちろんそれを自覚した上で観劇はしていましたが、頑なに自分の「特別」を持っていたわたしの視野はぐっと狭まっていました。舞台作品に付随する「代替わり」だったり「キャスト変更」というものを楽しみに包括できるようになったのは割と最近のことです。

昨年から色々と価値観の広がる出来事があって、またそれを後押ししてくれる作品にたくさん出会うことができました。それからは新しくなるものの中にも変わらない確かなものはあって、思い出だけを囲って新しい作品が生み出す煌めきを受け取れないのは勿体ないな、と思えるようになりました。「特別」はひとつだけじゃなくて、増えてもいいんだなと。

2021年版の上演は本当に素晴らしく、何度も足を運びました。まだアニメ化もされていない中、寄宿学校編というコミカルかつ少しずつ真実も見えてくる難しい章を上演するにあたり、あの時代のあの制約の中で生まれる最大限に美しく素晴らしいものがそこにはあったと思っています。その上で、今作はそれと等しい「特別」をくれました。

3年半という時間が産んだものとして、続投キャストの技量から、やな先生お仕立の新しいシエルのお衣裳、客席を存分に使える演出も、豪華な舞台美術も、変わったキャストや加わったアンサンブルも、紛れもなく新しく。
ただ初演時と変わらない確かな作品の「核」があって、観ていてどうしようもなく泣き出しそうになりました。

思い返せば幕前、客席に流れるバッハの音楽を聴いたときから、たまらない懐かしさを感じると共に、今作も間違いなく素敵なものになるという確信が持てていた気がします。

再演の魅力のひとつとして、音楽を知っていることの心地良さをとても感じました。耳馴染みがあるのでより歌詞と感情が入って来やすいですし、それでいて増したユニゾンの厚みやアレンジでさらに掻き立てられる新しさもある。ミュージカルにおける音楽の力というものを強く感じた作品になりました。
ソーマのナートゥ的なパートは初見時ニヤニヤしてしまいましたが、もうすごく楽しくて。伊勢さんのソーマ、とっても自由で明るくて、小西さんのシエルとのバランスも素敵でした。いつかアグニと並んでいるところが見たいですね。

そして話の構成について。すっっっごく綺麗でこんなにも気持ちよくなるんだ!という感覚でした。詳しくは書きませんが、2021年の時にうーんと思っていたり、アンケートに書いたりしていたことが綺麗に変わってブラッシュアップされていたのがわたし的にすごく嬉しかったというのもあります。黒執事を原作未読の友人と観劇しましたが、1度で理解出来て分かりやすかったと言っていました。

クリケットも舞台美術が変わったことで盆舞台とステージの空間を最大限に用いて試合が表現されていて、複雑な試合構成とその躍動感が伝わりやすくなっていたように思います。2021年の時から試合終了〜「碧の奇跡」がたまらなく好きなシーンなのですが、特に試合ラストの盆と青空の映像、そこからの決着、がより気持ちよく爽快感がある場面になっていました。塩田さんのグリーンヒルは田鶴さんともまた印象が少し違いましたが、彼の真っ直ぐさが試合をあの結末に導くと思うとぐっとくるものがありました。とても素晴らしかった。再演であればかつての「碧の奇跡」であるヴィンセントのことはもう少し触れられるかなあと一抹の期待をしていましたが、尺や諸々含めてやっぱりそこは難しかったですね。

そしてそこから怒涛の展開でこの学び舎の秘密が明らかになっていきます。伝統と規律に満ちた学園生活とそこに眠る影、そのコントラストがとてもはっきりしていて丁寧に描いてくださっている印象でした。
P4も、デリックも演技の深みが凄まじく、キャラクターが立っていただけにかなり濃いシーンになっていたと思います。上田さんの葬儀屋と立石さんのセバスチャンの戦闘もかなり迫力が増していたり、TDCというステージの大きさをフルに利用していてすごく素敵でした。3年半大きな舞台でそれぞれ活躍されていた御三方が時を経てここにまた立ってくださっていることに心から感謝です。

わたしは2021年の時からこのある意味あっさりとした幕引きが非常に好きで。シエルにとってはこの箱庭で過ごした時間も女王陛下の憂いを晴らすためのもの。セバスチャンが写真を破るように、この3時間近くで積み上げてきたものも簡単に過去になるような、でもこちらの心には確かに残っているというある種の矛盾のような感覚。これをまた劇場で味わうことが出来て幸せでした。そこからラストのメインテーマも最高のクライマックスでとっても素敵でした。

2021年から色々な意味合いで「2.5次元舞台になった」という意見も目にした生執事ですが、原作の中でもひとつ毛色の違うこのエピソードを最適の形で描いているのが本作であり、それをさらにブラッシュアップした今年の上演を受け取ることが出来てわたしは幸せに思います。書ききれないくらい魅力に溢れていて、紛れもなく本作は「生執事」だったなと。

この先も原作は続いていきますし、願わくばまたミュージカルで受け取れる日が来たら嬉しいです。まずは残りの公演、カンパニーの皆様が無事に走り抜けられますように!引き続き足を運ぶ予定なので楽しみにしています。

改めて、「再演」の美しさと、新しい「特別」を教えてくれた本作に最大限の感謝を。

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