【観劇感想】KAAT×新ロイヤル大衆舎 vol.2『花と龍』 やさしい鑑賞回

KAAT神奈川芸術劇場にて、KAAT×新ロイヤル大衆舎 vol.2『花と龍』やさしい鑑賞回を観劇させていただきました。

ネタバレのない全体のざっくりとした感想は前回書かせていただきました⬇️

今回は今回の公演に対する取り組みについて書いた上で、ネタバレを含めた感想も書いていきたいと思います。

「やさしい鑑賞回」とは、鑑賞サポート×リラックスパフォーマンスを取り入れた新しい上演形態です。
以下、KAATさんのホームページより引用します。

KAATが実施する「やさしい鑑賞回」はこれまでの公演でも取り組んできた鑑賞サポートと、リラックスパフォーマンスの要素を取り入れ、年齢や障がいの有無に関わらず多くの方が一緒に楽しめる公演を目指しています。通常よりも音や光をやさしい設定にしたり、客席も真っ暗になりません。
客席で音をたてても体が動いても大丈夫ですので、劇場デビューの方、静かに鑑賞することに不安のある方、強い音や光が苦手な方等にも楽しんでいただける公演です。
また、サポート不要でお手頃なチケットをご希望の方のご来場もお待ちしております。

KAAT HPより

手話通訳や字幕タブレットの貸出などはだんだんと広まってきてはいますが、完全なる普及とはまだ言えない状況の中、本当に素敵な取り組みだと思います。
様々な事情を持つ全ての方にも配慮を寄せた鑑賞形態を整える工夫がつまっていて、どんな人もあたたかく受け入れてくれる客席がそこにはありました。演劇が本当に全ての方にこうして開けている空間がすごく希望に感じました。小さなお子さんなんかもたくさんお見かけしてすごく嬉しかったです。

やさしい鑑賞回の具体的な取組としては、
・大きな音が苦手な方ための音量調整
・暗所が苦手な方のために暗闇にならない客電
・強い光が苦手な人のための照明
・上演中の出入りが自由
・チケット代が安価
あたりが大きいところでしょうか。

開演前、舎歌の前に長塚さんと山内さんがご挨拶に出てきてくださり、今回の取り組みに対するご説明があり。趣旨や退出する際の経路の案内など、今一度客席で共有できる時間があったので安心して観劇に臨むことができたと思います。

わたしは幼少期に子供向けの作品でしたが暗闇が苦手で劇場で泣きじゃくった経験があるので、この完全なる暗闇というハードルが取り払われるだけで感じる安心感はすごく大きいものだと思います。本番中の客電の明るさは隣や他のお客さんの顔も割とはっきり見えるくらいです。座っていた体感ですが特に桟敷席は明るかったような気がします。ただ、それなりに明るかったので(わたしの座っていた場所がちょうど光の先だったのもあったと思います)、舞台上を見るのにときどき眩しくて目を細める瞬間はありました。これは難しい塩梅だと思いますが、ただなによりお子様や暗闇が苦手な方に対しては十分な安心になっていたのではないかなと思います。

スタッフの皆様は黄色のビブスのようなものを着用していて、手厚いサポートをして下さる他、上演中は後方の扉から出入りが可能になっています。ロビーにも十分に休憩できるスペースが用意されていました。出入り可ですがわたしは上演の中でノイズに感じることはありませんでした。

あとは場内の影ナレも「やさしい」ver.だったのですか、「本日の公演は終了致しました」→「今日のお芝居はおわりました」、「お買い求めください」→「ぜひ買ってください」「本日はご来場ありがとうございました」→「今日は見に来てくださり、ありがとうございました」などと文言をじっと聞くとなんだかかわいらしくて、にこにこしながら耳を済ませていました。

またチケット代が安価(3500円、高校生以下は1000円)というのはすごく有難く、客席で起こりうる様々なことを許容できる絶妙な値段設定だったなと個人的には感じています。個人的にはもう少し高くてもと思いましたが、学生チケットの値段も考えると妥当だった気がします。それだけでなくちょっと作品が気になっている人の観劇のハードルを下げることができたり、友人を誘えたり、誰かの演劇への入口になる可能性を大いに広げてくれていると感じました。

音量調整に関しては私の座っていた座席がスピーカーに近かったのかあまり実感できなかったのですが、全体的に小さかったのでしょうか。役者さんの演技は大きい変更として感じたところはありませんでしたが、叫ぶや怒鳴るなどは役柄によってはいつもとアプローチを変えた熱量で届く感覚もあって新鮮でした。演出のわかりやすいところでは発砲音がSEになっていたこと、血糊を使っていなかったことあたり。あの発砲音は分かっていてもどきっとしまうくらい大きいので、今日はその分安心して見ていられました。該当のシーンが来るまでやさしいver.と忘れるくらい、本当にいい意味でいつもと変わらない心地で見進められたと思います。

どちらのパターンも拝見した上ではっきり断言したいのは、こうして形は変われど、伝わってくる作品の力や熱量や持たさられる感情は何も変わらず客席に届くということ。開演前の屋台の賑わいも含めて、それをこうして今日劇場にいらっしゃった皆様と等しく共有できたであろうことが何よりも嬉しかったです。

本当に誰でも観劇の1歩を踏み出せる工夫が詰まっている素敵な上演形態でした。調整等で難しいことも多々あると思いますが、今後もぜひこの形の上演があればいいな、と思います。こんなにも演劇の未来とお客さんのことを大切にしてくださる作品に出会えてわたしは心から幸せです。


そして前回はネタバレなしの感想を書いたので、ここからは作品の中身に触れながらあれこれ書きたいと思います。

これは前回も書きましたが、舞台で観ると本当に「生命力」の物語だなあと感じていて。
それはなにかひとつからなるものではなくて、もちろん原作からある役柄の魅力と、齋藤雅文さんの描いた魅力的なセリフが根底にあり、その上でその場その場のやり取りをする役者の皆様の力あっての事だなと深く感じています。

原作とは違う部分もあれど、それぞれの役柄の持つ核はすごく丁寧に拾い上げられていて、誰もがたまらなく愛おしくなる話になっていました。時間の経過も大堀さんの語り手🐱を入れることで突飛でなく、時代説明の補完や笑いとして楽しめる要素になっていたのも非常に絶妙な塩梅ですごいなと思いました。

上から目線に聞こえたら恐縮なのですが、役者の皆様のすてきなところは誰にそのセリフを投げられても同じ演技をするのではなく、その場で生まれ出たものでやりとりをしているように感じるところです。それは演技のニュアンスだけでなくて空気感というか、そういうものも含めて。気持ちを歌に乗せるミュージカルもいいけれど、こうして言葉という媒体を使って人と人とが言葉を交わす、そんな対話に痺れる瞬間がいっぱいありました。

3時間の中で劇的な変化というのものは考えてみたらあまりなくて、ずっと金五郎は金五郎で、マンさんはマンさん。核にあるものはブレていない。その中でも時の経過がこんなに美しく感じられるのがなんだかすごく新鮮な心地です。2人が魅力的だから、周りを取り囲む人もみんな魅力的。だから最後の大団円のラストはこんな未来があると分かっていた気にもなるくらい腑に落ちてきました。そして舞台も客席もみんなが笑顔で2人を見送るあの瞬間がどうにもたまらなく愛おしい時間だなあと思うのです。

書き留めたいセリフが沢山あったなあ。「花をあげましょう」あのセリフ、初めて聞いた時ぼやぼやとした音響の中にすっとマンさんの声が届く感覚になって、すごく胸に響いたのを覚えています。安藤さんのお声本当に好きです。あと新之助の「ええ女じゃのう」は本当にいい顔してて好きなシーンです。後半で色んな意味での大人になったかと思えば金さんがやられてブチギレる熱い部分が根に残っているのいいですよね。あと君香さんをすっと後ろに控えさせるときの手がいいです。夫婦になってもある種ブレない(すごくいい意味で)金五郎とマンさんを見ていると、君香と出会った新之助の変化がまた愛おしく感じたりもします。

男性陣は言わずもがな皆様かっこいいのですが、女性陣がタイプの違う可愛らしさがあってすごく素敵なのです。君香さんも前半の無邪気な可憐さと後半の落ち着いたギャップがあったり、お声が本当に澄んでいてすてき。春駒も憎めないかわいらしさがあるし、ギンさんは迫力があってついて行きたい女。お京さんの不敵な笑みも大好きだし、染奴もすごく愛おしくてたまらない。兼役含めて楽しく拝見しています。

山内さんの河童、どうしてあんなにかわいらしくて愛おしいんでしょうか。もがくもがくシーンなのに気の抜けてしまう感じ、でもすごく存在感があって。あと成松さんの角助は毎度迫力に目が離せなくて、とっても信念の強さを感じました。彼もまたまた貫徹する男だなあ。

舞台装置の使い方もすごく好きでした。あの船が回ることですごくドラマチックにも見えたり、悲壮感が強まったり、場面がくるくる動き回るだけでなく大きな効果を生む瞬間が沢山あったと思います。照明も印象的で、屋根の上でみかさを見るシーンは広がる海と青空が見えた気がしましたし、雪のシーンは冬の厳しい温度を感じたような気がしました。絵としてもすごく綺麗で、写真のように目に焼き付いています。

魅力は書いても書いても書ききれないのですが、こうして細かく書いて思いを馳せていくたびにどんどん好きなところが増えていく作品だなと思います。こんな作品にもっともっも出会いたい。直接の教訓じゃなくても、ここまでの活力を貰える作品に出会えたことが何より嬉しいです。屋台の取り組み、客席の「賑わい」も含めて一生の作品に出会えた感覚。

新ロイヤル大衆舎さんの今後の展開も心から楽しみにしています。(舎歌が頭から離れないです、助けてください。)

どうか皆様が千秋楽まで怪我なく無事に完走できますように。素敵な取り組みをありがとうございました。

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