【観劇感想】祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』

日生劇場にて、祝祭音楽劇『天保十二年のシェイクスピア』 を観劇させて頂きました。

2020年の観劇が叶わず、今回劇場で観るのは初めての本作。そして久しぶりの井上ひさし作品。
シェイクスピアの作品がこれでもかと詰め込まれ、「絢爛豪華」の名にふさわしい華やかな空間に魅了されるあっという間の3時間35分でした。

※以下、本作の内容を含みます。

冒頭。木場さんの前口上に、万雷の拍手。本作におけるコロナ禍の公演中止は直接経験してはいないものの、あの時の演劇のことを考えたら、今日こうして劇場に座っていられることがどんなに幸せか改めて噛み締めました。

幕が上がり、軽快な音楽とともに、「もしもシェイクスピアがいなかったら」と歌い踊るキャスト。「もしもシェイクスピアがいなかったら  これから始まるはずの このお芝居もここでおしまいさ」の歌詞の通り、本作はシェイクスピアの作品あってこその物語。「ロミオとジュリエット」「リア王」「マクベス」とはじまり、「夏の夜の夢」「オセロー」「ハムレット」などとシェイクスピアの名作が全37作、ふんだんに詰め込まれています。

私はシェイクスピアは戯曲やら観劇やらでさらっていて、ある程度の知識はある状態で観劇しましたが、これがもうずっとずっと楽しくて。
知ってるとなお楽しめる、という要素のある作品は万人受けと両立するのは難しいというのが個人的な見解なのですが、シェイクスピアとなると別。シェイクスピアの話はどこまでも「人間」の話であり、例え元ネタを知らずとも、作品の包括する面白さが伝わってくるものです。

このキャラクターはこの作品のモチーフかな、と思ってみていると、突然に別の作品の要素も入ってきたりして常にくるくると物語が展開していきます。有名な翻訳問題を怒涛に聞けたりして、これがまた本当に楽しいです。シェイクスピアはどこか高尚なものだというイメージがやはり拭えないのは現実ですが、実はたくさんのツッコミどころも非現実的な部分も下品なところもあって、わたしたちのすごく身近にあるものなんだなあという魅力を伝えてくれるコミカルさでした。

そしてそれと共に体感できるのが、演劇という媒体の楽しさ。私たち観客の「想像力」を用いて、ありとあらゆる事が可能になる演劇。時を止めることも、時間や場所を飛ばすことも、演劇だからこそできること。改めて自分が演劇を好きな理由を再確認できる瞬間が多々あり、胸が熱くなりました。

佐渡の三世次、王次、おさちとおみつをはじめ、本当に十人十色の登場人物たち。話の中心に誰かがいつもいるようで、でも限りなく群像的な話に見えてくるのが大きな印象でした。客席にいると心做しか1歩引いて物事が見えてくるのに、登場人物たちによって気持ちはどんどんと話の中に持っていかれるから不思議です。

今回声を大にして言いたいのは、キャストの皆様の素晴らしさ。誰もが心の底から愛おしく、人間的なキャラクターを見事に描き出していたと思います。特に唯月ふうかさんの2役は圧巻でした。可愛らしいおさちと強くて格好のいいおみつ。2人は表と裏のようで、深く深く繋がっている。おさちが三世次を追い詰めるあの瞬間に全てが詰まっていて、圧巻でした。澄んだ歌声も本当に綺麗で久々にお聞きできて嬉しかったです。

三世次も、口八丁で世を渡り人を嘲る彼が、どこか愛らしく見えてきて、それがまた恐ろしかったです。この世を笑っているようで、憎んでいるようで、でもその執着の先にあるのはきっとまた別の何かで。私ならきっとすぐ上手くやり込められてると思います。早口なセリフもリズムで流れていくことなくきちんと頭に入ってきて凄かったです。

個人的に男女の情交の描写や下ネタはあまり得意ではないのですが、本作に関してはかなり激しく直接的に描かれているにも関わらず、演者のみなさまの熱演あってかもはや芸術の域として見ることができました。(とはいえ、苦手な方は苦手だと思うのでご注意ください!)

そして終盤、舞台上の鏡が映し出すのは、私たちの座る客席。この演出が本当にたまりませんでした。舞台上の物語から、これは人間の物語であり、「私たちの物語」であることを一気に自覚させられる。シェイクスピアはいつだって変わらず私たちを映しているなと改めて感じる瞬間でした。

最後には客降りもあり、華やかなまさに祝祭。みんながみんな死んでいくのに、頭に天冠をつけているのに、こんなにも心地よく楽しく、軽やかな気持ちで劇場を後にできる作品は唯一無二だなとも。まさにきれいはきたない、きたないはきれい、矛盾した感情はいつだって一緒でした。きらびやかなお衣装も近くで拝見できて嬉しかったです。

年の瀬、観劇納めにもぴったりな素敵な作品でした。

東京は当日券もあり、地方公演も控えているとのこと。学生割引もあるみたいです。「この世は舞台、人はみな役者」だからこそ、劇場で感じられる魅力に溢れた作品です、まだの方は是非。

観るか観ないか、それが問題だ。

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