【観劇感想】KAAT×新ロイヤル大衆舎 vol.2『花と龍』
KAAT神奈川芸術劇場にて、KAAT×新ロイヤル大衆舎 vol.2『花と龍』を観劇させていただきました。
発表された時からずっとずっと楽しみにしていた作品です。火野葦平さんの小説を原作として、齋藤雅文さんの脚本、長塚圭史さんの演出、山内圭哉さんの音楽で彩られます。今回は作品の内容についてはネタバレなしのつもりです。
今作品は内容ももちろんなのですが、なんと言っても楽しい企画がたくさん用意されています。
1つ目が舞台上に出現する屋台。袖水やら衣装やらが置いてある上手袖から入場すると、そこには地域のお店の屋台がずらりと並んでいます。焼きそばや、パンや、ラムネにお酒まで!また食べ物だけでなくマッサージのサービスも受けられたり。わたしはティーソーダが美味しくてお気に入りです。近隣の商店街のみなさまの御協力だそうなのですが、本当に素敵な試みだと思います。劇場周辺って足を運んでいるようで意外と見ていないので、こんなお店があったんだ!って知ることができたり、地域として演劇を盛り上げてるのが本当にすごいです。KAATに来る機会が今年は多そうなので、その際には友人も連れて商店街に足を伸ばそうと思います。
そして買った商品は舞台上で食べることができます。文章で書いていてもぜんぜん伝わらないと思うので、撮影可能な開場時間中に撮ったお写真を載せさせていただきます。
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開演前には普通に役者の皆様が歩かれていて気さくに会釈やら挨拶をしてくださるのですが、わたしは冷静な顔をしながらも、内心「これまで色々な舞台で拝見した役者さんがすぐ目の前にいる!」と毎度心底浮かれています。神聖なる舞台上を歩き回って、買い物をして、飲食できる経験なんてもう二度とないんじゃないか?ってくらい、本当に貴重な時間を過ごすことができます。聞こえてくるあちこちのやりとりも、なんだか芝居のように聞こえてくるので、境がだんだんとなくなっていく不思議な心地でした。
そして2つ目の試みは、上演中の飲食が可能なところ。1階席であれば買った商品を上演中いつでも食べることができます。お酒を飲むシーンに合わせて一緒に飲み物を飲んでみたりするのが楽しいです。後方席の座席はシートが覆われていて食べこぼし対策がされていました。わたしは今回が人生初めての桟敷席で、大衆演劇さながらな体験ができてすごく嬉しかったです。浮かれて桟敷席ばかりでしたが、1回くらいは後方席や2階席からも見てみたかったな。(腰はしっかり痛くなりました、わたし的にはマチソワはかなり無謀)
普段のKAATの6列ほどを潰して舞台がせり出していて、どの座席でもかなり距離感が近く感じられると思います。下手には花道、桟敷席と一般席の間には通路があり、役者の皆様が度々客席からも登場するので間近でお芝居を拝見できる瞬間がたくさんありとても楽しいです。
火野さんが両親のことをモデルにしたという本作。北九州の若松港を舞台にゴンゾと呼ばれる荷役労働者たちの暮らしが描かれ、明治の激動の時代を激しく逞しく美しく生き抜いた玉井金五郎という男とその妻マンの物語です。 開演前に何気なく立っていた舞台上が、始まると明治の激動の空気に一変するのだから本当にすごいです。この時代の風みたいなものは演出やリアリティ溢れるお芝居のやり取りからとても伝わってきました。原作小説を読まずとも楽しめますが、読んでいるとおいしいなと感じたシーンもあるのでまだの方はぜひ。
福田転球さん演じる金五郎、そして安藤玉恵さん演じるマンさんが本当にかっこよくて、頼もしくて、力強く生きていて本当に痺れました。なんだかこの2人の瞳はずっとキラキラしているようで、ずっと光があって、ただただ眩しかった。時代は確かに違うけど、日本人の心のようなものとしてこの2人のかっこよさは時を超えて感じられました。私の個人的な感覚としてどうしても時代物はこの作品を今みる意味、みたいなものを考えたり探ってしまうのですが、本作はそんなことを深く考えずとも義理や人情のもと愛を持って真っ直ぐ生きることの素晴らしさみたいなものを体でめいっぱい受け止めたような感覚です。周りを囲む他の役も含めて全員が魅力に溢れていて、ほんとうに「生命力」の物語だったなあと。
あと役者のみなさまが役を楽しんで生きられているんだろうなというのがひしひしと伝わってきて、口角がとっても上がりました。福田転球さんの金五郎は、誰もが惚れる男。これまでの経験やら生き様やらがにじみ出るような金五郎で、ああこれは福田さんだからこそこんなにかっこよく見えるのだろうなと。彼の立ち姿から、わたしには「気」が見えた気がします。
安藤玉恵さんは『さばドル』を見て大好きだったので舞台でこんなにもじっくりお芝居を拝見できて本当に嬉しかったです。マンさんがイキイキとしていたらこちらも嬉しくなるし、マンさんが不安そうだったりしたらこちらも悲しくなる。ラストのセリフで本当に胸を打たれます。
新之助役の松田凌さんのお芝居はいつ拝見してもすごく演劇への愛を勝手ながら感じさせていただくくらいに、なんというか、すごく振り切れていて、表情や細部まで見ていて本当に気持ちがいいです。新之助の前半と後半での演じ分けや心持ちの変化の表現が非常に芯が通っていて、素敵な役柄でした。かっこよかったです。
北村優衣さんの色気にはとってもクラクラしました。彼女の純粋無垢な喜びと、企みの差が分かりやすく伝わってきてすごく素敵でした。全員についてもっと細かく書いていきたいのですが、ネタバレも含んでしまいそうなのでこのあたりで。
そして本作は、こんな素敵なお芝居を取り巻く客席の雰囲気もずっと温度がある、というか本当にあたたかくて。上手く形容しがたいのですが、大団円と共に拍手しながら涙が出そうな感覚でした。笑顔が溢れていて、あ〜劇場のこの空間がたまらなく大好きだなと思いました。ずっとあの中にいたい。
はっきりと、ああ、こんな演劇をわたしも作りたいな、と思いました。今までnoteにこんなことを書いたことは一度もないのですが、夢とロマンに溢れたこの作品だからこそ、書けたことかもしれないです。
マンさんにとってのブラジルと同じ。
休演日の17日はKAATさん主催のバクステツアーにも参加してきました。このツアーを経てまた新たに劇場や本作もに思いを馳せられる素敵な試みでした。これもまたnoteにしたいと思います。新たな試みでもある19日の「やさしい鑑賞回」パターンの感想も書くつもりです。こっちでメインバージョンと比較した上で、ネタバレ含む作品の感想やら演出やらについて書けたらいいなと思います。KAATさんの自由度の高く、演劇の間口を広げんばかりの素敵な試み、今後も楽しみに拝見していきたいと思います。
生命力と熱量あふれる素敵な作品、どうか1人でも多くの方の演劇への入口になればいいな、と思うばかりです。横浜は22日まで、富山、兵庫、福岡もあるのでぜひ。どうか無事に千秋楽まで。