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【観劇感想】あやめ十八番「雑種 小夜の月」

座・高円寺1にてあやめ十八番さんの「雑種 小夜の月」を観劇させて頂きました。

先日見た番ボさんの「蚕は桑の夢を見る」がすごく好きだったので、その脚本をされていた堀越涼さんの脚本・演出を楽しみに、はじめてのあやめ十八番さんでした。

田舎のほんの片隅の団子屋のお話、そして家族のお話。夏の日差しと、あたたかい言葉と、優しさに満ちた素敵な作品でした。
この「雑種」シリーズは3作目らしく、これまでの公演は拝見できていなかったので観劇前は一抹の不安がありましたが、全くの杞憂で。

終わったあともゆっくりと噛み締めたくなるような、宝物のような言葉が広がっていて、帰りに上演台本を購入しました。読み返しつつ、思い出しつつ書いていこうと思います。

客席に入ると対面式の客席。客席にいるのに、舞台上を照らす照明からは外で観た眩しい日差しと同じくらいに夏を感じました。そして始まるのはまさにお盆のお話。作品との境界がぼんやりしていく感覚からどんどん惹き込まれました。

物語は2024年と1987年を行き来する形で描かれていきます。最初は複雑だった人物関係がお話の中でだんだんわかっていきます。時空が飛ぶ作品は観るのにもカロリーを使いますが、装置を使ったりセリフをつないだり本作はすごくスムーズに時間を超えるのでそこに違和感もストレスもなく入っていけるのが良かったです。

団子屋さんの朝も群唱と時系列と共に分かりやすく伝わってきて、舞台蚕の夢で観たものと同じだ!と嬉しくなりました。この時系列の表現は耳馴染みが良くて好きです。目で見て楽しいのももちろん演劇なのですが、あやめ十八番さんのお芝居はこう言った日本人の持つ感覚として耳で聞いて楽しいリズムのセリフが散りばめられている印象でした。
生演奏も耳で聞いて楽しいのひとつの要素で、お祭りの音楽だったり、ちょっとした効果音だったり。音での遊び心にわくわくさせられました。楽しかった。

お話が進む中で見えてきたのは、この家族の問題のようで、自分にも決して遠くない問題。結婚をすること、子供を産むこと、親の介護、故郷を離れること。選択肢も答えも人間の数だけあることで、でもどの選択も大切で尊いものなのだと思いました。だから明確な答えがでなくとも、考えることも1歩だと認めてくれるような本作にはすごく勇気をいただきました。家族でぶつかる部分があれど、根底にはそれぞれの形の愛情があって。その愛情が照れくさくて上手く受け止められない時期の感覚も痛いほどわかったりして。自分と繋がりのある人達のことも作中思い出したりして、たくさん泣きました。

日替わりシーンも楽しかったですし、他のお客様との会話も聞いてみたいし、私もお団子を買いに行きたいです。

最後、目に焼き付くのは鮮やかな祭りの景色。ずっとずっと遡れば、演劇は本来、祈りで祭り。ボーダーラインが明確でないあの客席だったからこそ、こちらが持ったいろんな感情もその場で昇華して貰えるような素敵な終わりでした。

舞台蚕の夢と同じ「家族」を描いた話でしたが、こんなにも違う側面から描くことが出来るのかと堀越さんの脚本の巧みさをあらためて。ただどちらも違った人との繋がりの中でのあたたかさとやさしさがあって、これは堀越さんの経験からでしか紡ぎ出せない色なのかなとも勝手ながら感じました。ぜひまた作品を拝見したいです。

わたしもお盆で実家に帰ってきました。帰ってきているおばあちゃんに、この作品の話をしようと思います。本作はお盆明けまでやっているようです。
お時間がありましたら、ぜひ。

皆様が無事に千秋楽まで駆け抜けられますように!

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