【観劇感想】ミュージカル『新テニスの王子様』The Fourth Stage
日本青年館ホールにて、ミュージカル『新テニスの王子様』The Fourth Stageを観劇させて頂きました。凱旋初日、回替わりフランス代表はプランス王子です。
昨年の秋をサーステに捧げてから1年弱。今思ってもサーステにはなにか特別な力が働いているとしか思えないほどの中毒性がありました。劇場に行くのが本当に楽しかった。そして作品を重ね、キャストに思い入れも深まってきた中でのドイツ戦。新テニミュもとうとうここまで来たんだな、と感慨深いものがあります。
開幕してすぐ、コーチ陣のミーティング映像。と思ったら突如お頭が登場、客席のリアクションから初めてのやつなのだな、と認識しました。足を運ぶ度にテニミュほど客席の空気が正直な作品ってないなと思います。みんな当たり前のように複数回観ているので、日替わりの2度目はウケないし、新しいことはすごく楽しんでいる。初日からこの渦に入れたらなによりなのですが、公演の途中で(特に後半で)初見だと、ちょっとだけアウェー気持ちになったりもします(わたしだけかもしれませんし、観ているうちに忘れます)
凱旋初日までに3都市が終わっているので、ありとあらゆる感想と情報は目にしていました。不二と入江の2人をボーイズで、決勝オーダー決定戦までやるということだったので駆け足になることは覚悟していましたが、観劇後の感想としては、演劇としていいな!と感じた部分がたくさんあったがゆえに欲が出る部分もあった、というのが正直なところです。 難しい。
今回特に印象的だったのは照明です。わたしの好みもあると思いますがすごく刺さりました。テニミュの歴史の中で、音と照明(ときどき映像)で本当に数多くの技が表現されてきましたが、まだこんな表現ができるんだ!という驚きに新テニミュは出会わせてくれます。
テニミュは観客の五感をフルに使う形で、特殊な漫画の表現を舞台上に表現してきました。手塚ファントムの音と足元に広がる照明、ブラックホールの空間を削る音、ツイストサーブの音と光。慣れている観客は多分みんなイントロドン形式で答えられるくらい技とその演出が身体に染み付いていると思います。20年の蓄積は伊達じゃないですし、ある種観客へのひとつの信頼のように感じています。どの技の演出が好き?で一晩は語り明かせます。(わたしはメルパで観る「空蝉」が好きです)
そして世界と戦う中で新しい技がどんどん現れていく中でも、「音と光」という枠組みの中で新しい形を作り、こちらにそれを提示し続けてくれていることに感動しました。
特にD1の不会無と更互無、すごく良かったです。ぱっと舞台だけ見た時に「存在しない」ことにとても説得力がありました。ブル転の中、存在する(種ヶ島以外とボール)ものだけに照明が当たる。このルールを理解した観客は、最後の更互無ではじめて赤也が消えるという、ドイツ側の感じた変化を同時に経験できます。
今回1回観ただけですが、仮に次の作品で種ヶ島の不会無がふとあの演出で差し込まれても、わたしの脳は「不会無」だなとすぐ認識できると思います。それくらい一瞬の表現で観客の印象をコントロールできる技量に改めて感嘆します。(ただD1試合の流れとしては結構バサバサ切られながら話が飛んでいく印象だったので、そこは原作理解が必要なのかもしれません)
逆に欲が出たのは脚本についてです。うーん、この時間に全てを描き切ろうとするのが難しいのは分かっているのですが、わたしは話は飛ばされても根底が描かれていればそこは許容できるタイプです。ただ今回はキャラクターの「核」と、セリフと行動の奥底にあるキャラクターの「エゴ」が見えにくくなっていないか?と感じてしまったのが残念でした。特にダブルスはどちらの試合も過去の掘り下げが叶わなかったり、(サーステでのカットを前提としていたこともあり)キャラクターが好きな人たちから見ると満足度はどうなんだろうと思いました。原作で読んで胸が熱くなる試合だったからこそ、余計に。
ひとことふたことセリフをつけ加えたり、見せ方を変えればもっと見え方が違うのかなと感じる場面もありますがたられば論になるので、やめておきます。
1番はカズヤに鬼さんやお頭の試合を観ていて欲しかった……と思いましたし、泣き崩れる入江を支えて決勝への覚悟を決めて欲しかったな、とも思います。これは、こちらのエゴです。
でも試合は1試合1試合がこちらも熱が上がるもので、今日はどちらが勝つか分からない緊迫感が伝わってきて、ああ生で観ることができて良かったなと心から思いました。特にS2、本当に素敵な試合だった。
サーステも素晴らしかったですが、今回を観て改めて、藤田さんが幸村くんを演じてくださって良かったなと思います。今回の試合の幸村くんは、あの全国大会の敗北からずっとずっと繋がっているのが感じられて、日本代表の中にいながらも立海であって。一見穏やかな、だけど幸村くんの中の強い熱量がセリフと歌と表情でビシバシ伝わってきて、だからこそこの試合を観たあとは、悔しさだけでなくてこちらまで気持ちが晴れるような感覚になりました。あと時折、藤田さんの動きで原作の幸村くんのコマを事細かに思い出せるのが凄いです。 重なる、というか。新しい手塚を演じた手島さんも、それを感じさせない技量と貫禄があってとても良かったです。すごい試合を見ることができた。
オーダー決定戦のリョーマVS不二、跡部VS入江も本当に良くて、安宅さんも内藤さんも正キャスト扱いでいいと思うくらいキャラクターに向き合ってくださっているのが伝わってきました。ベンチのセリフも多いし歌まであるのになあと。
前回のバラードのような新曲はなく、バウもサビナンもトップ・オブ・ザ・ワールドでした。身体に染み付いていたので乗れて楽しかったです。
怒涛の3時間半でしたが、間延びはなくとにかく熱量と密度を浴びせられました。全然書けていませんが感じた全てを書いていたらありえない長さになってしまいそうなのでこのあたりで。
進化し続ける新テニミュ、次はいよいよスペイン戦ですね。決勝メンバーのシルエットがでてこちらもふと終わりが近づいていることを意識させられました。今回のスペインの曲も国柄のイメージそのもののメロディがふんだんに使われていて、原作の展開と等しく舞台でどう表現されていくのか、とても楽しみにしています。
テニミュを観たあとのこの清涼感と熱は、やっぱりテニミュでのみ得られるものだと感じました。劇場で上がった熱を夜風で冷ますように、青年館から駅まで歩くことを含めてわたしは青年館でみるテニミュが好きです。またここで日本代表の試合を観ることができたら嬉しいなと思います。
まずは本作、千秋楽まで、残りの公演の成功をお祈りしています。