【観劇感想】ミュージカル「ライオン」
クラブeXにて、ミュージカル『ライオン』を観劇させて頂きました。
ストーリーや作品についての事前知識はほぼ入れずに足を運びました。来日版と日本版の上演でどちらも観たかったのですが、スケジュールが合わず今回は成河さんの日本版のみの観劇となりました。
5本のギターと、たった1人だけのミュージカル。優しいメロディと、見事な演奏と、ボーダーレスな演劇空間と。実話を元にした家族のお話とそこに寄り添う音楽に、何度も心動かされました。ギターについての知識は全くと言っていいほどないのですが、歌いながら弾きながら演技も兼ねるというのはそれはもう難しいことなんだろうなと思っています。この日は予定的にもあんまり泣きたくない日だったのですが、もう涙が自然と出るような感覚だったので全てを諦めて泣きました。
印象的だったのが、現実と虚構の境の曖昧さ。元々は演劇として作られたものではないからか、成河さんが会場に入ってきて、客席にライブのMCのように語り始める導入が、すごくすっと作品世界に入ることが出来て良かったです。
また舞台美術もすごく素敵で。
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舞台上から客席の上部まで同じようにバトンから吊り下げられたランプが広がっていて、舞台上と客席という明確な境界はありながらも、たしかにベンと私たちは同じ空間を共有している感覚になりました。客席のあちこちにもランプが置かれていて、すごく幻想的でした。
バトンから吊り下げられたランプは、途中着いたり消えたり。私の認識が正しければ、ベンが父の話をする時だけ灯っていた気がします。
楽曲も耳に残るものばかりだったのですが、今回成河さんが訳詞にも携わっていらっしゃると聞いてまた驚きました。
描かれるのはベンという1人の男性の、10歳から30歳までの20年。家族を軸にした話かと思っていましたが、振り返ってみるともちろんそこが根底にありつつも、ベンという1人の人間と彼のこれまでを通していろいろ考えたり感じたりする作品だったと思います。ストーリーとして1回で咀嚼しきれないところは多くあって。というのもベンのまわりの様々な人間がそれぞれ持っている価値観はわたしとしては凄くわかりやすいものでは無かったからです。ただその言いようもない複雑さこそがすごく人間らしいなと思いました。自分の中でしか整理はついていないけれど、それでいいのかもなと思いました。
わたしは「演劇の最小単位は舞台に俳優が1人、観客が1人」を盲信しているのですが、何だかそれをすごく体感できる時間でもあったなと。ベンのように劇的なストーリーはなくても(といっても、ベンの人生も決して突飛なものではなくて誰にでも起こりうるようなことでもあると思いますし)誰もがこのように舞台に立って自分を語ればそれは演劇になるのかも思いました。そんな自分と距離感の遠すぎないような話を聞いているシンプルさが、作品への没入度をすごく高めてくれたなと思います。ベンが作中、観客席に座る私たちを「友達」と言ってくれたことも相まって。成河さんが代わる代わるに色々な役を演じていくのにも全くストレスなくついて行くことが出来て、見事な演じ分けを楽しく拝見しました。
タイトルの「ライオン」については劇中でも色々と触れられていき、ベンもひとつのその答えにたどり着くのですが、もちろんその答えも大事なのですが、それというよりかは、人生を通して色々な経験をしたりするとひとつの物事も変わって見えたりして、新しい答えが見つかったりもすることもあるよなあという共感のようなものを覚えました。
私は自分の人生の色々なことには全て意味がある、と思っているので、辛いことも嬉しいことも悲しいことも、きっとベンのようになにかひとつの答えにたどり着けるものであるといいな、と思いますし、それでも分からないことにも「まあ、やってみます」と言えるようになりたいです。
本作品の捉え方としてちょっとズレているような気はしますが、私にとっては1人の人生と演劇を通して対話することで自分の人生を省みるような作品でした。普通に生きてたら絶対に交わらない人の人生からも影響を受けたり、考えたりできる。演劇の醍醐味だなと思います。
機会があれば今度は来日版も観劇したいです。年末に素敵な作品に出会えて嬉しかったです。