【観劇感想】舞台『ノンセクシュアル』
横浜赤レンガ倉庫1号館 3階ホールにて、舞台『ノンセクシュアル』を観劇させていただきました。
観劇したのは新井將さん、星元裕月さん、立道梨緒奈さん、神里優希さん、小柳心さんのカモノハシチームです。いずれも別の作品で何度も拝見したことのある俳優の皆様だったので、今作においてどのような形でそれぞれの役柄が交わるのか、とても楽しみにしてました。
本作は2020年に朗読劇の形で配信されていた作品とのこと。今回は初のストレートプレイでの上演だそうで、演出を鯨井康介さんが担当しています。
わたしは今回の観劇がストーリーにおいて完全に初見。ほとんど事前情報もなく足を運びました。
会場は赤レンガ倉庫1号館3階ホール。初めて訪れる劇場でしたが、どこか落ち着きと風情があってとても居心地がよかったです。舞台装置は舞台の正面と左右に客席が配置されていて、客席内の扉からも演者が出入りします。私は上手側の座席で拝見したのですが、段差がありつつもかなり距離感も近く、役柄の意識の矢みたいなものが客席にまでビシバシと飛んでくる心地でした。
舞台上にはトルソーと、掘りごたつ式(上手い言い方が見つからなかった)にくり抜かれた段差の中に1台のベッド。中には枯葉が敷き詰められていました。
見る角度でも全然印象が違って見えるんだろうなと思います。この舞台装置も印象的だったので、後ほど。
ストーリーの筋だけを見るとサイコホラー的な分類になるのかもしれませんが、その心理の蓄積は決して突飛なものではなく、役柄の持つ感情の揺れ動きが明確に伝わってくるのでとても分かりやすく観ることができました。蒼佑を一言で言うなら「サイコパス」になってしまうのかもしれませんが、そうなる過程にも人間との関わりがあって、それが説明されていたのが良かったです。根っからの猟奇的な人なんてほとんど存在しなくて、環境、触れたもの、出会った人によって生じた価値観なのだと思うと本当に人は人との関わりで作られていくんだろうなあなんて思いました。脚本としては展開がちょっと先読みできてしまったりツッコミどころもある部分はありましたが、ここが丁寧に拾われていたのが何より見ることが出来てよかったなというところです。
本作の根底にもある「愛と執着はどう違うのだろう?」という大きなひとつの問いに対しては、先日拝見した『ワイルド・グレイ』を観てから自分の中で考えていることでもありました。今作は「愛」と「執着」がそれぞれの持つセクシャリティを重ねた上で両極端に区分されているような印象を受けましたが、とはいえ、表と裏だなあというのがわたしなりの答えです。
もっと言うなら、『next to normal』を観て考えていた「普通」ってなんだろう?ってことも想起しました。わたしは今回も作中にすごく感情を寄せられる!というような特定の役はいなかったのですが、それぞれの役の持つ考えに共感できるところはあって。それぞれの持つ感覚を「普通」とみるか、「異常」と見るかはやっぱり人それぞれでもあるし、価値観というのもそういうものだなと。私はセクシュアリティで言うなら多分塔子さんと同じ自認なのですが、それでも彼女が瑛司にしたことは「普通」ではないと思ってしまうし、それは人によって愛であり、執着でもあるとはっきり分かれると思います。
人間関係においてそういう差の感覚を言葉だったりで埋めていくことこそ、相手を知って理解していくことになるのかなあ。だからこそ、今価値観が合って尊敬できる友人がいることって改めて尊いことかも、とも思えたり。
こうして色んな作品を通して自分の中で色々と考えを蓄積できることは、観劇を重ねる醍醐味でもあるなあと感じました。
今回は舞台装置とそれを利用した演出がとても印象的で、こうやって頭の中で色んなことをぐるぐると考えながら俯瞰して物語を観ていたのですが、演出によってぐっと作品の中に惹き込まれる感覚がとても大きかったです。
段差も低く、ボーダーレスに近いアクティングスペースはもちろんなのですが、後半、蒼佑の扉ドンドンする演出は本当にびっくりしました。下手側なんて特に恐怖なんじゃないでしょうか。でも上手側からは扉の中に入ってきて瑛司の姿を目視したときの蒼佑の顔がはっきりと見えたりして、それもまた怖かったです。全体的に仄暗いので照明の効果もすごく強く感じられました。塔子が殺されるシーンで映し出されるシルエットが美しくて、映画を見ているようだった。秀樹が追い詰められるシーンも舞台上の坂道が崖に見えたり、トルソーの演出も面白いなー!と思うものばかりで視覚的にも楽しい瞬間が沢山ありました。あとは脚本の地名も横浜になっていて、その具体的な土地がすごくイメージしやすかったり。
登場人物についてももっと知りたい!と思うことがたくさんあったりして終わったあともたくさん考えられることがある素敵な作品でした。惜しまれるのはダブルで観劇できなかったこと。そして終わったあと誰かと共有したくなってうずうずしながら横浜の街を歩いたことです。普段価値観が合う!と思ってる人と見てみると、思いのほか対話が生まれそうだなあと思います。
素敵な作品でした。演者の皆様も本当にカロリーの使う作品だろうなと思います。千秋楽までの完走、お疲れ様でした!またいつか。