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【観劇感想】演劇『推しの子』2.5次元舞台編
シアターHにて、演劇『推しの子』2.5次元舞台編を観劇させていただきました。
※以下、脚本や演出のネタバレを含みます。
本当に楽しみにしていた作品です。というのも、わたしは「劇中劇」(と、その舞台化)が大好きで大好きでたまらないからです。劇中劇は本編で全てを語り尽くされていないことが多く、上演を通して作品を現実に近いものとして実体化できる。アニメや漫画の舞台化に際して、その意義を載せるのにうってつけの表現方法だと思っています。
本作は公演前から、俳優ではなくキャラクターの状態のPRコメント動画、作中グッズの販売など既に『東京ブレイド』という作品の実在性にこだわりの片鱗が見えていたので、安心して足を運びました。
とはいえ劇中劇がどのように差し込まれ、どのように表現されていくのかドキドキして迎えた観劇日。劇場ロビーに入ると、フリルちゃんやB小町の2人など作中キャラクターからの祝花が飾られていました。
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こういう粋な演出、わたしは本当に大好きで、劇中のこの作品を観る観客として扱ってくれるのが最高に心踊りました。作中でも語られる「お客さん」に客席を座る私たちを重ねていることも顕著だったのでその仕掛けを観劇前からしてくれるのも細かいなと思います。
そして開演、幕開き。東京ブレイドの衣装に身を包んだキャラクター達が現れ、「TOKYO BLADE!」の歌唱。ちょっとした引っ掛かりを覚えるのですが、メルトの棒読み具合と鞘姫のセリフでこれは本番でなく最初の台本なのだな、と理解します。この絶妙に微妙な幕開けがなんとも言い表せない塩梅で、ちゃんと「がっかりさせられる」アビ子先生に共感ができるクオリティになっていました。
そこから1幕は稽古パート。脚本は回想やアレンジも加わりつつ、ほぼ原作通りに進んでいきます。アクアを軸としてこれまでのあかねとの関係値、かなちゃんやメルトの今日あまの出来事まで分かりやすく整理されていましたが、ルビーやアイの名前は最後まで一切出てきません。(聴き逃しがなければアクアに双子の妹がいることすらわからないかも)アクアがこの作品に参加した意図など原作を知らない人には上演だけでは見えてこない部分がありますが、客席を見てみると老若男女問わず幅広く海外のお客さんまでいらっしゃって、原作も人気コンテンツである今、そこは心配いらないのかなと思いました。(逆に、たぶん初2.5次元舞台のお客さんも多いと思うので、劇団のメタネタはこれみんなに通じてる!?と勝手に心がざわざわしていました)
そして2.5次元舞台のあれそれが2.5次元舞台として上演される妙に、その文化を享受している観客として体重を乗せざるをえません。舞台でなくアニメや漫画も含めて、普段触れている創作物にどれほどの人が関わり心血を注いでいるか実感します。
よく稽古場で俳優が着ているようなビブスを使って役職や制作の工程を可視化する演出も、裏舞台ものとして素敵でした。
個人的にはアビ子先生と吉祥寺先生のやりとりがずっとずっと良くて、ふたりの距離感からもこれまでの背景が良く見えてきてこちらまで胸が熱くなりました。そしてGOAさんや雷田さんの葛藤も含め、人と向き合うこと、対話を重ねること、人と人との間に立つこと、そして人と何かを作り上げることの難しさは演劇に限った話じゃないよなあと思います。大人組が本当に魅力的でした。雷田さんの立場になると胃が痛いですが、対立が明確に突きつけられた分GOAさんとアビ子先生の共作が楽しくてよかったです。
SMASH HEAVENは鴨志田くんが大活躍でした。楽曲が完全に某王子様で分かりやすくて良かったです。油断せずに行くって言ってた。曲調も振りもキラキラした照明もすごい楽しいです。
ただ舞台を観てるファンがいましたが、もっと落ち着いて作品の良かったところを語るリアクションだとよりいいなあと思いました。きっと雷田さんの言う「帰るお客さんの笑顔」につながる部分もあると思うので。でも多分これは個人の好みとして演劇を観た観客がキャーキャーしている表現が苦手なだけかもしれないです。好みの話。
鴨志田くんのルビーのナンパシーンも客席での演出になっていて上手いアレンジだなと思いました。客席も何度か使った演出があり、楽しく拝見しました。
ララライの劇団員のみなさまはとにかく個々の色が濃くて、劇団の空気がもろに感じられて良かったです。この空気感というものはアニメや漫画やドラマでは感じられない、実際の人間がやるゆえのものだなあとも。恋リアで沢山苦しんだあかねちゃんが今度は自分の土俵である演劇で輝く構図がすごく好きなので、実写版での東ブレ改変が少し寂しく感じてしまっていて。だからこそ、舞台で「劇団ララライ」の空気を受け取れた喜びはひとしおでした。個人個人が引き立つことで、天才として光を放つあかねちゃん、そして姫川さんの異質さと才能と、キャラの濃いみたのりおさんと…それぞれの魅力が見えてくるのがたまりませんでした。石田さんはお久しぶりに舞台で拝見したのですがこういう役で本当に輝かれるなと。最高です。
そして、あかねちゃんとかなちゃんのライバル関係が明らかになり、アクアやメルトにはそれぞれに課題が残され、本番の幕が上がります。
1幕切れ、なにより滾りました。15分の休憩の入りを、雷田さんのアナウンスによる舞台『東京ブレイド』の開演15分前のアナウンスにしたこと。こんなワクワクする休憩の時間もなかなかありません。1回の作品で2回も開演前の高鳴りを味わえる贅沢な体験でした。天才!
2幕は本番直前、みたのりおの衣装替えからスタート。私はナカサチさんのお衣装が本当に大好きなので、まさか役者がいちからナカサチさんのお衣装を身に纏う瞬間を見ることが出来るのが幸せすぎてたまりませんでした。皆様の連携プレーと併せて、しかと拝見させて頂きました。
そして幕が開き、稽古場のセットから舞台「東京ブレイド」のセットへ。原作はステアラありきのものですが、シアターHで東ブレをやるならこうだろうなとイメージしてたピッタリのセットが登場してすごく心が踊りました。
そして明かされる「東京ブレイド」の全貌。冒頭で見たものより稽古を経て確実にいいものになっている、と感じさせられるまさに本番の熱量みたいなものがものすごく、一気に惹き込まれました。このどうしようも形容できない空気感というものは劇場でしか味わえないので、是非。
印象的だったのが、本当にわかりやすい「2.5次元」を体現した演出になっていたこと。配信などで1幕と比較するとより見えて来るのかなと思いますが、テンポある展開、説明の補足、ギャグとシリアスの緩急、全員集合の歌唱、派手な照明、原作のこの後を予感させるラストなど、あるあるすぎてすごくわかりやすくて。私だけかもしれませんが、なんだか2017〜18年くらいの2.5次元舞台をめちゃくちゃ感じました。脚本の補完部分も原作のストーリーと重なったり、鞘姫の両親の兼役の妙もあって本当によかったです。照明なんかは眩しいくらいに激しいけれど、私たちが2.5次元舞台に感じるキラキラ感の支えにもなっていたし、楽曲も本当に素敵でした。和田さん、はるきねるさんの素敵な楽曲が物語の求心力をぐっと高める役割を存分にになっていました。脚本だけじゃなくて、照明、音響、美術、役者、演出家、プロデューサーという本当に多くの人が舞台には携わっていて、共同作業の末に原作を舞台化するってこういうこと、というのがとても分かりやすく伝わる劇中劇になっていたと思います。
不思議なことに観てると本当に東京ブレイドを知っている感覚になっていきます。原作から語られている最近増えたという刀鬼×つるぎのCPを匂わせる演出もあったりして、「媚びてる!!」という原作厨の気持ちになりました。知らないのに。
キャストも皆様本当に素晴らしくて、お互いの演技でキャラクターを彫刻しているようで。メルトの拙さは周りが上手ければ上手いほど引き立つし、メルトが拙いほど鴨志田が格上に見える。
メルト覚醒のシーンも直前で「あのシーンは舞台で難しいかな」という不安感が何故か掻き立てられ、そこに物語上の「メルトはやっぱり難しいかあ」という感情の重複が起きます。だからこそ、あの一瞬でメルトの成長が観られた瞬間の感動が何倍にも増幅する。冒頭の東京ブレイドのシーンもそうだったのですが、演出で明確に感情をコントロールされている瞬間がいくつかあって、観客としてそれがめちゃくちゃ悔しかったです。
あと特に意図的なものでは無いと思いますが、あかねちゃんの鞘姫ちゃんのお歌が綺麗で澄んだミュージカル歌唱なのに対して、逆にかなちゃんのつるぎがアイドルっぽい芯のある可愛らしい歌声なのが2人の対比で良かったです。土台は同じ、でも今の畑の違いがありながらこの舞台の上でぶつかり合う関係性を気持ちよく見ることができました。
劇中劇中のモノローグは、舞台下手に登場する舞台裏のセットの上で語られたり、エーステのように舞台上で役と切り替わる形で語られていました。その登場人物たちの舞台上での心持ちには、私たち観客が1幕で彼らの稽古を知っているからこそ感じられる感動があって、きっと舞台『東京ブレイド』単体での上演では感じられないものだろうなと思いました。劇中劇単体の舞台化もある中で、1幕も含めて上演してくれて本当に良かったです。
劇中劇後には舞台『東京ブレイド』としてのカーテンコールのみ、という特殊な形。アビ子先生と吉祥寺先生の拍手に、心から胸が熱くなりました。ラストに姫川とアクアの語りで幕が降り終幕ですが、あくまで私たちは東ブレを見に来た観客として扱われているのがいいなと思いました。最後劇場ロビーに出てみると、そこには「終演後に帰るお客さんの顔を見るのが好き」と語る雷田さんのパネルがお見送りしてくれていて、細かいところまで作品の愛に溢れたすてきな仕掛けが詰まっていました。
出口では配信の告知も兼ねて東京ブレイドのレプリカチケットもいただけてすごく嬉しかったです。スタッフロールも細かく記載されていて、本当に芸が細かい。
チケットは完売(本当にすごい)みたいなのですが、当日券や配信があるようなのでぜひ!
全体を通して本当に説得力に満ちた作品で、3時間余すことなく本当に満足度の高い作品でした。帰り際の劇場ロビーは、原作の舞台東ブレを見に来た観客とたしかに重なっていたと思います。この物語の舞台化で、実際に2.5次元舞台ってすごい!と魅力を知ってくださる人が1人でも増えるのなら、きっとそこに本作の上演の意義があるんだろうなとも。
どうか千秋楽まで、皆様が無事に駆け抜けられますように。