【観劇感想】ミュージカル『next to normal』

シアタークリエにて、ミュージカル『next to normal』を観劇させて頂きました。

進撃ミュで今年の観劇納めをするつもりが、おすすめいただき急遽チケットを取りました。

今年の終わりにまた大きなものを受け取ってしまった気がします。ずっしり来るけれど、その重さと真摯に向き合ってみたいと思える素敵な作品だったなと思います。

残念ながら2022年の公演は観劇が叶わなかったのですが、今回は全員が別の作品でお見かけしたことのあるキャストの皆様だったので、その面でもすごく楽しみにしていました。

これは本当に事前情報なしで受け取るべき作品だったと思うのですが、正直、ゲイブの役どころの正体は知ってしまっていたので(2022年に話題を覗いていたりしたので)そこへの驚きを持っていけなかったのは申し訳なく思うのですが、その事実がかなり序盤で明かされたので、その後の展開は飽きがなく楽しめました。

話のほとんどが音楽とともに進んでいきますし、その楽曲も様々なジャンルで、文字通り音楽を楽しめる作品だなと思います。ただ今回楽曲での掛け合いや、原曲の歌詞をそのまま歌唱しているようなパートも見受けられて、正直歌詞を聞き取るのにカロリーを使う部分も多かったです。歌詞を聞き取れないわけではなく、聞き取れるからこそ情報量に翻弄されてしまいました。セリフのやり取りが終了し片方で別のやりとりが始まっても同時進行でオフ芝居が続く場面もあるので、1回でなく何度も観て咀嚼したい作品だなという気持ちです。 もう1回観れたらよかったなあとも。

ストーリーはダイアナが主軸に置かれつつもどの登場人物にも等しく痛みを寄せられる描き方になっていたのが印象的でした。望海さんのダイアナ、繊細な心情から、パワフルな感情変化、その起伏を言葉通り体当たりで客席に届けてくれている感覚があってすごく感情が揺さぶられました。わたしは母の気持ちも分からないし、ダイアナを主軸にこの作品を観るのはすごくハードルが高いことでもあるのですがそれでも彼女の痛みは伝わる。ダイアナと私たちの橋渡しをすごく丁寧に繊細に大切に届けてくれていて、群像的な物語への没入を1番叶えてくれた気がします。

渡辺さんのダンは、どこかゲイブが見えている、けど目を逸らし続けてきたような印象がありました。その痛みもまた伝わってくるからこそ、彼の服が最後赤に染まってしまうのはまた苦しいけれども、このようになってしまう可能性の示唆としてすごく普遍性を高めていた印象です。

そして甲斐さんのゲイブ。この役は場面場面で多面的な意味合いを持っている印象が大きいからこそ、それに応じた演じ分けが巧みで驚きました。全体を通して「この家族の持つ傷の象徴」という見方をしていましたが、「ヒーロー」で「プリンス」として現れ、ダイアナを誘う瞬間の存在感たるや。すっとその場面におけるゲイブの立ち位置が感覚的に浸透してきて、これは甲斐さんの技量によるものなんだろうなとしみじみ感じ入ってしまいました。

小向なるさんは『この世界の片隅に』のすみちゃんで拝見していましたが、繊細な歌声もパワフルな表現も、環境から生まれる棘もすごくこちらに痛々しく伝わる部分があって、沢山心を動かされました。色んな人物の痛みそれぞれに気持ちを寄せましたが、やはり年齢が近いこともありナタリーに共感する部分がどうしても多かったです。
そしてそんなナタリーのそばに居る、吉高志音さん演じるヘンリー。2.5次元以外で拝見するのは初でしたが、柔らかい歌声と雰囲気とがすごく空気感として伝わるものがあって、ナタリーが彼に惹かれていくのに説得力ある居心地の良さみたいなものを巧みに表現されているなと思いました。良くも悪くも、深いところまで考えていなさそうだからこそ救われる、みたいなことって私も実感として経験があるので。また彼の穏やかさみたいなものが、ナタリーの聡明さというか賢さのようなものを彫刻しているような気分にもなりました。今回キャストの皆様それぞれの歌声の相性が本当に素晴らしくて、それゆえナタリー⇔ダイアナ、ヘンリー⇔ダンにすごく説得力を感じました。
だからこそ最後のナタリーとヘンリーの行く末はどっちにも転がると思うし、どうかそれが希望であることを願うばかりです。

中河内さんのドクター。彼には彼なりの、医者としての痛みや苦しみがあり、それゆえの誠実さを持った治療なのだと伝わってくるからこそ彼に対して批判的な矢印を向けることもできないし、それを感じられる表現だったのが本当に良かったです。作中の役割としてだけでなく、ひとりの人間として描いてくださったからこそ、救われました。

ラストの幕引きと、衣装の演出が本当に好きでした。なんとなく意味を探りながら観ていたのですが、normalが青🔵、crazyが赤🔴、混ざりあってnext to normalが紫🟣と。この衣装でこんなにも状況を美しく表現出来るのに驚きました。思えば赤かったナタリーのリュックはダイアナが下ろしてあげて、青いドレスでヘンリーに会いにいくのが本当に素敵。普通の隣、next to normalでいいっていうのもまた素敵な言葉だなと思いました。「普通」だって確かなものじゃないからこそ。

盆に乗せられた二階建ての舞台装置も印象的でした。最後の最後でセットがしっかりと正面を向くのですが、わたしは端の席でみていたこともありそのセットが正面をむくまでは歪んでいたことにすら気づかなかったのです。なんだか「普通」の見え方も同じようなものなのかもと思いました。座席によっても見え方がまた変わるのだろうなと思います。

また機会があれば劇場で受け取りたいなと思う作品でした。原曲もサブスク配信されているようなので、しばらくは聞いて浸ろうと思います。
劇中にてこういう時代のアメリカの作品だ、と割り切る必要があり、少し表現として古さを感じる部分はあるのですが、(マリファナやらコカインやらも)感覚としてすごく身近なよりはある程度フィクションとして距離があった方が心理的に安全のような気もしました。絶妙なバランスの上で成立する題材でもあると思うので、こういう作品の上演は本当に難しいですね。

年内の観劇納めは本作でした。気づいたら半年も観劇noteを続けることができました。魅力的な作品にたくさん出会えた2024年。手を伸ばして色々な作品に触れてみたら、自分の人生をさらに新しく豊かなものにしてくれる作品に本当にたくさん出逢えて、その事実が何よりの希望で幸せでした。私は演劇の力を信じ続けたいし、来年もまた劇場に足を運び続けます。演劇が本当に大好きです。

来年も素敵な作品に沢山出会えますように。

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