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【観劇感想】劇団番町ボーイズ☆結成10周年記念公演「蚕は桑の夢を見る」

CBGKシブゲキ!!にて、劇団番町ボーイズ☆ 結成10周年記念公演「蚕は桑の夢を見る」を観劇させていただきました。


他の作品で拝見したことのある俳優さんもいらっしゃいましたが、番ボさんの公演ははじめてです。今回は松崎史也さんの演出ということで足を運ばせていただきました。

わたしが拝見したのは、一夜が菊池修司さん、幸四郎が松島勇之介さんのバージョンです。

※核心には触れていないつもりですが、ややネタバレを含みます。

カーテンコール撮影会があったので(当日知りました)美麗なセットや素敵なお衣装をぜひ見ていただきたく、撮ったお写真を載せさせていただきます。
稲田美智子さんの舞台美術を拝見するのは記憶している限り初めてかもしれないです。プロセニアムアーチのデザインが素敵でした。客席を使ったシーンも多々ありながら、こうした明確な境界がある舞台装置はすごく好きです。

J列センターブロックからの景色

暗めの照明のシーンが多かったので、ラストシーンでそれぞれの衣装がこんなに明るかったんだ、と初めて気づきました。ラストシーンを見てどこか晴れ晴れした気持ちと色が目に入ってきたタイミングが重なって、すごく印象的だったのを覚えています。モノクロの世界にやっと色がついたみたいな。兄弟の時間が動き出した感覚になりました。蚕の糸をイメージしているのか衣装に紐がそれぞれついているのも良かったです。素敵でした。

本作の感想を総括するなれば、「劇団」というものの良さを体感すると共に、演劇の魅力を十二分に押し出した脚本と演出、熱量ある演技を余すことなく受け取れた2時間10分でした。本当に面白かったです。

わたしは史也さんの演出にいち観客としてすごく信頼を置いていて、史也さんの名前を担保に(というと失礼な表現かもしれませんが)劇場に足を運ばせていただいていることが非常に多いです。

だからこそいつも作品を俯瞰して自分なりに演出の視点を考えながら見てみようと思うのですが、終わる頃にはすっかり物語に引きずり込まれてしまっているのが常です。見事に感情をコントロールされていて、それが本当に悔しい。

と同時に、史也さんの演出は技術としての経験値のみならず、俳優と観客に対する信頼と作品や演劇という表現への愛情に溢れていることを毎回ひしひしと感じています。作中色んなことを考えても、どんな結末であっても、作品を拝見した帰り道の感情はどうしようもなく演劇への愛に帰結する感覚があって。でもそれがすごく心地よくて、幸せでなりません。

がんじがらめになった兄弟が蚕になる瞬間、末葉が蚕影様の重圧の中で繭のように蝕まれていく瞬間、そして一夜が外の世界でどんどん心を壊していく瞬間、掟という繭に綻びが生まれる瞬間。
一種のカタルシスを感じるくらい、どの瞬間もその空間でしか成立しない「演劇」の魅力が詰まっていて、笑みがこぼれるくらいにたまりませんでした。

今後ここで史也さんの作品の感想を書くことがあっても、わたしは毎回悔しがって、等しく演劇への愛を叫んでいると思います。悔しいくらいに史也さんの演出の虜で、心から尊敬しています。


脚本の堀越涼さんは、脚本というよりも俳優として拝見する機会の方が多かったので、今回番ボの皆様にどんな物語を紡がれるのかとても楽しみにしておりました。

事前情報をあまり入れておらず、「小さな絶望の物語」というあらすじを鵜呑みにして行った結果完全にバッドエンドを想像していたのですが、苦しく閉鎖的で歪んだ世界の中にも小さな光があるお話でした。途中あれほど苦しくなったのに、終演後は一抹の清涼感すら感じるから不思議です。

兄弟の名前もすぐ認識でき、掟の説明もずっと入ってきて分かりやすかったです。その世界観は文学としても読み応えがありそうな雰囲気で、ぜひとも上演台本が欲しいです。

作中出てくるカトリックや養蚕についてはこれまで触れた作品や読んできた本の知識が活きたところもありましたが、知らなくても彼らの一日を見る中で否が応にもわかっていく感じがあります。ちょっと軍隊のような時系列の群唱がいやに耳に残ります。1回で覚えてしまうくらい。午前5時30分、起床。

ストーリーの軸にあったと感じたのは、家父長制や村の掟、兄弟間の軋轢、環境と人間の心の闇、「変化」するということ、あたりかなと。
どこか遠い「7人の兄弟の話」でありながら、自分の心の奥にある仄暗さをも覗かれているような緊張感がありました。兄弟の持つ欲望や絶望、「変化」ということへの恐れは対しては誰しもが持つものでもあると思いますし、自分の中でもどこか感じるところがあってそこに共感したり。また観劇を重ねれば重ねるほどより多くの重層的なテーマも見えてくるのだろうなと思いました。

特に印象的だったのは、ストーリーの中でだんだん見えてくる一夜のふたつの顔。家での一夜と外での一夜、どちらの彼も知っているのはただわたしたち観客だけ。それがどうしようもなくしんどかったです。マクベスの「きれいはきたない、きたないはきれい」じゃないですけど、人間見えるものが全てではないと演劇からどれだけ学んだことかと、一夜を見ていてふと思い出しました。

いま私が人のことを慮りながらコミュニケーションを取れているのは本当に演劇が与えてくれた力だと思っています。余談ですが、ミュージカル『VIOLET』はわたしの中でも人生作のひとつです。これも「心の傷」という見えない部分の想像力を与えてくれるテーマがあったりして、わたしの今の対人観って本当にこうして出会ってきた演劇が与えてくれたもので。今作もそれを改めて実感しました。これも改めて言語化してみたいですね、自己分析と影響を受けた作品、みたいな。

閑話休題。

脚本もさながら、俳優陣の皆様の熱演がとにかく素晴らしかったです。シブゲキという広すぎずダイレクトに感情が伝わる箱で、劇団という特別な俳優同士の結び付きと相まって終始たくさん感情が揺さぶられました。末葉によって外に出ることを許された兄弟たちが観客席を見回すシーンのキラキラした眼差しがすごく心に残っています。

わたしはそれぞれの俳優さんにすごく詳しい訳では無いのですが、一夜と幸四郎以外は何となくパブリックイメージに寄った役柄が当てられていた印象でした。宮内は勝手ながら他作品で拝見した時にすごく朗らかで純真な印象だったので、睦のふとした瞬間に唆されてしまう危うさとかのリアリティがすごく良かったです。坪倉さんの持つ好青年感や爽やかさから生まれる、末っ子としての真っ直ぐさや純粋無垢さとか。絶妙な境界の上で役が成り立っていて良かったです。
菊池さんと松島さんの逆バージョンもまた違った味がたくさんあるのだろうなと思います。幸四郎と一夜、性格としては全く違いますが、どちらも演じて兄弟の中にいる時間を経験することでより見えてくるものがあったりするのでしょうか。時間が許せばどこかで足を運びたいです。

そしてなにより、最近「劇団」として劇団員がお芝居をする作品をあまり見ていなかったのですが、劇団って改めて素敵な関係だなと思いました。板の上で鎬を削り生きる彼らからそれこそ本当の兄弟のような絆や信頼を感じました。かっこよかったです。

ストプレもミュージカルも2.5次元も、やっぱり等しく演劇が大好きだと再認識しましたし、今回もまたたくさんの学びと力をもらって帰りました。

改めまして、番ボさん10周年おめでとうございます!素敵な作品に出会えて幸せです。
無事に最後まで駆け抜けられますように。

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