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「ネコ」短編小説
<noteデビュー記念
大好きなネコをテーマにしたショート・ショートな短編小説>
「ネコ」
日曜の朝、真緒はゆっくりとハーブティーを飲みながら本を読んでいた。
「今日も暑くなりそうね・・・」
独り言ともいえる小さなつぶやき。
それを受け取るようにフローリングでしっぽが揺れた。
暑くなると、だいたいのネコはフローリングの上で伸びる。
それを、「落ちている」と言うそうだ。
そして、うちも同じだ。
白と茶色、まるでカフェラテのような、ねこの名前は「しずく」
家に来た時に、奇跡のように虹が出た。
No Rain No Rainbow
雨が降らなくては、虹も出ない。
だけど、気分を落ち込ませるような雨は苦手だ。
心地よい雨音のしずくのような、小さな優しさが好きな真緒は、
ネコに「しずく」と命名した。
思えば、3年前
大事なネコを空へと見送った。
重い病だった。
小さな時からずっとネコと暮らしてきたけれども、
この子が一番好きというくらいに、相性の良いネコだった。
心も体も鋭い刃物でえぐられるような痛みが続いた。
1週間で4キロ痩せた。
寝ても覚めてもモノクロの世界が迫っていた。
ただ、ただ、涙があふれ、心が動きを止めている、そんな感じの毎日。
頭ではわかっていた。
最期の辛い闘病の姿ではなく、幸せで輝いた日々の姿を思い出せばいいと。
自分が泣いていたら、大好きなあの子は気がかりで
天国で安心できないとも。
でも、そんなのはうわべだけの話。
辛いものは辛い。なんの解決にもならない。
ただ時間が過ぎて、悲しみを昇華させてくれるのを待つだけ。
これもつらい修行だ。
ふわふわした体を撫でたい。
冷たい鼻にチューしたい。
肉球をぎゅっと押したい。
もう、魂となってしまい、実体のないネコには触れることが出来ない。
「触れること」が出来ないということが、
真緒を深い闇へと突き落としてしまったのだ。
どのくらいの時間が流れただろう。
いくつかの季節が巡って、それは聴こえた。
「真緒には猫が必要なんだよ!」
どこから、聴こえてくるのだろう?
自分で問うてみても、この上ない猫好きは否定の余地がない。
ネコが必要なのはわかっているが、
ただ、前にポンと置かれるわけでもない。
きちんとした出会いがなくてはいけない。
選び、選ばれて結ぶ固い絆。
ネコとの生活は簡単に手には入らない。
きっと天上のどこかで、どなたかが、采配をして、
うちへやってくるのだろう。
コウノトリが運んでくる例のタカラモノように。
そして、その日はやってきた。
知り合いが突然連絡をしてきて、保護猫会に一緒に行くことになってしまったのだ。
そのような誘いが今までなかったわけではない。
しかし、その日は、何かが違っていた。
確かに何かに導かれていた。
心の奥底で、「猫が必要なんだ!」と小さなエコーが響く。
と、同時に、実際の頭の中は、
「もう、あの辛い別れはいや。もう少し静かにしていたい」と
ささやく誰かもいた。
しかし、あの小さな毛玉の暖かな体温を
両手が感じてしまったら
余計な思いはあっけなく崩壊した。
言葉にできないほどにあっけなく・・・。
「なんて、かわいいの」
こんなにも小さい生き物なのに、こんなにも私を笑顔にさせる
「君っていったい何者?天使??」
柔らかい毛玉に触れた瞬間、この何年かのむなしさに気が付いた。
「ネコが不足していたんだ。」
不健康極まりない自分に気付いた時、運命の出会いのネコと一緒に暮らすことを決めた。
もちろん、生命を預かる責任は重い。ありとあらゆることを想像し、きちんと乗り越えることが出来ると「覚悟」できたから、一緒に歩くことにした。
真緒のDNAにはネコと一緒の暮らしが練りこまれているに違いない。
ネコは真緒が生きるために、理由などいらないほど、必要なものなのだ。
白と茶色のふわふわの「しずく」。
人生を辛い時も楽しい時も応援してくれる。
おはようからおやすみまで、
しずくが人生の時を彩る。
「人生には猫が必要なんだ」
そう、DNAレベルでね!
~お読みいただき、ありがとうございました~
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![山河恩子(onshi)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/153213904/profile_8f9f8df7b8beb496b319f35f8556f574.jpg?width=600&crop=1:1,smart)