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料理は、心を映す鏡~『幸福の作り方』

『幸福の作り方』—— レストランで見つける、人生の味わい

東京の喧騒を離れた森の中にひっそりと佇むフレンチレストラン「La recette du bonheur(ラ・ルセット・ドゥ・ボナー)」。
亡き父の後を継ぎ、店を切り盛りする葉月。
天才的な腕を持ちながら人に無関心なシェフ、どこか掴みどころのないソムリエ、やる気があるのかないのかわからない生意気な料理人。
それぞれに個性を持つスタッフたちが、この小さなレストランで織りなす物語は、静かでありながらどこか熱を帯びている。

料理は、心を映す鏡

本の魅力は、料理が単なる「食べ物」ではなく、登場人物の心情とリンクしていること。
ある晩、訪れた女性客にシェフが用意した一皿。
「どうして、私の好きなものがわかったんですか?」
「一流のシェフは、お客様を一目見れば、お召し上がりになりたいものが、ちゃんとわかるんです——自分の恋人のことのように」
そんなセリフとともに差し出される料理が、彼女の心を静かに溶かしていく。

料理は、食べる人の過去や記憶、感情と結びつく。
それは、シェフの腕だけではなく、その人を思う気持ちがあるからこそ、生まれる味なのかもしれない。

「幸せのレシピ」は、人それぞれ

タイトルの『幸福の作り方』には、明確な答えはない。
料理のように、人生もまた、自分なりのレシピを見つけていくものだから。
ひとつひとつの食材を選び、手をかけ、味を確かめるように、人との関係もまた、時間をかけて深めていく。

レストランを舞台にした物語でありながら、本書が問いかけるのは「人と人との関わり方」そのもの。
静かに心を満たす一冊。
人生を味わいながら生きていきたい、そんな人にそっと寄り添う物語です。

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