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第18話 連続下降

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話を元に戻しましょう。9月にクレイフィッシュの松島社長とお会いし、その場で、「一緒にやりませんか」という話となりました(第14話)。

そこからボールを受け取って、具体的なスキームに落とし込み、実務を進めていただく役を担われたのは、取締役最高執行責任者、荒巻さんでした。

はじめて荒巻さんとお会いした第一印象は、ずいぶんと男前で、鼻が鷲のように高い、颯爽とした人が出てきたな。と思ったことと、画数の多い漢字が10個も並ぶタイトルを持たれて、書類記入が大変だろうなと、余計な心配をしたことを覚えています。


荒巻さんはマッキンゼーで10年ちょっとサバイブされてから、ベンチャーの世界に飛び込まれてきた、DeNAの南場さんと同世代の方です。

2000年の当時、ビッダーズという名前でオークション事業を経営されていた南場さんは、ベンチャー界隈では、馬鹿なことをうっかり言うと、相当な勢いで詰められてしまう怖い方。という評判でした。

その方と、同レベルで活躍されていた人かと思うと、うっかり自分のズボンのチャックが開いていないか、ダブルチェックをしたくなるものです。


荒巻さんの、マッキンゼー流最高思考プロセスにより、松島さんの「一緒にやりましょう」というざっくりした約束が、いくつかのスキーム・オプションへと、瞬く間に場合分けされてゆきます。
(写真は、超高速でホワイトボードに書き殴る荒巻さんの図を必死に板書した僕のノートです)

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荒巻さんは、僕がまだ経営者として続けて行きたいと希望していると、考えられていたのでしょう。この中で、

ProTradeはクレイフィッシュの子会社として存続。
NetAge分だけ株式は買取り、経営陣は株を持ち続ける。
というシナリオをプッシュしてこられました。

経営陣には親会社のストックオプションを発行するので、そこでアップサイドを取って、一緒にクレイフィッシュを大きくしてください。という、至極まっとうなメッセージだったと思います。

一方で、経営者としてやってゆくことに、自信を失っていた僕は、正直なところ、「売却するとしたら株式は全部売って、楽になりたい」というのが本音でした。

ただ、企業価値の算定を受ける前でしたし、早い段階でそれを言ったら、足もとをみられちゃうな。と思い、グッと飲み込んだのを覚えています。


荒巻さんは、爽やかな笑顔で、ニコッと笑いながらおっしゃいました。

それでは、来週、中央青山の監査法人チームが、御社にお伺いしてデューデリをすることにしますので、お願いしますね。社歴も短いので、すぐ終わるでしょう。

早めに。できれば、10月中に、対外発表を大々的に打ちたいですね。

この荒巻さんの、最後の一言に、ことさら力が入っていたことは、この時点では僕は気に留めなかったと思います。しかし、そこには、大きな意味が宿っていたのでした。

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それから二週間ほど経ったでしょうか。荒巻さんから、ちょっとお話したいことがある。と連絡を受けたのです。

新宿高層ビル。会議室で再会しました。

もともと色白の顔は、白を通り越して、土色になっていました。

小野さん。まずは、心配しないでください。今日お話しすることにかかわらず、我々はこの話はぜひ着地させたいと思っています。

クレイフィッシュがアメリカで株主からの訴訟をうけました。
裁判の期間は、2−3年かかるでしょう。
世論やブランドへの影響の分析はこれからです。
顧客の解約率は、一ヶ月6千社程度で推移しています。

我々としては、来年の2−3月までは寝かせて、数億使ってブランドイメージをあげる広告を打つ予定です。

コンサルティング出身者は、まず結論から話し、事象を整理して説明してから、対策の論旨を展開することが、身体に染み付いていますが、この時ばかりは、そのスタイルが機械的な印象を抱かせ、裏目ることとなります。

僕に、十分すぎる警戒心を抱かせてしまったのです。


さらに調べると、前回お会いした時すでに、アメリカではその、クラス・アクションと呼ばれる訴訟準備がなされていたことが分かりました。

あの時、急いでいたのは、なんとかポジティブなニュースを出して、株価対策を打ちたかったのかと。あぁ。きっとこの人には、非はないんだろうけど、どうして隠してたかなと。


さすがに、この船に乗ることは、まずい。
どこまで神様は俺に、試練を与えるのだろう。
俺は、どこまで、落ちていくのだろう。

このとき、開き直りのような、無心のような境地というのでしょうか。不思議な草原のような風景が、ドーンと、意識の淵に開けてきました。

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僕のなにかが、パチンとはじけました。
それは一言でいうなら、「開きなおり」という名の境地だったのでしょう。

第19話 →

(その8年後、荒巻さんとは、運命の再会を果たし、同じファームのコンサルタントとして10年近く仕事をし、多くを学ばせて頂くこととなるのだから、人生わからないもんです。)


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