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彗星に焦がれて、空を駆ける

彗星

日本語では箒星とも言われるなど、頭の先から箒の先のように伸びているように見える天体現象です。
ここでいう箒の付け根がコアと言われる、簡単にいうと隕石のようなものです。そこからアンチテールという箒の毛先が伸びていきます。

富士山5号目より撮影

門外漢がこれ以上説明しても埒が開かないので、詳しくは下のYoutubeを視聴した方が効率的かつ正確です。


さて、なぜ急に彗星なのか。こんな問いをさまざまな人に聞かれました。

答えは簡単で、彗星を見るということに再現性確実性がないからです。
変に難しく言いましたが、話は簡単で(地球から見えるようになる)彗星の特徴にあります。

彗星の特徴
①その彗星が次に地球から見れるのが何十年、何百年後である
②彗星自体はたくさんあるものの、大体が地球から見れない

①その彗星が次に地球から見れるのが何十年、何百年後である
これは、大彗星と言われるような地球で見れる彗星は生きているうちに何回見れるかがわからないというものです。

彗星の公転周期は様々です。今年回帰したポンス・ブルックス彗星の周期は約70年、有名なハレー彗星の公転周期は約76年ですが、中には、公転周期が数万年に及ぶような軌道を持つ彗星もありますし、逆にエンケ彗星(公転周期約3.3年)のような短い公転周期を持つ彗星もあります。

大阪市立博物館の資料より(4.11.2024)

https://www.sci-museum.jp/wp-content/uploads/2024/04/universe202404_06-11.pdf


もちろん、新しい彗星は急に現れるので、運が良ければ肉眼で見えるような彗星は生きているうちに何回も見れることもあることでしょう。

そんな運任せな天体現象なので、個人的に再現性がないという風に謳っています。実際に教科書に載っているような大彗星なんてそうそう見れるとは限らないので…

次に、
②彗星自体はたくさんあるものの、大体が地球から見れない
これは彗星が彗星たるためには、必ず太陽の近くを通らないといけません。
先ほど紹介したYoutubeでも解説していますが、彗星の核(コア)には水や塵、ガスなどが含まれており、それが蒸発して希薄な大気を構成します。そしてアンチテールはその塵やガスで形成され、ようやく自分たちが知っている彗星として形作られます。(それまではほぼ隕石のような感じ)

話は戻って、彗星が地球から見れるようになるための第一前提が、太陽の最接近に耐えられるかというものです。

これに加えてある程度の明るさもなくてはいけません。彗星自体の大きさ、太陽への接近距離の短さなどがトリガーとなります。

こういう風に大きい彗星でも、太陽の最接近を耐えることができないことがたくさんあります。そういう意味でも確実性に欠けるものだと感じてしまいます。

そんなわけで、彗星を見るというのは確率的にそうそう訪れにくいものだと考えていました。


2020年7月 ネオワイズ彗星が最接近(回想)

大ニュースだった。

さっきまでゴタゴタうんちくを並べていたものの、結局は彗星を見たいし、撮りたい。ただそれだけ。

ただ、このネオワイズ彗星が一番くっきりと見れるという日のカレンダーの欄には、バイトという3文字がすでに入っていた。

この時ほどバイトをすっぽかしたかった日はなかったとまで言い切れる。
休む理由をこじつけるために、急病を患うか、家族を仮想的に1人殺すかまで考えていた。

ただ結局、その日はお客さんを前に、愛想笑いを浮かべながらカウンターに立っていた。


西の空、18時を越えた頃から見え始めます。



そんなニュースキャスターの声が自分の頭の中で異常なまでに響く。

バイトの終わり頃締め作業で外に出た時、やっとの思いで西の空を見上げても、見えたのは小汚いビル群と、黄昏時のきれいな薄い夕焼け。
一番星の金星でさえも見えない、ビルの高さにうんざりした。

仕事が終わってからというもの、何も考えることも出来なく明るさを失っていく空を見ながら歩いていた。
いつの間にか、Twitterに流れる彗星を撮れたという報告を見ながら、地下鉄に揺られていた。
1、2枚程度の彗星の写真を見た、綺麗だった。こんなにも彗星のコアとアンチテールがはっきりと映るなんて。

撮りたかった。
次に彗星が見えるのは、今から予測できるのでハレー彗星の2061年。あまりにも遠すぎる未来。
携帯と睨めっこしてもポジティブな話は浮かんでこないのはわかっていても、スクロールを続けていた。
あるツイートの中には写真と一生に一度見れるかわからない!なんて一言が書いてあった。


地下鉄から山手線に乗り換え、そっとスマホの画面を消して、真っ暗になった車窓を眺めてた。



彗星なんてもう沈んでいるとわかっているのに。









お前、言って良いことと悪いことがあるんだぞ


2024年9月 紫金山アトラス彗星が地球に接近

この記事を見たとき、4年前の記憶がフラッシュバックしてきました。
今回は9月の初めに知っていたので、9月の末、最接近する10月の中旬の日程を空けておきました。2度とバイトなど仕事という文字が入らぬように。
9月末は少し天気が悪かったり、朝方しか見えなかったのでパスをしました。

狙うは10月12日の最接近の日。


9月末時点で、大きく3つほど撮影候補地を決めていました。

①奄美大島
②長崎、五島列島
③北海道

この選定条件は
A、西側に障害物(山や岩、島)などが無い
B、航空券が当日でも発行しやすい(満席ではない)

この二つの条件をクリアしていたのは①〜③でした。

後は彗星の撮影に備えて、星空ガイドのアプリのダウンロード(昔課金していたようで、有料版を使えた)、カメラのメンテナス、候補地の撮影場所の具体化をして準備をしていました。

10月12日、深夜1時

少し航空券の予約の参戦が遅れました。今回も例に漏れずJALのスカイメイトを使用します。

JALのHPより

https://www.jal.co.jp/jp/ja/dom/fare/skymate-fare/

この時ちょうど東京ー沖縄間でも1万円を切っていたのでこれを意地でも使って行きます。

まずは天気を確認しよう。

奄美大島の天気が微妙、それ以外は快晴とのことなので①の奄美大島は除外となりました。

航空券を検索した結果、長崎行き、福岡行きは朝便が完売。
ついても17時近くと彗星が現れるまで時間がありません。

残った選択肢③。
札幌便は本当に毎日埋まっているので、諦めて札幌以外の函館、旭川、利尻などを検索していましたが、完売。

諦めながら札幌便を検索してみたら、

JL513便 11:30発 羽田ー札幌便 空席1

という表示が見えました。

奇跡です。まさかの誰かが直前キャンセルをしてくれたおかげで、空席が1つ現れました。
もちろんこれにすがる以外に選択肢はありません。指を高速に動かし、この棚ぼた航空券を購入しました。


彗星を追いかけて、北海道へ

もうここからは早いもので、

今回は54C、かなり後ろの方
C滑走路の警告灯を前に止まるA350
小樽に到着〜

はい、今回の撮影の始点は小樽です。

ルートはこんな感じ

この日はカムイ峠近辺の西の空を狙うことにします。

小樽でレンタカーしてカムイ峠まで目指します。

運転席にカメラをつけて撮影

この時の正面は西。割と厚めの雲が見えます。
正直のこの時から若干の不安がありました。

その不安は的中してしまい、この地点から少し進んで余市で雨が降ってきました。

天気は変わらず、

何も映らないし

雲ばかりで、風も強く何も映りません。この雲の裏にアトラス彗星がいるというのに。
雲の裂け目から狙ってみても全然ダメです。

この日は諦めて、小樽まで帰ることにします。

1人虚しく小樽の夜景を見る

祝勝会ではなく、反省会


帰ってきた時間も遅く、開いているお店が一軒だけだったのでそこへお邪魔することに。

小樽びーる
ザンギとお刺身

お刺身は海老が入っていればOKですと言ったら、ホタテも入っていました。まさかホタテが来るとは思っていなかったので、すごい嬉しかったです。
(エビが入っていればOKですってなんか変な注文だなというのは自分でも思っています)
刺し盛で二千円を切っていたような気もするのでやっぱり北海道は海鮮が安いし、美味しいですね。

気晴らしに小樽運河を歩く

小雨が降っていた

居酒屋でTwittre(X)を見ていましたが、愛知は知多半島、長野は白馬村などで見ることが出来ようです。ただ、全国的に天気が良くなかったため、報告数は少ないものの、やっぱりこういうのは撮影地を選ぶ能力によって左右されますね。

写真上手い人って撮影地を選ぶのが上手いんだよな…
対して自分はと思いながら、宿にトコトコ帰りました。

賽は投げられている

大敗北の翌朝、片道切符で来たので、帰りをどうするかを考えていました。

選択肢としては、
①札幌からこの日中に帰る  (彗星は諦める)
②さんふらわフェリーで帰る (彗星は諦める)
③函館に行く        (再チャレンジ)
④次の日の新千歳便で帰る  (再チャレンジ)

この4つでした。この週は3連休だったので次の日の朝(月曜日の朝)に帰るという方法がありました。ただ、行きと違って、帰りを逃しては次の日の仕事に間に合いません。
そのため必然的に選択肢は、今日中に帰路に就くという諦める選択か、北海道に残留するという諦めない選択の二つとなります。

もちろん頭の中では今日、帰らないと帰れない可能性があるということを理解しています。

4年前のあの虚しさを思い出します。
この日の天気は快晴予報、ここで諦めてフェリーの上、飛行機の窓から彗星が見えるのももちろん良いですが、写真として残せないというのが心残りになるのが明白です。

飛行機の空き状況を見て考えるしかない

今日の札幌便は既に埋まってしまっていました。方法としては今日中に帰路に就くためには、韓国経由で帰るか、フェリーで帰るしか方法がなくなってしまいました。
今日の夜の飛行機は旭川、札幌、函館、釧路、帯広どこも全滅でした。

物は試しで、明日、月曜日の飛行機の空き状況を見てみることにしました。

札幌便、旭川便はもちろん全滅でした。

ただ、JL584便 函館9:45発 羽田行きには空席が10席近くありました。
加えて、今日の16時発の札幌丘珠発函館行きの飛行機も4席空いていました。

どうやら既に選択肢は決まっていたようです。


函館経由で明日、月曜日の朝に羽田に帰るというルートがここで決まりました。
もちろん代替案として函館からなら新幹線で帰れるという安心感もあるので、尚更です。

ということでひとまず丘珠発函館行きの飛行機を予約します。
後で気づきましたが、実はこの丘珠便、15時前に出発する便だったらしくこの日は遅延して16時に出発することになったようです。


北海道らしいことをしたい!!!!

唐突ですが、この撮影旅という都合上、観光をする時間がほぼ一切なく、ほぼ移動時間で占められています。

今のところ、居酒屋で刺身を食べたくらいしか北海道要素がないです。
そんな旅は、到底許されません。石破茂も許しません。

ということで、お腹が空いたので朝ごはんにサッポロラーメンを食べます。

サッポロラーメンひぐま

コク味噌ラーメン

正直、下みたいな商品もあるので、どこでも食べられるっちゃ食べられますが、本店で食べてみたいというミーハー魂から行くことに。

30分くらい並びましたが、美味しかったです。
ちゃんと観光していますね!!!すごい!!!


サッポロビール博物館

あと一軒行く時間があったので札幌といえばサッポロビールだろということで行くことに。

8番出口?
わわぁ…

この後函館着いてから運転もあるのでビールを飲むことは叶いませんでしたが、サッポロビール、ないしは日本のビールの歴史を学べました。所要時間は30分ほどでした。

ご立派!!!


函館に賭ける

ついに函館に行く時間となりました。
天気予報もヨシ、実際の西の空も快晴。あと2時間で雲に隠れることなく太陽が水平線に沈みます。

最低でも2時間半後には撮影場所について、カメラのピントを合わるなどの準備を終わらせなくてはいけません。

そして今回の函館空港への飛行機は1時間程度の遅延が確定しており、17時に函館空港に着いても、市内へのバス接続は到着してから1時間ほどありません。

ここで最安、且つ最短の方法は、
タクシーで現地のカーシェアの場所まで行き、そこからカーシェアで移動するしかありません。

ここら辺の準備を済ませて飛行機に搭乗します。

丘珠空港

丘珠ー函館便はHAC(JALのグループ会社、主に北海道を担当)の運航。
ATR-42というプロペラ機なのですが、プロペラ機の方がジェット機よりも加速は速いので、離陸が楽しかったです。

真ん中に見えるのは恵山、えやまなので英語表記はMt.E、かっこいい

函館に到着

太陽が沈むまで後少し

この飛行機の正面は西、雲ひとつないことが確認できると思います。

この時点で完全にテンションはMAXです。昨日の雲ばかりで、雨にも見舞われた夕方とは一変して、最高の天気とも言えます。

タクシーからレンタカーに乗り継いで、函館山を目指します。

日没10分前、函館山に着きました。頂上に駐車場があるはずなので登ろうとしたところ、車両侵入禁止の文字が書いてありました。

そう、オーバーツーリズムの関係で夜間は車両規制をしているようです。
ならば、駐車場に停めて行こうと考えても、どこも満車。
そしてロープウエーは建物の外まで行列が伸びているのが見えます。

この瞬間に函館山を諦める判断をします。そもそも最初から函館山の車両規制くらい調べておけって話ですが、忘れていました。

ひとまず進路を2つ目の候補地へ向けます。

函館山から20分もかからないところだったので、彗星が見える少し前には到着することができました。

準備完了、あとは待つのみ

携帯で撮影、この時間の夕焼けが好き

そして20分後、
目視で全然彗星が見えません。

このアプリを使用して大体の位置は把握しているのですが、いかんせん目が悪いのと、夕日が思ったよりも明るくて見えません。

自分が思い描いていた感じに見えるわけではないのか…と思っていました。
そう思い一度練習がてらカメラのシャッターを切ったところ、


いた!彗星がいた!!!!

画面中央少し右に見えるのが彗星

クララが立ったばりに叫んでしまいました。1人なのに。

ネオワイズ彗星から4年、ついに彗星を捕捉することができました。

ここからというもの、狂ったようにシャッターを切りまくりました。
(ミラーレスなのにシャットーを切る?というツッコミは置いておいて…)

このあとだんだんと暗くなると自分の目も暗いのに慣れ始め、ついに肉眼で彗星を見ることができました。
写真よりもはっきりは見えないのは仕方ないですが、しっかりと彗星が尾を引いているのが見えます。
血眼になってビルの隙間から探していた4年前と違い、大きなアンチテールを率いた箒星を、何者にも邪魔されず目の前に姿を見せています。

あの日、帰りの電車の中で見たツイートに負けるに劣らない写真が自分のSDカードの中に保存されました。
8万年後に戻ってくると巷で言われているこの紫金山アトラス彗星は、国立天文台の推測だと2度とこの太陽系に戻ってこないとのこと。
(戻ってくるのか戻ってこないか、どっちなのかはこれから次第)

今回の回帰の際に惑星などの引力の影響を受け、現在の軌道はわずかに変化し、双曲線軌道となっています。このため、ゆくゆくは太陽系の外に出て行き、二度と戻らないと推測されます。

国立天台HPより抜粋(4.11.2024)

https://www.nao.ac.jp/astro/sky/2024/10-topics05.html

ハレー彗星は76年周期で、2061年に見れるという予想ですが、この紫金山アトラス彗星は2度と人類が見れないかもしれません。
そんな彗星を肉眼で見れて、写真まで残せたのは正直嬉しいです。

アトラス彗星が山の背に沈み込んで撮影は終了。
最後は大沼公園の近くの温泉でのんびりとして、函館市内へ戻ってきました。非常に充実した函館旅行でした。

羽田に帰ろう

無事に函館発羽田行きの朝便の飛行機が取れました。

このビール美味しい

ここのビールが美味しかったので今度また函館に行きたいですね。
(旅行に行く時くらいしかお酒飲めないので…)


さいごに

さて、今回の旅行は4年前のネオワイズ彗星を撮れなかったのを悔しくて、今しか撮れないもの、今しか出来ないものをせずに後悔だけ残すのはやめようという思いのもと実行したものとなります。

実際にこの後悔をしたことでドイツに住んだり、こういう思い切りのある行動をしたりと、今となっては良い経験だったとまで思っています。

でもあの時の虚しさとか、悔しさは忘れられません(笑)
特に帰りの電車の中でTwitterを見ていて、本当に撮影に行けている人を憎みながらいいねを押していた記憶があります、全然自分の所為なのに(笑)

これからも自分の中でこの後悔をしないように生きるというモットーみたいなのは生き続けると思いますし、これが自分を変えてくれるのかなぁとまで思っています。

というか正直4年後に彗星が見れるなんて思っていなかったので、思ったよりも早いリベンジでしたね(笑)早くても10年後とかかなぁ〜と思っていました(笑)

ということで、今回の記事はここまでです。
他人の謎に執着している記事に、最後まで付き合ってくれてありがとうございます。

余談

実はこの次の週も富士山5合目に彗星を撮りに行っていた


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