【詩】 歩く人
知らない町を歩いた
ずっと遠くを見て
けっして歩みを止めなかった
大きな車とか
真っ黒な牛が近づいてきても
ただやり過ごすだけで
なんでもすぐに忘れてしまった
何もかもが意味もなく
景色とともに流れ去っていき
記憶に跡をとどめなかった
延々と歩きつづけるうちに
百年くらい歳をとったけれど
不思議といつまでも若いままで
体は朽ちて
灰のように崩れていくのに
心は赤ん坊のような肌をして
しっかりと歩きつづけるのだった
朽ちれば朽ちるほどに
透き通っていくような気さえして
いつまでも
歩きつづけるのだった
地面を踏むたびに
鐘の音が響いた
水の上を歩くように
まるい輪が広がっていった
どれだけ遠くへ来たのか
どれだけ時間がたったのか
もうわからなくなっていた
ここがどこなのか
自分が何者なのかも
わからなくなっていた
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