ファッション広告の分解。[商業施設編]
おしゃれ広告(呼び方がおしゃれじゃない)の代名詞、商業施設のファッション広告。広告業界にいなくても、パルコ・ルミネ・ラフォーレなどの広告は目にする機会がある思う。ぼくも、関西の商業施設の仕事をいくつか担当させてもらったので、その仕事から学んだことをまとめてみる。
ちなみに、商業施設のことはSCと呼んでいて、ファッションビル・駅ビル・地下街など、さまざまな形がある。全国に3,209施設もあるらしい(2019年末時点)。
なにを広告しているのか?
まずは、商業施設のファッション広告といっても、意外といろいろあるということから。ざっとまとめてみると、こんな感じになる。
1つめは「シーズン」広告。どこもやっているのは、夏冬のバーゲン。あとはテナントによって、春の新生活・クリスマス・バレンタインなどの季節イベントなども。3つのなかでは、いちばんイメージしやすいはず。
2つめは「オープン」広告。あまりないように思えるけど、リニューアルは毎年のようにしているケースも。大規模リニューアル、キリのいい周年、閉館で大きなキャンペーンをよくする。
3つめは「メッセージ」広告。ファッションをどう捉えるのか、お客さんになにを届けるのか。商品をつくっていないからこそ、行きたくなったり、買いたくなったりするようなコピーが活躍している。
好きでたまらないファッション広告
文字だけだとわかりづらいので、素敵すぎてちょっと吐きそうで、なんども見てしまう広告を紹介する。まずは「オープン」広告から。
池袋パルコ「変わってねえし、変わったよ。」(2016年)
池袋ウエストゲートパーク(2000年)で脚光を浴びた、窪塚洋介をキャスティング。窪塚といえば、華々しい活躍とは裏腹に、9階の自宅マンションからの転落事故(2004年)で重症になるなど、いろいろあった俳優だ。だからこそ、キャスティングとコピーが最高すぎる。
池袋PARCOというか商業施設は、その土地とお互いに影響を与えあう関係にある。リニューアルも、まったく違うものをインストールするのではなく、時代にあうものへとバージョンアップするイメージになる。だから、「変わってねえし、変わったよ。」というコピーは、その変化を的確に捉えた言葉でもある。
次は「メッセージ」広告。
ラフォーレ原宿「I WEAR TABOO.」(2010年)
ファッション誌のGINZAでは、次のように紹介されていた。
リーマンショックによる不景気や、ファストファッションが台頭して画一的な装いになっていくことへの投げかけでもある。
講演会をまとめたブログでは、制作過程を次のように紹介している。
「I wear freedom」というコピーで、自由自在に操れるモザイクで服をイメージさせる。この軸でプレゼンしたところ、「メッセージが弱い。もっと踏み込める」という言葉をいただく。
ここで、表現ではなくコピーを再度検討。
(流行の)反対側を着れる精神というのも自由なのではないかと思い立ち、自由ではなく「タブー」を着るという発想に着地。
このコンセプトだとビジュアルで表現しているモザイクも、服を隠しているという意味ではない!と強い表現になる。
ラフォーレは「タブーを提供する。受け入れる場所であるべき!」
この広告のつよさは、ヌードにモザイクという姿を「TABOO」とした、コピーとビジュアルの絶妙な距離感にある。流行の発信地にあるラフォーレにふさわしい、時代の空気をまとったキャンペーンだ。
ファッション広告をつくる前に
商業施設は独特のトンマナがあるので、企画を考える前にしっかり準備しなくてはいけない。広告としてあたりまえの部分であり、商業施設だからこそ、特に気をつけるべきところをピックアップした。
「訴求内容」は、はじめに分類した「シーズン・オープン・メッセージ」のどれか。もしくは、「シーズン×メッセージ」などと組み合わせることもある。
「ポジション」は、施設のコンセプト・入居テナント・ターゲットなどを含めたトンマナのもと。施設のファッション感度に応じて、「この企画はあっているのか」を冷静にジャッジする必要がある。郊外の大型ショッピングセンターが、ラフォーレみたいなイケイケの広告をしていたら、確実に「なんやこれ」ってなるので。
「時代の空気」は、ターゲットのすこし先にある「理想」を描くために、ファッションを通して「人生」や「恋愛」について語るときに重要になる。じぶんの価値基準が「モテ」だけの人より、じぶんだけの「好き」を大切にしている方がいいよねとか、そういう時代の感覚。
最後にもうすこしピックアップ
ここからは、もっと手短にいいなぁと思う広告をご紹介。どの分類に当てはまるのか。どんなポジションなのか。どんな意図があるのか。いろいろ考えてみるのもたのしいので、ぜひ。
パルコ「SPECIAL IN YOU.」(2014年〜) 公式サイト
6年前からこのキャンペーンをやっているという衝撃。この前身となる「LOVE HUMAN.」も素敵。
NU茶屋町「NU 茶屋町 BARGAIN」(2019年)
起用するイラストレーターとウィットのあるコピーがバランスよくて、気持ちいい抜け感がある。
ラシック「ちょっ10ね〜ん」(2015年) 公式サイト
費用対効果が良さそうな周年広告がおもしろい。見立てがおしゃれなシーズン広告もPIEにはよく収録されているので、要チェック。
ロフト「恋と平和とロフト」(2016年)
サン・アドのHPを見るまでコピーの意図がわからなかったのに、見とれて写真を撮ったことがある。
「ファッション広告っておしゃれ〜」で終わりじゃなくて。
もうすこし解像度を上げられたら、もっと好きになれるんじゃないかと思ってまとめてみました。あとは、これから商業施設を担当する人に役立つといいな。
小手先のテクニックもあるけれど、それはまだ、内緒にさせてください。