コラム「築80年超の家に巡り合うまで」(後編)
都会の喧騒や雑踏から逃れたくて2017年に初めて移住した熊本では、田んぼの中を突っ切って通勤し、その景色の美しさに毎朝涙を流していた。今思えばだいぶ都会に疲れてたなと、笑い話になるんだけど。
それから3年、ほぼ山の中か島の海沿いで暮らしてきたため、もう都会には住めない体になってしまったようだ。せっかく良い物件に出会えたのになんだかモヤモヤ……。
そんなとき、尾道の友人さんから「あなたは向島の方が向いてる」と言われた。改めて向島に目を向けてみるものの、物件情報自体が少ない。とりあえず不動産屋を訪ね、向島の物件を内見をさせてもらった。
平家、駐車場付き、庭付きのきれいな物件。日当たりも良いし、3DKで風呂トイレ別。渡船乗場から大きな坂道もなく、どんつきだから人の往来もなく、そこまで家が密集しているわけでもない。
なかなか良い。
だが、ちょっと予算オーバー。
でも、いいかなぁ。
短期間で物件をたくさん見て、正直よくわからなくなっている。
混乱した状態だったけれど、その日はお花見で再会した無農薬農園をやっている友人に声をかけられて農園のお手伝いに行った。
6日目
友人が、ジモティで向島の物件を探してくれたという。早速問い合わせてみたら、「キャンセル待ちになるけどそれでもよければ」という条件で内見させてもらえることに。
渡船乗場から自転車で5分くらいの、高台にある家。
家へ向かう道が獣道を上っていく。
え?あってる?この道?
言われた通りに上って、奥へ奥へ。
とても奥まっていて戸惑ったけど、素敵な家が現れた。
キャンセルが出たらココにする!!!
と、ウキウキしながら景色を眺めながらの帰り道、
ズコーーーッ!!!
思いっきり転んで、足をくじいてしまった。
痛すぎてうずくまった。
少し冷静になる。
車が入れない獣道の先を上がる坂道、これ引っ越し大変じゃない?
引っ越しは業者さんに頼むとしても、日々の生活で毎回買い物で重い物を運んでいくのは大変だな…。
……住む場所なんて、もっと簡単に見つかると思っていた。びっこを引きながらの帰り道、途方に暮れながら浜辺で美しい海を眺める。こののんびりした感じ、やっぱり向島がいいな。
お腹もすいたしcafeに向かおう。
友人の無農薬農園の野菜を使っているというcafeに着いて、おいしいご飯を食べながらスタッフの方とお話をしていたら、その方も移住者で、向島に住んでいるそうな!
そして、さすが尾道コミュニティ。大体みんなが知り合いだ。私の友人のことも知っていて、「その子の友人なら」と近所の空き家について聞いてくれるという。
キャンセル待ちのさっきの素敵な家も気になるけど、人づてで安く借りられたらそのほうが嬉しい。
7日目
だらだらとして過ごす。こんな時間も大事。
8日目
次の日はいったん熊本に帰る予定だった。
友人宅でだらだらと過ごしていた夜、先述のcafeスタッフさんから連絡があり、内見させてもらえることになった。偶然に偶然が重なっていく。人の優しさをしみじみと感じた。うれしい!
10日目
ドキドキしながら約束の場所へ。
つなげてくれたcafeスタッフさんと大家さんと家に向かうと、立派な一軒家が。家の持ち主の方は2年ほど前にご両親が亡くなり、たまに実家を片付けに来てはいたもののどうしようかと思っていたところだったそう。
2年間も空き家だったとは思えないくらい掃除が行き届いていて、この家を大切にされていたのが感じ取れた。2階部分はお蚕さんを飼っていた場所で煤で真っ黒になっており、住居用ではないらしい。
こんなに立派な家、私の希望予算を告げるのもはばかられたが、断られてしまったらそのときはそのとき。
「賃貸の相場を不動産屋さんに相談して、またご連絡しますね」とのこと。なんとなく好感触なイメージでその日は別れることになった。
熊本に帰り、待つこと1週間ほど。
「希望価格より少し高くなるけどどうですか?」と連絡があり、二つ返事でその物件借りることになった。なんだかんだと見てまわったが、結局は知り合ったばかりの人に紹介してもらった物件に決まった。
今回の来尾で家を決めるつもりだったから、もしキャンセル待ちがなければ”あの家”に決めていたはず。キャンセル待ちだったのも、この家に出会うためだったのかも。
出会いって大切で、まったく予想ができない。 素敵な家に、優しくて親切な大家さん。感謝しかない。
今、尾道でののんびりLIFEを順調に送っています。
(移住定住コンシェルジュ:元廣京哉、編集:アンドウ)