『高慢と偏見』【第1章】和訳
出来るだけ原文に忠実に翻訳しました。原著でイタリック体の箇所は該当する箇所を太字にしました。間違いがありましたらコメントもらえると嬉しいです🙇
原著本来の面白さを味わいたい人のお役に立てたら幸いです。また、これから読んでみたい人の参考にもなると思います。
第一章では物語の背景が夫婦の会話の形でコミカルに描かれています。今の時代感覚からはあまりに女性を馬鹿にしすぎですが200年前に女性の地位がいかに低かったかを、おそらく著者(女性)は皮肉をこめて書いたのだと思います。ちなみに、原文では少なくともこの第一章において「ミセス・ベネット」表記はされてません。「彼の妻」と扱われています。
→目次
第1章
多くの財産を持つ独身の男は妻を持つことを欲しているはずだ、とは世に認められた真理のひとつである。
そんな男が近所に越して来るとなれば、周囲の家では、この真理がしっかりと根を下ろしているので、男の気持ちや考えが少しもまだわからないというのに、その娘たちの誰かしらが男をものにするのが当然かのようにみなされる[訳注1]。
「ねえ、ミスター・ベネット」ある日、妻が言った。「ネザーフィールド・パークがついに貸し出されるって聞きました?」
ミスター・ベネットは、聞いていないと返した。
「ついさっきまでミセス・ロングがここにいらして何から何まで教えていただきました」
ミスター・ベネットは返事をしなかった。
「誰が借りたか知りたくないの?」妻はいらついて声を張り上げた。
「おまえが話したいんだろ。聞くのは構わない」
これは充分な誘い文句だった。
「ねぇ、あなたも知っておかないといけないことです。ミセス・ロングが言うには、ネザーフィールドを借りるのは若い男性で、大金持ち、イングランド北部の出身。月曜日に下見をしに四頭立ての馬車[訳注2]でいらして[訳注3]、とても気に入って、すぐにミスター・モリスと合意したそうよ。ミカエルマス[訳注4]の前にはその方のものになって、次の週末までには召使いがお屋敷に入るんですって」
「名前は?」
「ビングリー」
「結婚は?独身か?」
「まぁ!あなた、もちろん独身ですとも!すごい資産家で独身男性。年収4、5千ポンド。うちの娘たちにとって、なんて素晴らしいことでしょう!」
「どうしてだ?娘たちとなんの関係がある?」
「ねぇ、あなた」妻は返事した。「なぜ、そういらつかせるの!うちの娘たちの結婚相手としてってことは、わかるでしょう」
「そいつがこっちに住むのは、そういう魂胆なのか?」
「魂胆だなんて!ふざけてる、どうしてそんな言い方をするんですか!とはいえ、その方が、うちの娘の誰かと恋に落ちるかもしれません。ですから、その方が越して来たら、あなたにはできるだけ早く挨拶の訪問をしてもらわなければなりません」
「そうする理由がわからない。おまえと娘たちで行けばいい、いや、娘たちだけで行かせた方が良さそうだな。おまえは娘たちに劣らず美人だから、ミスター・ビングリーはおまえを一番気に入ってしまうかもしれない」
「あなたったら、お世辞を言って。たしかにそれなりにきれいでしたけど、今はもう特に美しくみせようとはしてません。年頃の娘を五人も持つ女性であれば、自分の美しさを気にかけるのはあきらめるしかありません」
「そういう場合の女性というのは、気にかけるほどの美しさがないのさ」
「とにかく、あなた、ミスター・ビングリーがご近所になったら本当に挨拶に行ってください」
「請け負いかねる、と断言しよう」
「でも、娘たちのことを考えてあげて。娘たちの誰かと、とても素敵なご縁となるかもしれないんです。サー・ウィリアムとレイディ・ルーカスは行くと決めています。知っているでしょ、普段なら新参者を訪問したりは、まずしない人たちです。あなたには本当に行っていただきます。そうでないと、わたしたちが 訪問できません」
「きっと、おまえは慎重すぎるんだ。おそらく、ミスター・ビングリーはおまえたちに会えばとても喜ぶと思う。それと、そいつがうちの娘たちの誰を選んでも結婚に同意すると保証する手紙を書いて渡してやろう。ただし、わが愛しのリジーを誉める言葉を入れさせてもらう」
「そんなこと、やめてください。リジーは他の娘たちより少しも良くないのに。あの子は、ジェーンの半分も美しくないし、性格の良さはリディアの半分もない。それなのに、あなたはいつもあの子をひいきする」
「うちの娘たちには、人に薦められるようなことが何もない」彼は答えた。「よその娘たちと同じで、愚かで物知らずだ。だがな、姉妹のなかでリジーが一番頭が切れる」
「ミスター・ベネット、どうして、そんな風にご自分の子どもたちを罵るんですか?わたしを苛立たせて楽しんでるのね。わたしの神経が細かいことへの気づかいもなく」
「誤解だ。おまえの神経にはとても敬意を払っている。古くからの友人だ。少なくともこの20年もの間ずっと、おまえがやつらを思いやって話すのを聞いてきたんだ」
「もう!わたしの苦しさが分かってない」
「おまえが、それを克服することと、年収四千の青年がたくさん近所にやって来るのを眺めて暮らすことを望んでるよ」
「そんな人が20人来たとしても、あなたが訪問しないつもりなら何の意味もない」
「約束する。20人になったら全員を訪問しよう」
ミスター・ベネットは、頭がよく回り、皮肉なユーモアがあり、本心を見せず、気まぐれで、これらが混じりあった変わり者なので23年間をともに過ごしてきた妻であってもその性格を把握できなかった。彼女の性格は、わかりやすかった。物わかりが悪く、知識に乏しく、いらつきやすい女性だ。不機嫌になると、自分の神経が病んでいると考えた。彼女の人生にとって重要なことは、娘たちを嫁がせること。慰めとしたのは、訪問と新しい話題[訳注5]だった。