いろいろあったから
なんにもわからなかった頃はさ。
ずけずけと聞いたものだ。
どうしたの?何があったの?ってさ。
あんなに仲が良かった二人が口もきかなくなったりさ。
あんなに笑っていたやつが急に静かになったりさ。
あんなに偉そうにしていたやつが妙にしゅんとしちゃったりさ。
急に言葉遣いまで変わっちゃったりさ。
何も感じないやつもいるよ。
敏感に感じることもあるよ。
それで聞いちゃうわけだ。
どうした?何があった?なんか困ってる?
ってさ。
そのすべての答えは「いろいろあったから」なんだ。
なんか事情があるんだ。
多分、いろいろないやつなんかこの世にはいなくてさ。
誰にでもいろいろなことが起きるんだよ。
でも起きる前はそのことがわからないんだ。
なんにもわからないままなんだよ。
だから聞いちゃうんだ。何があったのって。
でもいずれ自分にもいろいろ起きるのさ。
そうするとさ。
あ、いろいろあったんだなぁって。
事情があるんだなぁって。
察して、触れないようにするんだよ。
誰にだっていろいろあるもんなってさ。
だからね。
自分にいろいろあったあとだとしても。
どうしたの?何があったの?って聞ける人はね。
ずけずけと聞いているわけじゃないんだ。
ただのおせっかいでもないんだよ、きっと。
事情を察して、触れないという選択肢もあって。
その上でずけずけじゃなくて、わざわざ聞いている。
何があったかわからないけどさ。
いろいろあったからだろうけどさ。
どうしたの?ってさ。
声をかけてくれる人がいるのは幸せなことだと思うよ。
なんでもないよって答えればいいんだ。
なんでもなさそうなら、わかったって言うだろう。
なんでもなさそうじゃなきゃ、なんでもなくないだろって言うだろう。
だってさ。
誰にだっていろいろあっただろうからさ。
いろいろあるよねぇ。
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