場所
えっ!って声が出た。
京都みなみ会館さんの9月閉館のお知らせ。
つい先日、シアターセブンの上映の時に挨拶だけでも出来たらと足を運んだばかりだったから。残念ながら挨拶することは出来なかったのだけれど。
写真でしか見たことがなかった京都みなみ会館さんはとても綺麗で想像とまったく違っていた。
京都にはミニシアターが想像以上にあって。大阪よりも多いというイメージ。小さな映画館が似合う街なのだなぁと思っていたのだけれど。
名古屋シネマテークと違って実際に会って話したわけでもないから、事情も分からないし、感傷に浸るのも何か違うし。
ただただ危機感だけは感じている。
AFFとかあったけどさ。
全国のミニシアターも申請したのかな。
あれですごい数の小劇場や映画が助成金を受け取ったと聞く。
その助成金結果報告が必要だからという理由での公演や上映、オンライン公開もたくさん存在していた。
でもソフトパワーばかりじゃさ、ハードがなければどうにもならないよ。
申請しなくても自治体側から手を差し伸べて欲しかったとも思う。
こういうときに「映画好きにとって大切な場所」という言葉を見かける。
それはとても痛切で、心から出た言葉だ。実際に多くのファンに支えられているという現状があるのだと思う。
でも同時に僕はその言葉に危機感を覚える。
なぜならその言葉はとても閉鎖的だからだ。
小劇場やミニシアターをサブカルチャーという檻に閉じ込めかねないと思うからだ。
映画好きじゃなくても、誰が足を運んでも心が落ち着く場所であるべきだと思う。
それこそ持ちビルでオーナーが趣味でやってる喫茶店とかは別にいい。
好きな人だけが来ればいいというお店もきっとたくさんある。
でも映画はそうじゃないと思う。
僕が学んできた歴史の中で、例えば70年代なんかは演劇はカルチャーの最先端のモノだった。音楽、絵画、美術、あらゆる総合的な芸術である演劇はその時代の若い才能が結集している場所だった。唐十郎や寺山修司の元に集まった才能を見返せばすぐにわかることだ。
映画だってそう。ミニシアターブームの時代、映画はありとあらゆるアートの中心地に立っていたはずだ。ファッションも音楽もお互いに影響を受け合って成立していた。
決して映画好きの人だけが訪れる場所なんかじゃなかった。
最先端のモノ、前衛のモノ、これからくるであろう何かの始まり。
それを探す場所が映画館であり劇場だったはずだ。
今の時代、映画ファンに受け入れられないとダメだと言われる。
それはそうなのだろうし、大事なことだと思っている。
でも同じぐらい、映画ファンじゃない人たちにも届いて欲しいと願う。
あまりサブカルっぽさや、映画ファンだけの聖地という雰囲気は良くない。マイナスになる。
でもいるんだと思うのだよ。
映画好きじゃない人には来て欲しくないなぁとか。
どうしても閉鎖的な考え方になってしまう人は。
それはそれでわからなくもないことなのだけれどさ。
映画ファンはマナーとか素晴らしいし、作品の背景まで観ようとしてくれるし、製作者へのリスペクトも持っているしさ。
最高級のコーヒーを熱いって言って氷を浮かべたら、コーヒー好きは厭な目で見てしまうもんね。そりゃ、仕方ないことなのだ。
それでもね。
僕はそれでも、いいじゃねぇかな考え方があっていいと思ってる。
マナーだって実はいつの間にか出来た幻想だしさ。
たまに映画館に海外の方がいるとゲラゲラ笑ったり手を叩いたりするもんね。日本独自のマナーなのかなって思ったよ。
でも映画館を運営していればどうしたって常連のファンを大事にせざるを得ないのだろうと思う。
そりゃそうだよなぁ。
でもきっと。
ほんとうは、誰でも行っていい場所。
ふらっと入っていい場所。
年に一度でも、月に一度でも良い場所。
もう少し気軽で、でもやっぱ楽しくて、心が動く場所。
映画ファンじゃなくても、ふと思い出していってみようかなって思える場所。
僕はそういう場所こそ、文化的だよなぁって思う。
だからさ。
映画好きな場所が閉館するんじゃないんだよ。
文化的な可能性がまた一つ消えてしまうんだよ。
そう思うようにしている。
映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
「ほんとう」はどちらなんですか?
◆終映◆
2023年3月25日(土)~31日(金)
K'sシネマ (東京・新宿)
2023年4月15日(土)16日(日)
シアターセブン(大阪・十三)
2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
出演
藤井菜魚子/河原幸子/広田あきほ
中野圭/織田稚成/金子透
安藤聖/樋口真衣
大多和麦/西本早輝/小野寺隆一
撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟 録音 高島良太
題字 豊田利晃 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希 制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき
【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。
家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。
やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。