「エコロジー・リーディング」と名づけてみる no.2〜「方法」に着目して〜
山本貴光氏の「文学のエコロジー」(講談社 2023年)にヒントを得て、文学の授業実践「エコロジー・リーディング」の開発について考えている。
今回は、「文学のエコロジー」の第Ⅰ部「方法」についての感想をまとめる。
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第Ⅰ部「方法 ――文学をエコロジーとして読む」
第Ⅰ部では、文学作品をプログラマーのように読むための方法が語られている。
冒頭で、夏目漱石が定式化した文学的内容の形式が示される。
文芸作品とは、言語によって「認識」や「情緒」を表しているということである。
続けて、鍵概念となる「エコロジー」についても引用が登場する。本書では「エコロジー」をドイツの生物学者 エルンスト・ヘッケルの「有機体の一般形態学」に示された、
と捉えている。
この定義のもと、文芸作品に描かれた世界の「エコロジー」を読んでいく、という方針が示される。ところで文芸作品に限らず、「エコロジー」とは流動的なものである。生物も変化するし、周囲の環境も変化する。文芸作品も展開されるからこそ読み応えがあるわけである。
この変化する「エコロジー」をみるために、「シミュレーション」という方法が導入される。
シミュレーションは完全再現ではなく、簡略化を伴う。というか、簡略化するからこそシミュレーションが可能となるわけである。ただし文芸作品を簡略するにあたって欠かせないのが次の2点だという。
オブジェクトと作品世界に働く法則のふるまいによって、シミュレーションには、文芸作品の固定化された展開とは別の展開が生じ得る。この「シミュレーションがとる多様な状態」(p.30)の視座から、文学作品を観察する、というのが本書で示された方法である。
シミュレーションという方法から考える文学の授業
文芸作品は言語によって固定化されているため、展開も一つに固定されている。しかし、シミュレーションという方法は、その固定を解放する。文学の授業において、もちろん固定化された展開を適切に読み取る力も重要である。だが、作品世界を深く読み、その世界に存在するものや仕組みを理解したとき、語られなかった世界を読むということも、文学の授業の可能性としてあるのではないだろうか。
こうした、いわゆる空所を読むということは国語科教育の中でも追究されてきたところではあるが、空所という「点」を読むというよりも、作品世界を成り立たせている空間のような広がりを読むことで、自然とイメージが生起するような読み…このあたりが「エコロジー・リーディング」の価値ではないかと思っている。
次回は先を読み進めたい。